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世界銀行グループについて教えてください。

回答

国際復興開発銀行(IBRD)および国際開発協会(IDA)と2つの機関を中心に、国際金融公社(IFC)、多数国間投資保証機関(MIGA)、国際投資紛争解決センター(ICSID)を加えた5つの国際機関で構成され、貧しい国々の経済を強化することによって貧困を削減し、かつ経済成長と開発を促進することによって人々の生活水準を改善することを目的とした国際金融グループです。この目的のために実施するプロジェクトのために、加盟国へ低利子融資や助成金など整備資金を提供しています。

ポイント

  1. 先進国復興と途上国支援のために設立され、現在は貧困削減が最大の目標

  2. アフリカ支援のための融資が拡大

  3. 日本は主要な出資国として貢献


ポイント解説

1.
世界銀行グループ(本部所在地:米国ワシントンD.C.)は、国連の15ある専門機関の1つで、世界120か国以上、140以上の現地事務所で、エコノミスト、公共政策、セクター別、社会科学分野の専門家など幅広い分野の職員を含めた1万人以上が勤務しています。借入国との協力や連携を密にし、迅速にサービスを提供するために、全職員の3分の1以上が国別の現地事務所で働いています。

1944年7月、米国ニューハンプシャー州ブレトンウッズで、世界経済の安定と戦後の復興について協議が行われた結果、国際復興開発銀行(IBRD)国際通貨基金(IMF)の設立が決まりました。この国際復興開発銀行(IBRD)と、その後設立される国際開発協会(IDA)の2つの組織のことを世界銀行と呼びます。
その後、国際金融公社(IFC)、多数国間投資保証機関(MIGA)、国際投資紛争解決センター(ICSID)と関連する3組織が加わり、世界銀行グループが形成されました。

世界銀行グループの活動内容|世界銀行HP情報から筆者作成

設立当初は先進国の復興が重要な任務でしたが、現在は包括的かつ持続可能なグローバリゼーションを通じた貧困削減が最大の目標となりました。そのため、世界銀行グループは、2030年までに具体的な2つのKPIを設定しています。
① 1日1.90ドル未満で暮らす人々の割合を3%以下に減らすこと
② 途上国で所得が下位40%の人々の所得を引き上げること

この具体的な目標のために、途上国へ低利貸付や無利子融資、贈与が提供されており、教育、保健、行政、インフラなど幅広い分野おいて、経済発展に資する投資が行われています。取組み成果の一例を載せています。

年次報告2023|世界銀行

2.
世界銀行グループが毎年発行している年次報告書(下図)で、2023年度は世界銀行グループ全体で128,341百万ドル、日本円で約17.9兆円(140円/ドル換算)が予算(承認額)計上されていることが報告されています。

承認額の割合を地域別に見てみると、アフリカ30、欧州・中央アジア28%、ラテンアメリカ・カリブ海14%、南アジア12%、東アジア・太平洋10%、中東・北アフリカ6%と、アフリカ支援に重きを置いていることが分かります。
IBRDとIDAを個別にみると、アフリカ諸国に対する承認額は、IBRDでは8ほどであるにもかかわらず、IDAでは75%に達します。IDAは最貧国へ援助を行うものであるため、その割合が著しく高いことは、世界的にアフリカ諸国の経済状況が好ましくないことを示しています。

年次報告2023|世界銀行

3.
日本は世界銀行への主要な出資国の1つです。
IBRDでは、加盟国の出資を資本として資金調達し、その資金を途上国に対して融資しています。国連SDGsの活動で大規模な資金が必要となったことから、2018年4月に、加盟国は600億ドル、日本円で約6.6兆円(110円/ドル換算)の増資を決定しました。日本は36.3億ドル(全体の6%)を追加出資で負担しました。
また、IDAへの増資も数年ごとに行われており、直近では、2021年の第20次増資において、日本は過去最大の3,767億円を拠出しています。

IBRD増資と日本の貢献|財務省

今月開催されたCOP28において、気候変動の悪影響に伴う損失及び損害(ロス&ダメージ)への対応として、気候変動の影響に特に脆弱な途上国支援のために、新たな基金が世界銀行の下に設置されることが決まりました。まずは19か国総額7億9,200万ドルを拠出します。世界銀行への拠出額は増加傾向にあります。

毎年、財務大臣や中央銀行総裁など最高責任者が参加する世界銀行・IMF年次総会が開催されています。2023年10月、モロッコで開催された総会に鈴木財務大臣が出席され、世界銀行に対して、譲許的資金(低金利、長期)の有効活用のため対象国を厳選すること、国際保健分野の強化を目的とした基金が設立した場合には10百万ドルの拠出を行うこと、気候変動問題に関わるネットゼロに向けた取り組みに協力することなど、地球規模の課題解決へ引き続き協力する旨を述べられています。日本は主要出資国の1つとして貢献することが期待されています。

逆に、日本は戦後復興のため、世界銀行から融資を受けていた時期があります。

日本は世界銀行に1952年8月に加盟しました。その翌年、1953年10月、初めての日本に対する世界銀行の貸出案件3件(関西電力、九州電力、中部電力)がワシントンDCで調印されました。資金使途は3件とも火力発電所の整備のためのものでした。日本はこの電力案件以降、鉄鋼、自動車、ダム建設、道路・輸送セクターと、世界銀行から融資を受けて、1966年まで総額8.6億ドル、計31件名のプロジェクトを完遂させました。この中には東京から大阪を結ぶ東海道新幹線も含まれています。このインフラ整備により急速な経済成長を成し遂げ、借金は1990年には完済しています。Japan αs No.1の時代でした。

日本国有鉄道 東海道新幹線 ~ 日本が世界銀行から貸出を受けた31のプロジェクト|世界銀行

〈参考〉

あとがき
途上国開発において登場する世界銀行グループですが、一昔前、日本の高度経済成長期において数々のプロジェクトに関与していました。昨今は、その成果物である発電所や製鉄所などのインフラ設備が老朽取替の時期を迎えており、歴史の転換期であることを実感しました。