ビビアンの帽子
ハイブランドと言われるものにあまり興味がなかったせいか、どのブランドがどんな価格帯でどれくらいのランクなのかについては全く無頓着だった。
ファッション自体はとても好きなのだけれど、ブランドではなくデザインでしか選ばないのであまりどこどこの、ということへのこだわりがなかったのである。
Vogue誌に名を連ねるような、もしくは百貨店に必ず入っているようなブランドでも、「あー、なんか有名なとこでしょ」ぐらいの感覚だった。
遠距離恋愛をしていた彼氏がいた頃、相手の地元まで行ってデートをしていた。
彼は車持ちだったから、現地での移動は気にする必要がなく、いろいろな場所に連れて行ってもらった。
滞在何日か目のこと、どんな用事かは忘れたが買うものがあるとかなんとかでその地元最大の百貨店に車で立ち寄った。
駐車場に車を停め、館内を回って用も済ませたのち戻ろうとしたが、あと2,000円の買い物で駐車料金が無料になるとのことで、彼が「何か欲しいものある?」と聞いてきた。
「買ってあげるよ」と。
我々がいたのは1階のインフォメーション。
歩き疲れた自分はあまり階を移動するのも気が引けて、近くにあった可愛い帽子を直感で手に取った。
「これ。」
それはヴィヴィアンウエストウッドのベレー帽だった。
ヴィヴィアンといえば知人にも愛好者が多く、アクセサリーや小物を持っているのをよく見かけた。
そこまで高価ではなくカジュアルに楽しめるブランドというのを知らず、ただ"聞いたことある"程度のヴィヴィアンのロゴを見た瞬間、これがとてつもないハイブランドだったらどうしようと思った。
駐車料金無料のために必要なのは2,000円分の買い物なのに、ずいぶん高くついちゃいそうだなぁ、駐車料金払う方が結果安いんじゃないの?
…まぁ、その時の心境としては、そういうわけで申し訳ないが半分、彼に買ってもらえてラッキーが半分だったわけだが。
彼は何のためらいもなく帽子を引き取ってレジに持って行ったが、出た値段はさして驚くような高価ではなかった。
だがこのとき完全にヴィヴィアン=超高級ブランドと思っていた自分は訝しみ、思わず店員さんに「これ偽物じゃないですか?」と聞いてしまった。
………何たる失礼。
こんなにリーズナブルなはずがない、という意味を店員さんはきちんと受け取ってくれたのか、にこやかに「本物ですよ」と答えてくれた。
こうして駐車料金のために手に入れたベレー帽は、めでたく我が頭を飾り、適正な価格を知るに至ったのであった。
と言っても、やはり2,000円は優に超えていたけれど。
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