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風、バタフライエフェクトを起こす!

その人は近くて遠い場所で歌っていた。
ピアノの前に座り
しなやかな指で奏でてゆく。
小さく見えているその人から届く音楽を
ひとつも漏らさず聴きたくて、
目と耳と心で集中する。
その人が声を発する瞬間、
歌に心を乗せる直前のブレスの音も
ちゃんと私の耳に届いた。
息をしてる。
生きている。
なんて美しい時間なのだろう。
その人は真っ白い光そのものだった。



藤井風LAATツアーの
さいたまスーパーアリーナ公演を観た。
たまアリ史上最大の観客動員数とのことだった。
2日間で約74000人!
それほどのたくさんの人々が
「藤井風」というひとりの人間のために
集結したのだった。
今回やっと私も
この大いなる聴衆の中のひと粒になれた。
初めてナマの藤井風さんの音楽を
体に取り込むことができる喜びで、
私の細胞も活のいい魚さながら
ピチピチと跳ねていた。
会場に着く前から心がにこにこしていて、
もうすでに幸せは始まっているのだなと
気づいたのだった。
楽しい。
にこにこ。

今日の段階でツアーはまだ終わっていないので
詳しい公演内容については書かないことにする。
以下は私の個人的な感想だ。

会場時間になると、
たまアリ付近を多くの人がそぞろ歩いていた。
お揃いの服でキメた女の子たち。
紫のトートを持った年配のご夫婦。
すげーすげーと連発する男子大学生コンビ。
耳を守るイヤホンを付けた
小さな子供連れファミリー。
私のような単独行動の人たちも
もちろん沢山いて、
その誰もが心の中でうきうきしているのが
分かってしまった。
みんな喜びがダダ漏れなのだ。
この日のために皆、
仕事の日程を調整したり
家族のご機嫌をとったり笑
風邪などひかないよう健康に気をつけて
過ごしたりしたはずだ。

"I AM YOU"


会場内に足を踏み入れると、
中央に造られたセンターステージが
目に飛び込んできた。

センターステージ!

そこに愛を感じて、じんときてしまった。
どの席からも風さんの一挙手一投足を
見ることができる。
みんなの観たい気持ちをわかっているステージに
まずは心動かされたのだった。
楽しみにしていたライブが全然見えなかった時、
がっかりして帰る人の背中はとても寂しい。
だからこそ
このステージは本当にありがたいと思った。
風さんはこの円形のステージを歩き回り、
曲ごとに正面を変えて歌い、弾き、踊った。
(踊りながらでも息が上がらないし
音程もブレない。すごいことだ)


歌う風さんは神様の子どものようだった。
とにかくやわらかいのだ。
無邪気で天真爛漫。
音楽の神様に深く愛されている
特別な存在なのだとすぐにわかった。
妖艶だったり
力強かったり
コミカルだったり
色香がほとばしったり
いろいろな顔を見せるけれど、
MCや所作に
優しさとやわらかさが自然と溢れ出ていた。
このひとはかわいい。
他の誰とも似ていない。
このような人に遭遇したのは初めてだった。
彼の幸せな笑顔がみんなを幸せにするという
循環が起こっていた。
それが音にも乗るのだろう、
どこまでものびるロングトーンは
会場の隅々まで行き渡り、私たちを包み込んだ。
揺かごに揺られるように安心した。
踊る人の手の波を見渡す。
コールアンドレスポンス。
受け取るばかりじゃなくて、
こんなにもたくさんの人が
君を待っていたんだよ、
大丈夫。と、
渡したい気持ちにもなった。
私の瞳は潤んだ。


キャパの広い会場なので風さんは遠い。
それでもその波動は
たしかにここまで届いていた。
たったひとりのたったひとつの起点から
発せられた優しい波動は、
やがて増幅して大きなものになった。
それはライブ終了後もずっと私の中で残り続け、
心がほかほかとあたたかいままだ。
そして
心があたたかくなると、
常に優しくありたいと思うようになるのだ。
まわりを見回してみる。
私は今日、優しくあっただろうか。
人に寄り添うことができていただろうか。
これは風さんがもたらした
バタフライエフェクトのようなもの
なのではないかと思う。
(バタフライエフェクトとは
蝶の羽ばたきのような微かな風の動きが
やがて大きなうねりに繋がっていくことを意味する)

少し暗いことを書くと、過去には
生まれて来ない方がよかったのではないかとか、
私は生きているだけで邪魔なのではないかと
思っていた日々があった。
けれども生きていなかったら、
素晴らしい音楽に出会うことも
風さんのライブに行くこともできなかった筈だ。
今、私が生きていることは正しい。
生き方が正しいかどうかはさておき
(悩み多き人生だ)
とりあえず「生きていること」自体は
間違いではなかったと思えた。


美しいものや心揺さぶられるものに
ひとつでも多く出会い、
人生を豊かにする。
そしていつかこの世に終わりを告げる時に、
生きていて楽しかったよ!と
言いたいと思う。
そう伝えることで誰かが安心したり、
アイツがそう思うくらいなのだから
生きるって悪くないかも、と
思ってもらえるといい。
風さんが起こしたバタフライエフェクトは
人の生きることにまで広がっているのだから、
まったくたいしたものだよ。
本当にありがとう。
やわらかくて気高い愛をありがとう。
風さんには
心のままに自由に
何ものにも縛られることなく
音楽を作り続けられるところで
生きていてほしいと願う。
それが結果的には
誰かを救うことにさえ繋がっているのです。

#藤井風 #藤井風アリーナツアー



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