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中国の自動運転業界の現状を調査/サマってみた

 中国の自動運転は2023年後半に[政府による要件/規則の公表]や実験運転許可の複数発出などを通じて、EVに次ぐ政府施策として盛り上がってますが、昨今の業界状況はどうなのか少し調べてみました。
 完全自動運転に対する見方は業界内でも分かれますが、当面はADAS販売や他国展開で糊口をしのぎつつ進めて業界を作っていく動きが起こっています。一方で米国での最近のCruiseを取り巻く環境変化に対しては各社注視しています。いずれにしても自動運転業界も米中のつばぜり合いが激しくなってきそうです。

1;自動運転のトレンド

 数年前にロボタクは中国のVC業界の希望の星だったが最近は凋落気味…。Deeproute/WeRide/Pony/Momentaなどの新興各社は増額で数億ドル規模の資金を調達し、R&D/ロビイングなどに資金を注込んできたのだが。
 企業評価額の上昇につれて事業化/商業化が程遠いという現実が…。あまりにも評価額が高く、投資家にとっても法外であり収益化が急務に。資金化に際しても調達環境悪化(金利アップ)や米中対立(安全保障)でIPOもM&Aも厳しくなっている
 各社とも自動運転にはいったん見切りをつけてこれまで構築した事業を他国展開したりPivotしたりして過渡期の収益獲得にいそしむが…色々と困難がある

2;ロボタク事業での資金消失

 数年前から自動運転技術への期待/進歩/宣伝が為されるが、広く利用/実用可能になるのは依然として遠い。安全性/規制/事業コストなどの課題が重なっており、中国では各事業者の姿勢をより保守的にさせる大きな要素
 ロボタク事業化は最終的に人間運転手不要での運用(=コスト削減)が期待。中国政府交通部は商用ロボタクの要件(人間による監督の必要性)及び規則を公表したが、ロボタクは現状で制限区域のみ許可。顧客体験と継続利用担保のために各社は販促強化(大幅割引やクーポン)するが、[値引無し][好奇心薄れ]となった時点での支払意欲(WTP)は見通せず
 中国の多くのロボタク事業者は[事業見通しの暗さ][WTPの低さ][対応コストの大きさ]に目覚め、特に米Cruiseの人身事故後の規制当局の対応やその後の事業停止で、一度の事故のインパクトが多き過ぎると認識

-各社のコメント/認識(Deeproute,WeRide,Pony,Momenta,Baiduなど)-
(1)悲観派
-[業界リーダーのCruiseでさえ"車両1台:1.5人のオペレーター"が必要であり、ロボタクは事業成立には程遠い。事業成立には”車両1台;オペレーター0.9人”の水準でないと無理]
-[人車比率は若干誤解を招きやすく、ヒトにはリモートアシスタントだけでなく、清掃/充電/修理維持などの業務人員も含まれる]
(2)楽観派
-[運営上黒字化する前に、数年以内にロボタク運営の地域単位のU/Eで損益分岐点を達成することを目指す。そのために販促強化して顧客基盤を形成する]
-[実現は遠いが市場は徐々に拡大、完全自動運転は関連産業のすそ野も広いのでいざとなればPivot余地が大きい]
(3)楽観派
-[ロボタクが利益を上げるには下記計算で、基本的に収益は人間のオペレーターのコスト排除から創出される]
-[タクシー運転手の年収を1.7万ドルとすると、ロボタクは5年走行で最大8.5万ドルを節約できる。また、ロボタク製造コストが7万ドル/台とすると、1台の車両収益は5年間で約1.4万ドルになる]
(4)中立派
-[規制当局/国民の両方がどう見るかが重要でCruiseの件は信頼の脆弱性を浮き彫りにした。経営陣が目指す利益を実現するには遠く、それまでの間は生き残りをかけた事業構造の発掘が求められる]

3;収益化への施策

 自動運転技術の収益化で最も手っ取り早いのはADASの販売で下記に列挙する企業はシフトとしている。完全自動運転よりも技術堅牢性が低い[人間の介入が必要]な運転支援システムへの移行
-Deeproute-
 Alibabaの関連会社である同社は2023年にロボタクシー事業を大幅に縮小、ADAS供給に軸足を移した。SWとLidarを利用したプロダクトで生産が比較的容易であり価格も2000ドル程度でお手頃。
-Baidu-
 中国の検索サイト/情報通信の老舗であり、[自動運転のエベレスト]と呼ぶ完全自動運転実現への途中での収益獲得に向けたADAS販売を行う。技術スタックはダウングレードしつつ、インストールしやすさを売りに
 広報担当者は[当社ソリューションを車両に導入して得る経験/洞察は自動運転技術に取り入れられ、セキュリティ/データに関して差別化要素となっている]とする
-Momenta-
 Toyotaも出資する同社は長年にわたりADASをOEMに販売しつつ、自動運転技術に開発に活用。ADAS搭載車から収集したデータを使用してLv4アルゴリズムに情報提供。当該アプローチで同社は様々なOEMとのNWを構築することを実現した

4;自動運転/ADASはカネになるのか

 自動運転関連企業は多額の資金と期待を集めるが、実現性/収益性は意見が分かれる…
(OEM事業は過渡期の手段)
 システムのOEM販売収益はロボタク運営に比べて限定され、ロボタクの拡大性に比べると小さい(ロボタクが数十万台規模になれば10億ドル規模になるはず)。中国での新車販売は2000万台水準で、ADASライセンス料は精々200ドル程度(ライフサイクル次第)とすると限定的だし、PL責任を勘案すると見合わず、結論としてOEMビジネスはロボタクの潜在的な収益にさえ及ばない
 また、消費者がスマート運転を望んでいるかどうか疑問という問題も。中国のOEM/EV専業メーカーは一定レベルの高度自動運転機能をデフォ搭載している。
 ロボタク業界では[多くの消費者はADASはオプションと考え、OEMとサプライヤの関係性は微妙で以前ほどADAS需要は伸びていないし、OEMが独自にL4ソリューションに取り組んでいるので、独自に行うのは無駄ではないかと
(OEMとの協業関係)
 ADASに関するOEM/サプライヤの関係は[協力的な競争]とする意見もある。従来OEMはSIER/サプライヤのナレッジシフトに依存、社内での自動運転技術への投資にそれほど熱心ではないのがその根拠
 OEMとの契約は締結後もユーザーデータの共有に消極的になる可能性が高いとの意見もあるが、OEMは自社SW機能のデバッグ/改善に協力を求めるため、データ共有はパートナーにとってwin-winとなりうる
(OEMとの協業の困難性)
 OEMとの協業には長くて困難なプロセスが必要でカスタマイズ/調整に工数掛る。協業関係構築には10年近く必要でビジョン/方向性の同期化が求められる。プロダクトは高度にカスタマイズされ、開発段階が進むにつれて調整工数が大幅に上がる。調整は経営幹部からエンジニアまで、様々な関係者を巻き込む必要

5;他の施策

 中国のロボタク事業者は、生存をかけて政府契約に依存している
[1;WeRide]
 GACとの相互資本提携を2021年に開始し、広州汽車との提携も加速。GACはWeRideに戦略的投資、WeRideはOnTime(GAC傘下のオンデマンドタクシー)に投資を行い、OnTimeはWeRideからサービスを調達する
 広州市(中国南部/人口1500万人)では、自動運転バス及び配送バンのネットワークを運営するが中国行政機関との連携は[労多くしてみ少なし]な状況ではある
 財務/事業に係る現実性や確実性は低いし悲観的だが、WeRideは資本調達の動きを進める。23/08には米国でのIPOに向けて中国政府の許可を得たが、状況は刻一刻と変わって今ではかなり厳しい状況に…。米国当局が義務付ける越境データ転送が国家安全保障上の脅威となる可能性を懸念している
[2:Pony.ai]
 中国で最も高評価なロボタク事業者で引き続き首位の位置にある。沿岸地域でのR&Dを積極的に推進、自動運転の野望の幅広さには米国の先行事業者(CruiseやWaymo)に引けを取らない
 ただ、中国規制当局からの支持を得られずIPO計画は頓挫。収入源の多様化に努めるており、自動運転トラック事業に注力してる。トラック部門/乗用車部門を統合する組織再編を実施するも有力なマネジャーが退職するなど事業の行方は不透明…
[中東を目指す動き]
 国内事業/資金調達が困難な中でいくつかの企業は中東に進出。中東は10年前の中国と同様にゆるい規制/潤沢な資金を兼ね備える比較的未開発の市場
 -Ponyは自動運転の実装に向けてサウジ政府から1億ドルを調達
 -WeRideはUAEで初の自動運転試験許可を確保

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