蘭越収穫_-2

そばの「3つのウィークポイント」とは?

「そば」は日本の食文化に深く根付き、極めて理にかなった健康食だということを前回お話しました。しかし、全ての食べ物にリスクがあるのと同様に、そばにもウィークポイントがあります。
今回は、私の考える「そば」のウイークポイントについてお話しします。
これは、そのまま現在の蕎麦業界が抱えている課題でもあります。また、この課題を克服する活動も、併せてお話します。

私の考える「そば」のウィークポイントとは
①アレルギーがある  
②菌数が高い     
③生産が不安定 
 

まだ読んでない方は、前回のセールスポイントについてもどうぞ。


①アレルギーがある

そばの最も大きなウィークポイントがアレルギーです。
そばは、表示が義務付けられているアレルギー(特定原材料7品目)の一つに指定されているので、製造者としては非常にやっかいな食材です。
しかもHACCPが本格的に始まり、コンタミに対する社会的関心が高くなり、そばを使ったお菓子の開発や、蕎麦屋さん以外の飲食店でのそば由来原料の使用に対して大きく消極的になってしまいました。
給食や食育にも使えません。蕎麦業界にとっては、アレルギー問題を解決しなければ、将来もとても大きなハンデを背負うことになります。

これに対する対策としては、品種改良を行いアレルゲンの無い品種を育種することが考えられます。
現在は、農水省系の研究機関や大学が中心となって、低アレルゲン性そばを育種中です。今年は、そばアレルギー症状を持っている方の血液を集めて臨床を行うところまで予定されているようです。
ただこれは、低アレルゲン性の開発であって、アナフィラキシーといった重篤な症状が出ないことを当面の目的としていて、完全なノンアレルゲンそばはさらに今後の開発となります。さらに、このような品種ができても、従来のアレルゲンを持つそばとのコンタミ対策には大きな課題が残るという声もあります。私としては低アレルゲン性そば品種が開発されれば、限定的ではありますが食育等への利用を考えています。そしてこれが蕎麦業界のアレルギー対策の大きな一歩になる事を期待しています。

②菌数が高い

2つ目のウィークポイントは菌数が高いという事です。
そば粉は小麦粉に比べて100倍位微生物が多く、一般生菌数で10の4乗から6乗(個/g)検出されます。つまり、腐敗しやすいという事です。
そばには「三たて」という言葉があります。「ひきたて」「打ちたて」「茹でたて」がいいという言葉です。そば打ちをするときには、そば粉に水を加えますが、その加水によって菌数がさらに増殖するので、腐敗速度が加速します。昔から伝わる「三たて」は、そばの菌数の多さからできたのでしょう。
また、茹でると菌数は大幅に減るので、たとえ原料の大腸菌群が陽性であっても今まで問題になる事はありませんでした。

ただ、賞味期限の延長や、近年の安全安心意識の高まりから原料での菌数低減の要望が多くなってきました。ここでは、原料の段階で菌数を減らすことはできるのか、その考え方について簡単にお話します。
○製粉後の段階
まず、通常の方法によりそば粉を製粉した後、エクストルーダー等の機械で加熱殺菌するのが一般的です。確実に菌数をコントロールできるメッリトがありますが、デメリットも多くあります。
・香りが飛んでしまう
・色が黒くなる
・コストがかかる

お金と手間をかけて香りを飛ばすことになるので、お客さまから強く求められた場合のみの行います。その場合も菌数を0にするのではなく、小麦粉並みの10の3乗レベルまで減菌するのが現実的です。

○製粉前の段階
玄そばの研磨で見かけはきれいになるのですが、菌数まで減らす効果はあまりありません。そこで、玄そばや丸ヌキの段階で過熱水蒸気を利用して殺菌する方法があります。製粉後の段階で殺菌するときのデメリットをかなり低減する事ができるので、今後は主流になりそうです。
ただ、装置が高価で広い設置スペースが必要なことやコンタミ範囲が広くなることがデメリットです。

○栽培の段階
農業では土づくりで堆肥を使います。特に有機農業では欠かせません。
この場合、生あるいは半生の堆肥を使用すると、大腸菌汚染の原因になりかねません。現状の生産現場を考えると、この段階での菌数コントロールは非常に困難です。
堆肥を使う場合、確実な完熟堆肥を使用する事が望まれます。
また、農業現場で食品工場なみの衛生管理を行う事は現実的ではありませんが、ある程度の意識向上が求められる時代になってきました。

③生産が不安定

上記①②とは種類の異なるウィークポイントですが、蕎麦業界の大きな課題です。
例えば、コメにも不作や豊作という言葉がありますが、かなり安定した農作物と言えます。作況指数(その年の収量を平年収量と比較した割合)で110とか90というのはあまり聞いたことがありません。そばは全国の収穫量が半分位になったり倍位になったりすることもありますし、個人の畑レベルでは今年の収穫量がゼロというのも珍しい話ではありません。
不作になる主な要因は雨と風(天候)です。特に湿害。出芽期に数日雨が降ると大幅な減収になります。
対策としては、品種改良栽培技術の向上(特に畑の排水対策)があります。
品種改良は、風による脱粒対策、病害虫対策、穂発芽対策等はかなり進んでいますが、湿害対策は進んでいません。湿害に強い遺伝子が見つかっていないからです。そばの世界もゲノム情報を使いながらの育種が盛んになってきましたので、今後の研究に期待しましょう。
栽培技術の向上としてもいろいろな方法があります。例えば湿害対策としては、畑に明渠・暗渠といった溝を掘ったり、心土破砕といわれる、地中に雨水が染み込んでいくような対策も行われている畑もあります。ただ、まだまだ進んでいない畑も多くこれからの普及が課題です。
他にもお話ししたいことが多い部分なので、いずれこの部分だけをまとめてお話ししたいと思います。

リスク&ベネフィット
リスクコミュニケーション的にお話しすると、すべての食べ物にはリスクがあります。
その「リスク」と「ベネフィット(利益・恩恵)」を比べて、ベネフィットの方が大きく上回るので、「そばは健康食」と認知され食べられている訳です。
今の時代はリスクをきちんと説明する事が必要であることと、それを克服するための活動も知って頂きたかったので今回のnoteとなりました。


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