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魚屋のように本を売る/出版社とフリーランスが生き残るための1000の試論

この試論は、新規出版社が大手との格差をどう埋めていくかが大きなテーマだが、数少ない、大手と互角以上に戦えるカテゴリーが「手売り」である。

1000円の本が書店で1冊売れると、KADOKAWAなら710円入るが、ウチのような新規出版社は550円から650円しか入らない。

しかし、手売りであれば、そこに差は発生しない。KADOKAWAの人が売っても僕が売っても、入ってくるのは1000円である。

そもそも大手の人は、手売りをしたがらない。大手に共通するというか、KADOKAWAでも講談社でも一緒なのだけど、やたらと稼働を渋る。

理由を聞くと、異口同音に「人件費を考えてください」とのこと。平社員で窓際の50過ぎのおっさんが年収2,000万円もらっている講談社基準だと、確かにそうかもしれない(ちなみにKADOKAWAは役員でも年収2,000万円くらいらしい。夢ねぇな! と不動産投資に興味をお持ちのKADOKAWAの人が言っておりました)。

でも、おそらくは単に面倒なんだと思う。手売りをしなくても、高い料率で書店販売できるわけだし。

また、手売りは書店とバッティングするという配慮もあるだろう。手売りイベントが体験としてSNSなどでシェアされて、二次的に書店購入につながっている印象が強いので、僕はそこまで気にしていないが。

手売りの良さは、大手と格差がないというのもあるが、それよりも、その本の良さを語れる人が売ると強い、という当たり前のことを再認識させてくれるのが大きい。

1日200タイトル以上の新刊が出る現在の出版業界では、販売する書店側もほとんどの商品の内容を把握できない。魚屋では、たいてい並んでいる全ての魚のことを詳細に教えてもらえる。書店ではそれが物理的に難しいということだ(カテゴリーに精通したスーパー書店員を除く)。

先日、東京作家大学(渋谷にある作家スクール)の担当講義の際に、クラーケンの全タイトル(4冊+1カレンダー)を並べて販売させてもらった。

講義の最後にそれぞれの本の見どころを語ると、50冊ほどが飛ぶように売れていく。質問に答えると納得して買われていく方も多かった。編集者はガンガン手売りをしていくと良いと思う。クラーケンに関していえば、タイトルが少ない現時点でも、年間1,000冊以上は手売りしている。

手売りを増やす=魚屋のように売れるチャンネルを増やすと考えると、カテゴリーにもよるが、著者に講演などで手売りしていただくのも非常に有効だ。編集者にはできない、サインという付加価値をプラスできるのも強い。

ただ、僕が閉口しているのは、著者に定価の80%買切で卸すという、出版業界の悪しき慣習である。書店への委託料率よりも高いパーセントで著者に買い取らせるというのが、僕にはよく理解できない。

一緒に本をつくった制作チームを実質カモっているという自覚を、出版社や編集者は持っているのだろうか。

クラーケンは、著者に手売りいただく場合には60%買切で卸すようにしている(委託は70%)。印税も加味すれば定価販売額の50%が著者の利益となるため、フェアな料率ではないかと自分では思っているが、どうだろう。

多くの場所で魚屋のように本を売ってもらう(売る)のは簡単ではないが、ネットギャラリーなど、ゲラを書店員や読者に事前に読んでもらえるサービスも出てきた(料金が高いらしく様子見中)。本づくりを楽しみながら、小回りのきく新規出版社ならではの良い方法を探っていきたい。

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