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【超短編小説】家庭災園

 晴れた休日に家で座ってばかりいるのもな、と思い表に出てみたものの特に目的が無い。

 高校生くらいの頃は、家にいたくないのでずっと意味もなく表を歩き回っていた。
 それにあの頃は、仮初の目的を作るのが上手かった。レアな煙草を売っている自動販売機を見つける、とか。

 実際にそれがやれた時代だった。
 今はもうそうじゃない。調べてしまえばすぐに分かる。それに煙草で言えば廃盤が増えたし、体力的な意味では低下の一途を辿る。
 もうあの頃とは何もかもが違う。

 それに、街を歩けば同年代の人間は大抵が子連れだ。
 俺のように早々と繁殖を諦めた、反社会的態度の人間には生き辛い時代でもある。

 ポケットに手を入れてから、煙草を止めた事を思い出した。
 住宅街には歩き煙草禁止のポスターなどは無いが、基本的には暗黙の了解と言うやつで、白い眼で見られることになる。

 やれやれ、とため息を吐いたところで見知らぬ幟が下がっているのが見えた。
 茶色い麻布に黒い文字で営業中とだけ書かれた、味気も素っ気も無い幟だった。

 何屋なのだろうか。

 戸建て住宅を囲む垣根の門が開け放たれており、幟はその垣根の中から生えている柿だかの枝に垂れ下がっていた。
 中を覗くと、住宅の縁側にエプロンをした中年の女性が座っており、俺に気づくと軽く頭を下げて挨拶をした。

 俺も頭を下げて会釈を返し、小さな庭先に置かれた台に視線を投げた。
 台の上には様々な厄災が置かれていた。
「怪我」「不倫」「クビ」
 それぞれが透明な袋に詰められている。

 俺は女性の方を見て
「これはご自身で作られているんですか?」
 と訊いた。
「えぇ、この家の裏で家庭災園をしているので」
 女性は笑ってそう答えた。

 俺は台に並べられた厄災の中から「遺産争い」を手に取り、近々会う奴に渡してみるかと考えて笑みを浮かべた。

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