『「リベンジする」とあいつは言った』

小学校6年生の主人公ぼくは、軽いからかい・悪ふざけから発展したいじめで、
クラスメイトの江本の眼鏡を割ることになってしまいます。

江本は太っていて、どこか女の子っぽくて転校生で、
要するにいじめられっこキャラなのです。

クラスの皆は面白がるか、見ないふりをして、先生には江本が悪かったかのように報告してしまいます。

その日、江本は良く見えないせいで、下校中転んで骨折し入院。

自責の念に堪えかね、ぼくはお見舞いに行きます。

ここから一気に立場が逆転します。
なんと江本は「いじめの証拠をつかんでいる」と、ぼくを脅すような言動を取り始め

「きみたちは上手く先生をだましたつもりでも、ぼくは引きさがらない。 
必ずリベンジするよ」と言い放ち

アイスや漫画を買わされたり、犬の散歩をさせられたり
江本のツカイッパになったぼく。

そんな奇妙な夏休みをふたりで送るうちに、江本のことを少しずつ知り、
ぼくにも江本にも変化が表れる……

というお話です。
児童書なので、さすがにいじめの描写はそこまで酷いものではありませんが、
それでも自分の子がこんな仕打ちを受けていたら、胸がつぶれるような思いがするでしょう。


でも、このストーリーの素晴らしい所は、「いじめはやめましょう」とか「子供のために、健全な家庭が必要です」のようなお説教っぽくは全くならずに

子供の瑞々しい感覚、例えば

病院でふたり雲を見上げる場面
「青い空間に、恐竜のような形の雲」を見て
ぼくはふと去年、インフルにかかったとき部屋に隔離され
「楽しいことも、おもしろいことも、みんなむこうがわにしかない」と
感じた疎外感を思い出す。

また、海に向かう道を自転車で走るときの爽快感。

あと、個人的に江本が「家までの道のりを3Ⅾマップの様に精密に」描き
図工の街並みスケッチなのに「一本のけやきと下草だけを幹のザラザラ感とか葉っぱのスジ一本一本までを丹念に描きこんで写真のように見えた」りとか、面白い。

江本の愛犬バニラが、段々ぼくになついてくる様子とか。

そんな丁寧なエピソードの積み重ねが、すごく読んでいる者の心に沁み込んでくるのでした。


江本の裕福だけど複雑な家庭事情や、対照的にぼくの家の幸せな温かさが横糸となり、

夏休みのストーリーが、時に明るく時に苦く、魅力あるエピソードを重ねながら語られていきます。
二学期の始まり、さてあいつの「リベンジ」のゆくえは…?

読み進めていくうちに自然と、相手のことを思いやれる子になって欲しい、
なりたい、と思える物語です


スカイエマさんの絵も、流石の上手さで、登場人物の思いがストレートに伝わる素晴らしいものでした。



恐竜みたいな雲って…こんなかなー

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