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未知者との交差

映画館のシアター7のスクリーンで「ゴーストバスターズ/フローズン・サマー」のエンドロールが終わり、ゆっくりと出口に向かっていたウサギがぽつりと言った。「最後に流れた『新しい学校のリーダーズ』のMV、すごく斬新だったと思わない?」

映画館を背にして、夜の空気を感じながら、ウサギは隣を歩くカメに話を続けた。「未知の存在と冷静に向き合うのは、私には難しいと感じたわ。だからかしら、15歳のゴーストバスターズの少女が16歳のゴーストとチェスをしながら仲良くなるシーンがとても印象に残ったの」

カメは静かに言葉を紡いだ。「結局、この世界は人間からの視点で描かれる。人以外の存在は大抵の場合、排除されてしまうんだ。たとえそれが、僕たちの想像力から生まれたものであっても。でもね、逆のパターンもある。未知の存在が人間を創造するという話もあるんだよ」

「そんな話もあるの?」ウサギは目を大きくして彼を見つめた。カメはゆっくりと頷き、静かに語り始めた。「スタニスワフ・レムが書いたSF小説『ソラリス』では、ソラリスの海が持つ知性が、人の記憶から人型の生命体を創り出す話があるんだ。そして、その創られた生命体が人間を混乱させ破滅させていく。お互いに知性を持っていても、理解し合うことの難しさを描いているんだよ」ウサギの瞳は不思議と驚きで僅かに揺れた。

「未知の存在と理解し合えないなら、せめて人間同士はもっとうまくやれるはずよね?」そんなウサギの言葉に耳を澄ませていたカメは、苦笑いを浮かべながら夜空を仰ぎみた。

春の風を感じながら、ウサギとカメはゆっくりと街中に溶け込んでいった。街は人で溢れているけれど、それぞれが持つ心の距離はどれほどのものだろうか。二人はこの世界で繋がることの難しさを知りつつも、お互いの存在を大切に感じていた。

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