見出し画像

ヘリコプターペアレント化の心理的要因と子供への影響(S2#6ねほぱほ考察)

この記事は、『ねほりんぱほりん』「ヘリコプターペアレント登場!超過保護ママのまさかの実態とは」(シーズン2 第6回)の考察である。

【番組まとめ】ヘリコプターペアレントの 
子供への接し方と思考

まず、番組内容を簡単にまとめる。ここでは、①ヘリコプターペアレントが自分の子供にどのように接しているのか?②その考え方が伺える発言をまとめる。

登場人物
イズミさん ヘリコプターペアレント(頭上を旋回し何かあったら急降下するヘリのようにわが子を世話する超過保護な親)専業主婦であり、家族構成は、夫・長女(中3)・次女(5歳)である。過保護の対象は、長女(中3)である。

①長女(中3)への接し方(行動の例)
1.毎日着る服を選んであげる
2.ごはんの時は、長女(中3)は一切動かず、ごはんをよそってあげる
3.去年まで(長女中2まで)尿検査をやってあげてた
4.エアコンをつけるべきか指示する
5.長女(中3)のスマホを監視→交友関係の監視,Web履歴の監視
6.監視の結果、交友関係へ介入
7.娘が自主的に行動しようとすると、「無駄なことばっかりしてるんじゃない」と否定

②イズミさんの考えが伺える発言
夫「ママ(イズミさん)が全部やっちゃうから、そりゃ出来るわけない。手を出さないほうがいいよ」
イズミさん「私が手をださないと、なにもできないままじゃない?」

長女(中3)がイズミさんに断らずに、池袋のカフェに行ったことに対して
イズミさん「どこ行ってるの?私に黙って!池袋に行ったら、次はどこに行くと思います?渋谷・原宿・新宿。もう危ない世界に!まだ中学生なのに」

スマホ監視の話の際に
イズミさん「スマホを監視しないと、娘(長女)の何一つ見えない。本音が見えない。」

長女(中3)の反抗期の話の際に
山里さん(番組MC)「反抗はやっぱりされるでしょう?」
イズミさん「反抗期が来たので、最近は喧嘩が多くなったんですけど、でもそれでも、自分の意見がやっぱり絶対上なので…ママのいうことを聞いていればこうならなかったでしょ!という風になってしまって。勉強にしても、生活にしても出来ないから、時間ばっかり食ってるのに、そこにも気づかず。無駄なことばかりしてるんじゃないよ!と」

YOUさん(番組MC)「イズミさんのお母さんはどうだった?過保護じゃなかった?」
イズミさん「そうです。全然違かったですね。どっちかっていうと、私は勉強もスポーツも出来てしまったので、出来ない子供の気持ちが全然わからないですね」

以上が、番組を①イズミさんが長女へどのように接しているか?②イズミさんはどのような考えをもっているか?という二点に着目したまとめである。
次節では、これを基に、どのような人が、ヘリコプターペアレントになりやすいのか?その心理的特徴を考察する。

【考察】なぜヘリコプターペアレントになるのか?
―心理的特徴から読み解く―

なぜ、イズミさんは超過保護、すなわち子供に超過干渉してしまうのだろうか?番組内容から伺える心理的特徴をまず述べる。
そして、次節で心理的特徴が、なぜ過干渉に繋がるのかを考察する。

イズミさんの心理的特徴

①子供より、自分が有能な存在であると感じている
番組の中でイズミさんは、
「反抗期が来たので、最近は喧嘩が多くなったんですけど、でもそれでも、自分の意見がやっぱり絶対上なので…(以下略)」
と述べている。また、こうも述べている。
「(前略)私は勉強もスポーツも出来てしまったので、出来ない子供の気持ちが全然わからないですね」
これは、子供に対して、自分の方が、優秀であり、優位であると感じている証左である。

②子供の成長のためには、自分の介入が必要であると感じている
夫に子供へ手を出さない方がよいと言われたとき、彼女は、
イズミさん「私が手をださないと、なにもできないままじゃない?」
と返している。
これは子供が何かを出来るようになる(=子供の成長)のためには、私が手をだす(=子供へ介入する)必要があると感じていることを示している。

以上より、イズミさんの思考として、
①子供より、自分が有能な存在であると感じている
②子供の成長のためには、自分の介入が必要であると感じている

の二点が挙げられる。

イズミさんはなぜヘリコプターペアレントになったのか?

次に、二つの心理的特徴によって、なぜヘリコプターペアレントが誕生するのかを考察する。

まず、②子供の成長のためには、自分の介入が必要であると感じているという特徴から、子供へ干渉しがちなことは伺える。
ただし、この心理的特徴のみでは、ヘリコプターペアレントのような超過干渉にはならない

干渉の度合いを強めるのは、②に加えて、①子供より、自分が有能な存在であると感じているという特徴が必要である。
①の特徴により、子供は劣った存在であると感じているため、成長のためには、自分が干渉しなければならない、と強く感じる。
また、自分が有能な存在であると感じているため、他人の(干渉をやめるようにという)アドバイスは、聞くに足らないものであると感じ、無視してしまう。

以上の議論では、ヘリコプターペアレントの心理的特徴を考察した。以下の2点が挙げられる。
①子供より、自分が有能な存在であると感じている
②子供の成長のためには、自分の介入が必要であると感じている

また、これらの特徴を人は、子供へ超過干渉を行ってしまうことを考察した。

【考察】ヘリコプターペアレント教育の子供への影響

最後に、子供への影響を考察する。まず良い教育とは何か?を考察する。次に、ヘリコプターペアレントの教育は良い教育であるか否かを検証する。

良い教育とはなにか?

これを考察するために、教育の目的を確認する。これは、

"人間は教育によってその精神的,身体的可能性を開花させ,同時に社会の成員として必要な労働能力,社会的能力を身につける。"
"教育", 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2019-03-21)

と述べられている。これを受けて、このノートでは良い教育を、
1.人間の精神的・身体的可能性を開花させる
2.社会の成員として必要な社会的能力を身に着ける
(社会的能力に、労働能力を含める)
を達成する教育である、と定義する。

上記の定義では、1番に関しては分かりやすい。本人の可能性を開かせるということである。
しかし、2番に関しては、不明確な部分がある。社会の成因として必要な社会的能力とは一体何か?という部分である。
これを明確にするためには、まず私たちが暮らす現代社会とはどういうものか?を考える必要がある。現代社会の特徴が明らかになった後、現代社会に必要な社会的能力とは一体何か?を考察していく。

現代社会の特徴

過去の社会と比べて現代社会は、決断に迫られる社会であると言える。例を挙げる。結婚の際、昔はお見合いが主流であった。今は結婚相手は自分で選ぶべき、というのが主流である。仕事も、昔は家業を継ぐこと、地元に就職することが多かった。今は勤務場所を問わず、たくさんの選択肢から自分で就職先を選ぶのが普通である。

このように、過去の社会と比べて現代社会は決断に迫られる社会である。過去の社会は、地縁による社会であった。すなわち、生まれの地元によって運命が決まる社会である。人間は、生まれた地元に良い意味でも悪い意味でも取り込まれていた。結婚・就職の際も、その地元の事情が考慮される。ある意味、地元に縛り付けられていた。

一方、現代は社縁(会社の縁)の社会であるといえる。この社会は、地縁社会とは違って、会社(仕事)を自分で選び、運命を自分で決めることができる。言い換えれば、全ては、本人の選択に委ねられる。

社縁社会に必要な社会的能力

このような社縁社会では、決断する能力が求められる。人間は、生まれながらに、決断する能力を有する訳ではない。
それは、生まれたばかりの人間には、自分なり考え(アイデンティティー)がないからである。そこには、動物的な本能があるのみである。
決断には、本能を超えた、自分なりの考えが必要なのである。自分なりの考えの育成こそ、社縁社会において求めれる教育なのである。

ヘリコプターペアレントの教育の評価

以上の議論により、現代社会における、良い教育を定義できた。以下の二つである。
1.人間の精神的・身体的可能性を開花させる
2.自分なりの考え(アイデンティティー)を育成する


ヘリコプターペアレントの教育は、この2つを達成するであろうか?検証していく。

まず、1.人間の精神的・身体的可能性を開花させるに関してだが、全くダメである。人間の可能性の開花は、拙くても、まず何かをやってみることから始まる。それが可能性開花の第一歩である。ヘリコプターペアレントはその機会をつぶしてしまう。

2.自分なりの考え(アイデンティティー)を育成するに関してはどうであろうか?これも全くダメである。イズミさんの長女は、エアコンをつけるかどうかすら、自分で決断できない状況に陥っていた。それは、過干渉により、自分で決断する機会すら奪っているからである。

以上より、ヘリコプターペアレントの教育は、良い教育ではない。それどころか、有害であると結論づける。

参考文献
『ねほりんぱほりん』「ヘリコプターペアレント登場!超過保護ママのまさかの実態とは」
"意志", 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2019-03-21)
"教育", 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2019-03-21)
加藤秀俊,「人間関係 理解と誤解」,中央公論新社,1966
テンニエス 著 , 杉之原 寿一 訳,「ゲマインシャフトと ゲゼルシャフト」,岩波文庫,1957

【毎週火・木・土に投稿】 ①所属:情報工学博士3年. ②興味分野:社会科学. ③投稿すること:Eテレ番組 100分de名著(火曜)・ねほりんぱほりん(木曜)・ドキュランド へようこそ!(土曜)の考察④コメント:卒業後は分野にこだわらず学問を究めたい.フォローしてくれると嬉しい😃