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儀間真常と踊るにわ

 頭の中では常に儀間真常が鎮座している。なぜ鎮座しているのか。それは他の人より少しばかり知っているにほかならない。例えば、あなたが今春のアニメについて知っているとして、何から観ようか何々は面白そうだと思うことがあるだろう。それと同じように、僕の頭の中では儀間真常がずんと鎮座している。
 つか、儀間真常ってなんすかと思うかもしれない。それに関しては大いなる同意をぶつけなければならないと思う。なぜか。儀間真常はかなりマイナーな人物であるからだ。
 あなたは「歴史上、偉大な人物は誰ですか」と問われたとする。そうすると答えるだろう。坂本龍馬、平塚雷鳥、伊弉冉尊、菅原道真、北条時政といった具合に。勝手な憶測であるが、歴史上偉大な人物はという問いに対しウキウキと誰ぞの名前を上げる人物は果てしなくヤバいと思う。「これが歴史上の人物だ」と、選んだ人物により自己が露見すると言っても過言ではない。なぜか。偉人が成した功績に自己を投写して考え、そこには「偉人たちと同化したいな」という利己的な願望が露見するからである。
 歴史上の人物が何を想像し成し遂げたかは重要であるが、残念ながら誰も坂本龍馬になることは出来ないし、武田信玄になることもない。良くても何かしらの部署の課長になることが関の山である。あぁ、なんというあはれ。今いる会社を爆破した気持ちがむくむくと湧き上がってくる。
 話は逸れたが儀間真常の話である。知っているだろうか、儀間真常のことを。いや、知らないだろう。もし、儀間真常ではなく楠木正成とかであれば多少の盛り上がりを見せるところであるが、今回ばかりは儀間真常。南の孤島の偉人の話である。
 南の孤島の偉人と書いたのだが、これはあながち嘘ではない。儀間真常は軽い印象を受けるかもしれないが、琉球の五偉人の一人であり、言ってしまえば、彼が居なければ琉球という国を維持することは難しかったと言える。それほどに、琉球王国、現在の沖縄に途轍もない影響を与えた人物なのである。
 果たして儀間真常は何をしたのであろうかという話に続くのであろうが、ここでは避けたいと思う。なぜか。このまま続けてしまうと、野國總管との濃厚なラヴつまり、BL染みたものを書くことに成ってしまうから。あれほどのラヴを僕知らない。知らないが故に避けて通ることが出来ないのである。儀間真常と野國總管の関係について知っている人であれば、そんな訳ないだろ阿呆と吐き捨てるとこであるが、僕にはそうしか見えないので省略することにする。
 儀間真常。なぜ僕の頭の中で鎮座する。そのまま居座るのであれば『話し相手に成ってほしいものであるが、なんと嬉しいことに話し相手になることがある。本当にたまにであるが彼との対話を通して理解できたことがある。それはなにか。
 例えば、僕が現実に耐えきれなくなり酒を飲むことで苦痛からの解放を得たとする。ふわふわと今にも消えさりそうな泡に囲まれながら「いいなぁ、いい気持だぁ」と加山雄三みたいな笑顔を浮かべ比謝川の水面を揺蕩っている。そういう気持ちのいい状態を維持している時にやってくるのだ。儀間真常が。
 「もし」
 「うぁー、揺蕩うっていうやつの気持ちよさってね。ヤバいよね。イクかもしれんね」
 「いや、あの、そんなキモいこと言ってないで聞いてもらえませんか」
 「あっはい、すんません。聞きます」
 「ありがとうございます。つか、クサっ。おえ、クっっサ。こっち近寄らんでください」
 「へへっ、すいやせん。それで、なんすか。なんか用すか」
 「いやね、特に用事はないですけど。こんのきったない川を揺蕩っているあなたを見るとね、声かけた方が良いかなどうかなと思って」
 「あぁ、そうなんですね。それで、悩んだ結果僕に声をかけようと思い立ったわけですね」
 「そう、そう。そうなんです。もう警察に通報しましたから、大人しくしといてくださいね」
 と言った具合で声をかけてくる。儀間真常、ニクイやつである。

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