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わたし、プロのゲストなんです。って言い続けているのですが。

なんらかのエンターテイメントを楽しむ際に、ゲスト側の在り方に疑問を呈してはいけないのでしょうか?

こと、お客様は神様だ精神が根強い日本においては、その意識改革は困難を極めるのでしょうか?

今日は、ゲストにもゲストとしてのプロ意識を求めたい、というお話です。

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毎度ディズニーの話題を引き合いに出して申し訳ないですが、皆さんはディズニーの「ピントレーディング」という遊びを知っていますか?

ディズニーランドには、ディズニー公式が販売している数多のピンバッジがあり、公式マークが付いたピンは、ゲスト対キャストはもちろん、対ゲスト同士で、ピンの交換ができる、というちょっとしたディズニーカルチャーがあるんです。

もちろんディズニー公認、ゴリゴリに公式の遊びなのですが、明確なルールは特になく、両者がピンの交換に合意したらOK、という、コミュニケーションのいろはみたいなものだけが存在しています。

自分の持っているピンと、相手の持っているピンをきっかけに、ゲスト同士で新たなコミュニケーションが生まれ、たくさんの人の手を渡ってピンが世界中を旅していく。なんて面白い!なんて粋なエンタメなんだ!と、心躍らせた子供時代のわたしでした。

が、東京ディズニーリゾートでは全面ピントレーディングが禁止されています。2023年現在もなお、世界中のディズニーランドでたった日本だけ禁止されています。

禁止の理由は他でもなく、当時日本でピントレーティングが実施された際、多くのゲストが"レア"なピンを求めては、コミュニケーションガン無視の譲渡行為を行ったり、子供から無理やりピンを取り上げたり…といった、配慮に欠ける行為が目立ったためだそうです。

残念でなりませんね。
東京以外のすべてのディズニーパークでは、今日も多くのゲストが自分のピンを持ち寄って、新たなディズニーファン同士の交流が生まれているというのに。それじゃ、育つはずのエンタメも育ちませんよ、と、子供ながらにがっくり肩を落としたのを覚えています。

さて、このエピソードをもとに、皆さんは何を感じるでしょうか。
日本のディズニーランドの運営が事態を予測できなかったミスですか?
アメリカの文化を日本式に変えることなく輸入したことのミスですか?

わたしは、ただただシンプルに、日本のゲストの意識の低さが露呈した結果だと思っています。(辛辣ゥ…)

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日本のエンターテインメントには、まだまだ改善の余地がたくさんあると思っています。その代表格が、ゲストの姿勢です。

まったくの個人的主観になってしまうため、あまり突っ込んだ話はしたくありませんが、エンターテイメントを楽しむ舞台は、世界に負けず劣らず備わっているにも関わらず、その「楽しみ」と「利害関係」を結び付けているゲストがとても多い印象を、わたしは常日頃感じています。これは"勿体ない精神"の負の側面とでも言うべきでしょうか。楽しい=お得感。自分が得をしたという実感がないと、楽しいという感情に至らない人が、他国と比べてちょっとばかり多い気がしています。ごめんなさい、ただの肌感でしかないですが。

海外のディズニーランドで、初めてピントレーディングに参加したとき、その楽しさは日本では買えないピンをゲットできたから、ではなく、ピントレーディングがなければ決して話すことのなかった人と、ディズニーランドという夢の国で交流できたという、その時空間全体を楽しめるゆとりにありました。

ところ変わってブロードウェイのミュージカルを観に行ったときには、自分が座席のど真ん中で誰にも邪魔されず舞台に没頭できることが楽しいのではなく、隣前後の見知らぬ家族たちと、ドリンクやスナックを交わしながら、一緒に笑い、驚き、感動する、その状況そのものが楽しいんだと感じました。

そこには、「人より楽しんでやろう」ではなく、「みんなと一緒に楽しんでやろう」というゲストの姿勢の差が垣間見えるのです。

特にショービジネス大国のアメリカが、エンターテインメントのトップといわれる所以はそこにあると思っています。彼らは魅せ方を知っているというより、楽しみ方を知っているのです。優越感以外の楽しみ方を熟知している人がとても多いのです。

わたしはこれを、「プロのゲスト」と呼んでいます。

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もちろんこれはディズニーに限った話ではありません。
映画鑑賞、舞台鑑賞、コンサート、フェス、スポーツ観戦に至るまで、ありとあらゆるエンタメの場で、日本のゲストは、本当に礼儀正しくしています。

ですが、その「楽しみ」を突き詰めようとアクセル全開にしたとき、取返しの付かないミスを犯すゲストが、我が国にはどうにも多い気がしてなりません。

盛り上がっちゃったんだよね・・・だけでは済まされない、どこか演者に対するリスペクトに欠けた、"ヤバい"価値観が作用するときです。それは多くの場合、自己の利益だけを求めて動いてしまった結果ではないかと思っています。「楽しむ」=「自己利益の増大」という尺度しか持ち得ていないと、配慮のない、無神経な行為が、悪びれる様子なく実行できてしまうんですよね。まぁ、これに関しては国民性というより、個人個人の特性によるんですが。

プロのゲストは、自分の利害関係を求めずに、そのエンターテイメントを楽しむことができると、わたしは信じています。

そんなのつまんないよー、金払ってるんだから好きにさせろよー、お前誰だよー、という声もあるでしょう。そう声に出しても良いですが、それ以上の楽しみを知らないことは惜しんだほうがいいと、わたしは思います。

皆さんの前に広がるエンターテインメントは、もっともっと楽しくなる可能性を秘めています。演者は日々楽しませようと必死です。

先に挙げたディズニーのピントレーディングは、おそらく今後も日本で復活することはないでしょう。それは演者側のトラウマなのか、怒りなのか、悲しみなのか…真相は定かではありませんが、ゲストの姿勢が招いてしまった失態であることは揺るがない事実です。

わたしはこんな過ちを犯し続ける国であって欲しくありません。

なんで日本ではこれができないの?なんで禁止なの?という、落胆した子供の姿を見たくはありません。

対象となるエンターテインメントはなんでも同じです。その舞台に足を踏み入れ、思う存分楽しむことを許された者たちにくらい、ゲストとしてのプロ意識を求めてもいいではありませんか。

わたしはプロのゲストなんですと、言い続けています。
煌びやかな舞台が、艶やかなショーが、大衆を虜にするエンターテインメントが、どこまでいっても大好きだから。




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