見出し画像

読書メモ|戦争広告代理店 〈PR術編〉

note575ぺーじ。

さてさて、
「ドキュメント 戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争」を読んだメモ、後半。

1990年代はじめから半ばまで続いたボスニア紛争。バルカン半島のボスニア・ヘルツェゴビナ共和国(とセルビア共和国)で起きた民族紛争に、一見外側の米国の大手PR会社ルーダー・フィン社が実は大きくかかわり、紛争の構図を作り上げ世界を動かしたという。その「情報操作」の打ち手と結果を明かす本。

前半は倫理についてのすっきりしないところでしたが、後半の今回は気楽に、多数向けコミュニケーションのテクニックとして勉強になったところを。

PRとは
PR(Public Relations)
は日本では広告代理店が担うことが多い。そのためか逆にこのことばの意味は「広告」に縮小され、よく「≒広告」で使われる。そのPRの仕事はどのようなものか、抽象的には「顧客を支持する世論を作り上げる」(p.13)、「メッセージのマーケティング」(p.90)であり、具体的にはこの本で語られるボスニア紛争での情報操作が例になっている。

見せる、話す、手紙を書く。あらゆるコミュニケーションをデザインして、こちらの望む感情を相手に起こさせる。こちらの望む行動を相手に取らせる。
広告は基本的にはその名の通り“広告を打って”消費者等にメッセージを発信するが、PRは手段を選ばないところが大きく違うようだ。

具体的なPR施策として以下、①無関心→関心ありの段階、②関心の持続・拡大の段階、③発信のポイントに着目した。

まずは関心を持たせる
ボスニアに関心のなかった米国民、メディア、政治家に、まずは知ってもらい関心を持たせる。ここはのマーケティングのAIDMAの入り口にも通じる。まさにコミュニケーションの第一段階である。(それが容易ではないのだが)

ルーダー・フィン社のジム・ハーフ氏のとったやり方は情報の発信、「情報の拡大再生産」。ボスニアファクス通信なるニュース配信で、サラエボから直接得た生のニュースに加え、それについて話した要人のことばや追加取材を行った他社の報道を入れて配信した。

発信し、その反応や追及も発信する。SNSでも何人か顔が浮かぶ。

関心を持続させる
ショックの効果は短い。ここでは米国に根差した「民主主義」「人権」に対する強い価値観にアプローチして、関心を長引かせた。キャッチフレーズ(「民族浄化」)を用いて、バズらせ、大きな動きを生む。昨今のバズワード同様ちょっと曖昧に肥大しながら。

動きが大きくなればなるほど、予想外のことも起きる。それを生かすか殺すか、判断して実行する。ここはフンフンと読んでもそうできる自信はないが、そうすべきとは覚えておきたい。

受け手に合わせた発信
それは言語からすでに。紛争の現場は英語圏ではない。だからこそ英語が使えるかが重要になっていた。英語で発信されたからこそ報道に取り上げられ、英語が使えるからこそ記者のベースがボスニアのサラエボにおかれた。

一方で、セルビア側ミロシェビッチ大統領が、英語も堪能なのに“国民向け”を意識して英語を使わなかったシーンも印象的。

また受け手が使いやすい形で伝える、も重要。サウンドバイト向けの短いセンテンス、数項目の新提案、プレスキット(記事を書く材料)など。

「あらゆる面で気をつかい、記者の皆さんが不自由なく仕事ができるよう取りはからうことが、最も大切なことなのです」(p.45)

これでこそ、直接の受け手のその先に届くようになる。顧客、上司、社内の連絡相手と、受け手はさまざまであるがここぞという場面ではしっかり気を付けたい。

……と、本書には多数向けコミュニケーションのポイントがちりばめられていた。フィクションならPRのプロフェショナルの術にただただうなって楽しめたのに、と思う。しかし前半〈倫理編〉で述べた倫理の問題も重要なところ、それにモヤモヤするのも貴重な体験、読んでよかったです。


この記事が参加している募集

読書感想文

猫殿のおもちゃ、食べ物。たまに人のお茶や資料代になります。ありがとうございます!