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[読書メモ] オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学 / 早川友久

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学

台湾の李登輝元総統の日本人秘書である著者が、オードリー・タンの言葉を引用しながら台湾のデジタル化の軌跡を解説する。台湾と日本は地政学上の類似性があることから、台湾のデジタル化の成功事例は日本も見習うべき点が多い。特に国民の多様な思想や要求を満たすために、コミュニケーションを強化し共通の価値感を追求することの重要性を繰り返し説いている。また、李登輝とオードリー・タンに共通する素養分析も興味深い。

もしオードリーでなかったら、マスクマップアプリはどこかひとつの開発会社に依頼するだけで終わっていたでしょう。

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.30

台湾のマスクマップアプリは、日本のCOCOAと対照的なアーキテクチャ。COCOAは開発と維持管理を完全に委託していたが、マスクマップアプリは有志のエンジニアに開発目標を提示した後も継続的な改善支援を行っていた。

・COCOA(COVID-19 Contact-Confirming Application):日本の厚生労働省とデジタル庁が提供した新型コロナウイルス接触確認アプリ

「誰もが使えるということが重要」という言葉は、日本がこれからやろうとしているデジタル革命にとって非常に重要な概念だ。

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.35

「誰もが使える」という状態を実現するためには「使えない人が頑張って使えるようになってもらう」というアプローチではなく、「使えない人が"自然に"使えるようにする」というアプローチが重要。

アマゾンやグーグルは、人々の行動や嗜好を当の本人よりも理解していることだろう。

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.46

ビッグ・テックは時系列の膨大なデータを活用し、本人以上に人の行動や嗜好を理解しているからこそ効果的な広告を提示することができている。

自分の意見が他人と異なっても、文字にすれば他人と共通の感情が生まれる

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.73

文字にしてしまうと異なる意見がより表面化してしまう気がするが、文字にすることで異なる概念が鮮明になり共感できる状態になるのかもしれない。また感情のすれ違いの対処として、文字にすることやロジックを追うことで共通の価値観を導きやすくするかもしれない。

どんなに科学技術が進歩しても、人間とのコミュニケーションがなくなることはありえないわけだ。

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.78

コミュニケーションの手段は変わることがあるが、コミュニケーションそのものが無くなることは無い。コミュニケーションの手段は身振り手振りや言語のような直接的なコミュニケーションから、本や伝承などの間接的なコミュニケーション、デジタルによるリアルタイムな双方向コミュニケーションまで多種多様な発展をしてきた。一方で、これまでの歴史でコミュニケーションそのものが無くなったことはない。

オードリーが小さい頃から、父親は「標準的な答え」というものを与えようとしなかったという。そのため、世の中に「標準的な答え」というものが存在することすら思いつかなかった

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.89

自分の学生時代は、数学の公式から導かれる解のように答えが一つしかない科目を好んでいた。考察する科目は、苦手ではなかったが好きではなかった。考察のように人によって解釈が異なり、答えが一定でないものが好きではなかった。
実際の社会では答えが一つしかない事象のほうが稀で、答えが一定でないものを深く考察する学習が活用される場面の方が遥かに多い。

従来は、結婚といえば男女によるものだというのが「標準の答え」だった。しかし、それに同性婚が加わり、結婚を考える場合の前提条件が変わった。

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.95

先の「標準的な答え」が存在しないということに通じる。同性婚すら「標準的な答え」ではなく、「結婚」という概念自体が不要になるのかもしれない。持続可能な社会において、「結婚」ではない方法で人々の生活がより良い状態で持続する手段や方法が今後出てくるかもしれない。

オードリーは自ら「透明性」を実践していることがある。それは、自分の仕事のアカウントに届くメールをすべて公開していること。

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.109

これは公益に資する公人が信頼を得る上で効果的な実践行動。自身の発言や行動の一貫性に自信がなければ、このような行動は取れない。

日本でマイナンバー制度の推進にあたって「国家に個人情報を把握されるのが怖い」などという人がいるが、それは政府と国民の信頼関係の問題だ。個人情報を把握されるというのなら、政府よりもアマゾンのほうが、よほど人々の嗜好や生活習慣をよく知っているだろう。

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.114

安心・安全であることに加えて、個人情報を『預ける便益』が『預ける不安』を上回るように制度やシステムを設計する必要がある。

このムーブメントが素晴らしいのは、政府のみならず企業や個人といった社会全体が同じ目標のために動きをひとつにしたことだ。

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.120

一人の子供のために社会全体が同じメッセージを表明した事例。共通の目標やゴールに向かって全員のベクトルが揃ったときに、社会のあらゆる活動が最大化される。共通の目標やゴールに向かってベクトルを強制的に揃えるのではなく、全員が自主的にベクトルを揃える状態にすることが重要。

仮に、サイエンスとテクノロジーだけしか学んでいなければ、学んだ内容は誰もが同じになってしまいます。つまり、標準的な答えを暗記しているだけであって、直線的な思考だけで問題解決しようとすることは、ほとんど不可能でしょう。だから『アート思考』が重要なのです

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.139

・アート思考:芸術家の思考法で、自分自身で自由に発想・創造する考え方。ビジネスイノベーションを生み出す思考方法として注目されている

「学んだ内容は誰もが同じ」という部分は、一過性の「標準的な答え」に強制されてしまうことを示している。『アート思考』はまずは自分がやりたいことが起点となる。その起点で動力源になる要素は、『標準的なもの』と『標準的でないもの』が混在している。

生涯学習を育むための中心事項として、<中略>自ら学ぶ内容を決める「自発」、多様な交流を進める「社会参加」、意見の異なる相手とも共通の価値観を見つけ出す「相互理解」という考え方

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.141

・生涯学習:人々が生涯に行うあらゆる学習のこと。学校教育や家庭教育、会社などの社会教育から、スポーツや趣味の活動まで幅広い意味で用いられる

生涯学習というものを、老後の余暇を埋める程度の学習だと誤認していたときがある。生涯学習は、継続・持続的に習得すべきものを学習することという理解をした方が良い。また、日本の三大義務(教育・勤労・納税)のうち、教育面のスコープを拡大かつ強調して、生涯学習を人間の義務と捉えた方が良い。

急速に注目されるようになった「STEAM+D教育」。これは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Art)、数学(Mathematics)、それに加えてデザイン(Design)の6つの学問領域の頭文字から名づけられたもので、理数系教育と創造性教育を加えた教育理念を指す

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.164

・STEAM教育:科学や数学だけでなく、創造性や問題解決能力を含む統合的な学習を促進することを目指す教育アプローチ

・リベラルアーツ:人間性を形成するためのスキルや価値観を重視した幅広い学問領域のこと。ギリシャ・ローマ時代の自由7科(文法、修辞、弁証、算術、幾何、天文、音楽)を起源とする。

STEAM教育は、リベラルアーツと近い考え方。問題解決能力やコミュニケーション能力を重視したこれらの考え方は、これからの社会活動のベースとすべき教育思想。

”失敗のシェア”は、ほかの人にとっての”失敗するコスト”の節約につながります。どうやって成功したかという経験のシェアも必要ですが、失敗したという経験のシェアはもっと重要なのです。

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学|P.195

失敗した経験のシェアの方が、成功した経験のシェアよりも価値が高いということ。同じ失敗を何度もする必要は無いし、何人もの人が同じ失敗をする必要も無い。成功体験をコピーすることよりも、失敗体験をコピーしないことの方が重要度が高い。

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