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あたたかいもの



「おばあちゃんとこ、今朝、雪降ったらしいよ」

廊下とリビングを慌ただしく往復する私を余所に、母は乾ききった手にクリームを念入りに擦り込みながらそう言った。次に言う言葉はだいたい予想がつく。

「だから今日は暖かくしていきなさい」

「うん、でも大丈夫」

「あんたまたそう言って。今は動いてるからでしょ。外出てしばらく経つ頃にはあっという間に寒くなるんだから。カイロだって貼るの嫌がるし、あんた寒がりなんだからせめてストールくらい巻いていきなさい」

香水をつけ忘れていたことに気が付き、慌てて部屋に行く。後ろから母の小言とピンクのストールが追いかけてきた。

「あ、やば、電車間に合うかな」

「急いでる時こそ気をつけるんだよ」

「はいはい、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

片足で跳ねつつブーツのチャックを上げ、前のめりになりながら家を出た。空気は確かに少しひんやりしていて、秋ももう終わりなんだと思い知らされる。けれども首の後ろがまだわずかに汗ばんでいて、心地いい。ほら、いつも大げさなんだから。私にはちょうどいいくらいだよ。



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18時58分。どうせまた少し遅れて来るだろう。陳列棚にぬいぐるみが仲良く座っている雑貨屋に入った。あ、このリップクリームかわいい。手を伸ばそうとした時、スマホが鳴った。

「もしもーし。今着いた!どこ?」

「あ、お店入ってた。改札出てすぐんところ」

「おっけー。じゃあ改札んところいるね」

イヤホンを外し、ポケットに突っ込む。いつも待ち合わせより10分は遅れて来るのに今日は随分早いね!なーんてことは口に出さず胸に秘めたまま、早足で向かった。

「おまたせ〜」

「おーう。あったかそうな格好してんね。外めっちゃ寒いもんね」

ストールのたわんだ部分を緩く掴みながらそう言った。そのまま髪を少し撫でて、手を出してくる。

「そんなかな?電車乗ってたしそんなに感じないかも」

「ここ出たらきっと寒いって言うよ」

私より少し冷たい彼の手を握った。

「あ、ほんとだ、さむ!」

「でしょー」

家を出てからだいたい一時間半。こんなに気温は変わるものだろうか。薄暗いと思っていた空も、月が綺麗に顔を出す夜空にすっかり変わっていた。頬が痛いほどに空気は冷たい。電車でぬくぬくと過ごしていたからこそ、余計にそう強く感じる。

「こっから結構歩くけど大丈夫?」

「大丈夫!」

多分ね。なんてことは言えずに、肩を縮こまらせながらも笑いかけた。風が吹くと反射的にぶるぶるっと腕が震える。冷たくなってきたもう片方の手をポケットに突っ込んだ。ポケットに入ったままのイヤホンをバッグに戻す。あれ?なんだこれ。入れた覚えのないツルツルとした袋のようなものに指が触れ、取り出した。

「あ」

「お、いいもん持ってんじゃん」

出てきたのはまさかのホッカイロ。私、入れたっけ?家を出る直前まで慌ててバッグにいろんなものを詰めたときのことを思い返し、記憶を探ってみた。いや、違う、これ

「うん…、多分お母さん」

「はは、入れてくれたんだ!せっかくだから使いなよ」

頷いて、袋から出して握りしめる。私が、貼るのダサいから嫌だって言ってたから、貼らないタイプの持たせてくれたんだ。ちょっと鼻がつんとして、胸が一瞬、溶けてしまうのではないかというほどに熱くなった。

「こうすれば早くあったかくなるんじゃない?」

そう言うと、彼のポケットに、カイロを握り締めた私の手ごと入れられた。

「いいお母さんだよね」

「うん、私もそう思う」

柔軟剤の香りがするストールに、顔を埋めて笑った。





。*。+゜☆

初めて小説アップしてみました!

小説ちゃんと書いたの何年ぶりだろ〜!

やっぱり書くの楽しい😭💕


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