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新聞社と出版社の相性を探る②系列出版社との関係は(新聞書評の研究2019-2021)

はじめに

筆者は2017年11月にツイッターアカウント「新聞書評速報 汗牛充棟」を開設しました。全国紙5紙(読売、朝日、日経、毎日、産経)の書評に取り上げられた本を1冊ずつ、ひたすら呟いています。本稿では、2019年から2021年までに新聞掲載された総計約9300タイトルのデータを分析しています

なんでそんなことを始めたのかは総論をご覧ください。

過去の連載はこちらをご覧ください。

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前回は、各新聞社がどの出版社の本をより多く書評したかを調べました。全紙合わせた書評数の上位50位までを表にしています。

前回の分析で、新聞社ごとに出版社との相性がありそうなこと、それには、新聞社の系列出版社との関係も反映されていそうなことが示唆されました。

今回はこのデータを深堀りしていきます。前回は実数で比較しましたが、今回は正確を期して、各新聞社の書評総数に占めるその出版社の書籍のシェアを比べてみます。

書評回数上位50出版社と、各新聞社の書評に占めるシェア

各紙のトップシェアを見ると、それぞれ違っています。読売新聞は新潮社、朝日新聞は講談社、日経新聞は中央公論新社、毎日新聞は岩波書店、産経新聞は文藝春秋です。同じトップシェアでも、産経の文藝春秋と朝日の講談社では3%弱もの差があります。

では、この中で、新聞社の系列出版社に注目してみたいと思います。

新聞の系列出版社と各紙の書評に占めるシェア

中央公論新社では、グループ会社の読売新聞のシェアが一番高く、朝日新聞のシェアがかなり落ち込んでいますが、極端な差にはなっていません。朝日新聞出版は、どの新聞社の扱いもほぼ同じといっていいでしょう。

この2社以外は様相が違います。

毎日新聞出版は毎日新聞の、扶桑社と産経新聞出版は産経新聞の、日経3社は、日経新聞のシェアが、明らかにそれぞれ多くなっています。

(便宜的に日経3社としていますが、実際には日経BPと日本経済新聞出版社は経営統合し、統合後の表記が「日経BP日本経済出版本部」です。また、扶桑社はフジテレビグループであって、産経新聞グループではありませんが、フジサンケイグループとして括っています)

※この稿の最後に、データの偏りをさらに詳細に検証しています。

読売、朝日、毎日の書評の流儀

5紙のうち、外部の固定メンバーが書評子を務めているのは読売新聞、朝日新聞、毎日新聞で、さらにこのうち、書評子の合議で書評本を決める委員会方式を採用しているのは、読売新聞と朝日新聞です。読売新聞の場合は読書委員会、朝日新聞の場合は書評委員会と呼んでいます。

このうち読売新聞の場合は、以下のリンク先に詳しいのですが、

  • 委員の著書は一切紹介しない

  • 同一の作家、著者の本は、原則1年に1冊しか紹介しない

  • 同じ紙面に同じ出版社の本が何冊も出てくることは避ける

という原則があるようです。

朝日新聞の場合は最近の様子がわかりませんが、

によると、少なくとも20年ほど前までは、委員の本は書評の対象にならなかったようです。

毎日新聞は会議は開かず、以下にあるように、書籍選択の自由度はかなり高いようです。(「今週の本棚」は毎日新聞の書評欄の名前です)

もう一つの大きな持ち味は、掲載する書籍を決める会議を設けないことだ。新聞社の書評は、執筆者が集まる会議を定期的に開き、話し合いの中で書籍を選び、執筆担当を決める方式が定番とされる。しかし、「今週の本棚」は、執筆者が取り上げたい本を個々に探して選ぶ仕組みになっている。
 また、書評執筆者が書いた本であっても、良いと思えば遠慮せずに書評で取り上げることにした。著者の顔ぶれでバランスを取ることは考えず、良い作品であれば特定の著者の本が短期間に複数回掲載されることも認めるなど、なるべく制約のない形にした。池澤さんは「自由闊達(かったつ)な雰囲気ができ、明るく楽しい書評欄になった」と考えている。

「今週の本棚 30年になりました! 編集顧問・池澤夏樹さんに聞く」より

上記の比較から、委員会方式を採用している読売新聞と朝日新聞のほうが、毎日新聞よりも書評本を決める制約が多いことがわかります。

しかし、毎日新聞の書評に占める毎日新聞出版のシェアの高さは、これでは説明できないように思えます。むしろ書評子が自由に選べば、シェアは平均に近づくような気もします。

記者が紹介する毎日方式

そこで、毎日新聞の書評に掲載された毎日新聞出版社の32タイトルを改めて調べてみました。すると、書評子が紹介したのは、全体の3分の1以下の10タイトルだったことがわかりました。以下がそのリストです。

では、残りの22冊はというと、書評子ではなく、記者が本を紹介するコーナーに紹介されていたのです。「本と人」、「新刊」(いずれも2020年3月まで)や2020年4月から始まった「著者に聞く」などがそのコーナーです。

また、書評子が紹介した10タイトルについては、半数の5タイトルが、日本近代文学研究者の持田叙子さんが手掛けていたこともわかりました。偶然とは思えないほど多い感じがします。

さてここで、他紙と比較してみます。毎日新聞出版のシェアは、朝日新聞が0.5%、産経新聞が0.39%、読売新聞が0.26%、日経新聞が0.25%です。毎日新聞は1.69%もあるわけですが、これを書評子の手によるものに限れば、0.5%程度まで落ちますので、朝日新聞に並びます。

連載を書評する産経方式

読売、朝日、毎日とは違うやり方をしているのが、日経新聞と産経新聞です。それぞれ、固定した書評子はおかず、その都度、適切と思われる評者を選ぶ方式をとっていると聞いています。

このうち産経新聞は、産経新聞出版の本を18冊紹介しています。他紙はゼロですから、この突出ぶりは際立っています。

この18冊を調べると、以下の12冊は、産経新聞と、系列の論壇誌『正論』の連載を単行本にまとめたもの、および、産経新聞の現役・OB記者の手によるものでした。

<産経新聞の連載を書籍化した7冊>


<「正論」の連載を書籍化した2冊>

<産経新聞の記者・OBが書いた3冊>

また、以下の書籍は産経新聞や「正論」に連載や寄稿をよくする知識人の書籍です。

こうしてみると、産経新聞は、自社連載や自社の記者が書いたコンテンツの書籍化→自社書評での紹介、というルートが確立しているように思います。『正論』の連載・常連メンバーの書籍も多いの特徴でしょう。

これは、書評対象を新聞社側が選ぶという方式が寄与していることは間違いないと思います。ただ、本質は、産経新聞の書評欄は、新聞社としての言論活動の一つという色彩が強いからだと感じます。

新聞の書評欄は、情報提供という側面とともに、新聞社の主張を反映するのは、以下の連載の中で分析した通りです。

情報提供という意味ではテレビ欄、レシピ、家計などの生活情報などと同じですが、書評は新聞の主張・論説をも反映します。産経の書評欄はかなりストレートにそれが出ているといっていいのではないでしょうか。連載や記者の書籍であることは、熱心なファンである購読者には分かっているはずでもあります。

扶桑社については割愛します。

経済紙ならではの日経

日経新聞の場合は、他紙とは事情が少し異なります。日経は経済紙であることから、そもそも書評される本に経済関連が多いのです。これは、タイトルを分析した過去の連載にも明らかです。

従って、自社系列の出版社を多く紹介しているのが、経済関連本が多いという特質によるものなのか、それ以外の理由によるものなのかが、データからはわからないです。

印象を記せば、それにしても多い、という感じがしますが、データを見る人次第ではないかと思います。

詳細な検証

最初に出てきたシェアのグラフを正規化してみます。正規化というのは平均をゼロ、標準偏差を1にして、原データの数字の大きさに関係なく、データを比較できるようにすることだと思ってください。

絶対値が大きいほど、数字が偏っていることを示しています。

最大のものは産経新聞出版に対する産経新聞で1.79、次が日経3社に対する日経新聞で1.77、続いて毎日新聞出版に対する毎日新聞1.76、以下、扶桑社に対する産経新聞1.74、朝日新聞出版に対する日経新聞1.51、中央公論新社に対する朝日新聞▼1.33、中央公論新社に対する読売新聞1.27となっています。

朝日新聞出版に対する日経新聞のプラスの偏り具合と、中央公論新社に対する朝日新聞のマイナスの偏り具合は、中央公論新社に対する読売新聞のプラスの偏りより具合よりも大きいことがわかります。

訂正

毎日新聞の書評子が紹介した毎日新聞出版の本に1冊の漏れがありました。佐藤優さんが紹介した『堂々と老いる』です。これに伴い、

「毎日新聞出版社の32タイトル」
とあるのは、
「毎日新聞出版社の33タイトル」

「以下の10タイトル
とあるのは、
「以下の11タイトル」と訂正します。


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