自分の力ではどうしようもないことを変えようとする

学習塾講師の林修先生が、数学を学ぶ意味を問われたとき、100本しか売れない花を200本売るにはどうしたらいいのかと考えることだという他の人の意見に対して、
「変数ではなく定数を動かそうとする人を少なくする」
と答えていたことが印象的でした。

書籍『7つの習慣』にも“影響の輪”という言葉で書かれているように、人間には自分の力で影響を与えられるものと、‘自分の力ではどうしようもないことがあります。
文字通り自分の努力によってどうにでもなることと、自分がいくら努力してもどうにもならないことの二つによって構成されています。

例えば通勤です。通勤はどうにもならないことの一つです。
自家用車で通勤する人も、公共交通機関で通勤する人も、双方に言えることは、“通勤は定数である”ということです。
“定数”というのは、自分では動かすことができない数です。
自家用車で通勤していて、毎日同じ時間に出る人は多いでしょう。
しかし、ある日突然、とんでもない渋滞に巻き込まれることも予想されます。その渋滞も、事前に予告されていた道路工事ならそれは“変数”に変わります。
予測できた以上、対策を取れたのではないかと言えるのです。
しかし、予測ができなかったことは、“定数”として考える必要があるのです。ですから、一度でも、とんでもない渋滞にハマったとき、「今度、同じようなとんでもない渋滞が起こった際の対策」として、もう少し早く家を出たり、迂回路を見つけておくといった対策を考えるのです。
公共交通機関などは、もっと、どうしようもありません。
電車が強風によって遅延したり、人身事故が起こってしまって遅れるといった状況は考えられます。いつもと同じ時刻に電車やバスが来るとは限らず、そうした事態に備えて、“一本早い電車”や“一本早いバス”に乗る人が多いのではないでしょうか。

渋滞に巻き込まれて怒ったり、電車が遅延したことに怒ったりと、こうした『定数』である“自分の力ではどうしようもない事”に腹を立てている人が目立ちます。
一方で、ダイエットのように、自分が努力する度合いに応じて、いかようにも変化することに対して、真摯に向き合っている人もいらっしゃいますが、やはりサボってしまう人も多く見受けられます。
そんな私も、ダイエットをサボってしまう一人ですが、これに関しては「甘えている」と言われてしかるべきだと思います。
数学を学ぶことは、変数と定数を学ぶことで、自分の力でいかようにもなることを、どのように変化させ、自分の力ではどうしようもないことをどう対処するかを学ぶ学問だと言われているのです。

これは、『正しい努力』の方向性という言い方もできるのだと思います。
“人生は何事をも成さぬにはあまりに長いが何事かを成すにはあまりに短い”
と、中島敦の『山月記』にも書かれているように、人生というものは努力をして何かを成そうとする者にとっては、あまりに短いのです。
自分が成そうとすることに向かって、『正しい努力』を続けた人間こそ、成果を得られるのです。

では、この『正しい努力』とは何なのかと考えたとき、“変数”と“定数”の考え方が必要となるのです。
私も実はそうだったのですが、あまり物事を考えることが得意ではない人というのは、考える前に行動してしまう傾向にあります。
しかし、“定数”と“”変数”を頭に入れ、「これは果たして自分の努力でどうにかなるのか」ということを常に問として頭に入れて置くだけで、『正しい努力』に近づく事が可能となるのです。

人生に答えなど存在しません。
自分の人生が、正しいのか間違っているのか、誰にもジャッジなどできないのです。
だからこそ、他人に頼ってはいけません。“定数”を信じて、結果的に渋滞で遅れるのは、他人に期待することになります。それは、甘えです。
信じるのは、自分の努力でどうにでもなる、“変数”の方なのです。

私は今、ライティングゼミを受講しています。
しかし、だからといって、ライターになれるかどうかはわかりません。
ライターになれるかどうかは、自分の努力だけではどうしようもないことです。
しかし、「人事を尽くして天命を待つ」という言葉があるように、自分の努力で可能な限りの努力をしたら、あとは焦らず静かに結果がついてくることを待つしかないのです。

「こんなに努力したのに！」と怒る人もいます。
しかし、“変数”であるベストを尽くしたのなら、その後は“定数”である結果を待つしかないのです。それを人は『運』や『運命』といって、天の定めとして受け入れるのです。

努力しても人生が良くならないと考えていた頃、私は“定数”を変えようとしていました。
自分の力ではどうしようもないことに対して、「自分が努力しても何も変わらない」と腹を立てていたのです。
あの頃の自分に言ってあげたいのは、「自分が努力したことは、確実に変わっているよ」という言葉です。
“変数”は、自分の力でどうにでも変えられるのです。