見出し画像

宝飾時計【舞台】

息を呑んで、息が詰まって、悲しみともどかしさと嬉しさと興奮が入り混じって。
本当はそのまま立ち上がりたくなかったのだけれど、私は日常に戻ってきた。でもやっぱりあの時間軸に入り浸りたくなって、気が付いたら私は無我夢中でこの台本を読み終えている。

こんな舞台、見たことない。

作・演出の根本宗子さんは、この作品をSNSで宣伝するにあたり「上質な演劇作品」と綴っていた。私は語彙力も無いし浅はかなもんで、「上質な」と言う言葉は、中々自身の中から出てくるものじゃないのではないかなとその時は思っていたりもして、だからその言葉が出てくるほどまでに覚悟と想いが詰まった作品なんだなとそれを念頭に置きながらこの舞台を見たはずなのに、驚くほどに超越した。まちがいなく上質な演劇作品だったのだ。

主人公・ゆりかとその恋人・大小路の二人の日常会話から入っていくのだけれど、まずその時点で私は釘づけにされた。
「ああ、あるかもしれないなこんな二人」って思わせられるのにそれだけじゃなくて、少し含みがある。それを観客に感じ取らせる塩梅のセリフの掛け合いが本当に絶妙で、今、やっぱり台本を読んでみても絶妙で絶品なのだ。

主人公を中心に時間軸が行ったり来たり。本来なら付いていけるわけないのに、置いてきぼりなんて皆無で夢中で追っている。追っているって感覚もないくらい。
「こんな舞台、見たことない」と私は言ったのだけれど、「こんな舞台が、見たかった」と、言い直そうと思う。

観る人によっては苛立つ瞬間もあるかもしれない。それでも私は主人公ゆりかが放っておけなくなった。すごく愛おしい。

何よりも圧巻のクライマックス。
この作品には主題歌がある。椎名林檎が楽曲提供した『青春の続き』。
怖くて逃げだしたくなるくらいにそこにゆりかの想いが全力で詰まっている。ちょっと怖い。単純な私は椎名林檎の楽曲をいつもちょっと怖いと思っていた。でも、はまる。まさにその林檎が生み出すものとゆりかの想いが隙間なくリンクしている。うん。やっぱり愛おしい。

今、なんでこんなにも愛おしい気持ちになっているのだろうと少し考えたのだけれど、この作品は根本宗子さんから主演・高畑充希ちゃんへのラブレターだと言うのだ。
こんなにも愛おしくて夢中になれるラブレターを作品として届けられるのは作家としての本望じゃないだろうか。私もこんなラブレターをいつか誰かに届けたい。

でも、ただただ今は宝飾時計に散りばめられた時間と言葉のひとつひとつを思い返してはぎゅっと抱きしめて、堪能したいと思う。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
宝飾時計はまだ上演中ですので、お気になりましたら、ぜひ。

この記事が参加している募集

舞台感想

てらさかゆう のページを覗いて頂き誠にありがとうございます! 頂いたサポートは今後の執筆活動費用に使用させて頂きます。 少しでも皆様のお役に立てる記事が書けますよう日々精進致します。 「スキ」ポチっとや、コメント、引用、フォローもお気軽にどうぞ。 宜しくお願い致します👍