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20代男、BLを読む。

前回好評を博したSFマガジンの『BLとSF特集』、その第二弾。
やっぱりというか当たり前かもしれないが、自分の部屋を見渡してもBL本は一冊も見当たらない。萩尾望都の短編集に、一個だけそれっぽいやつがあるが、それだけだ。
知識は皆無といってよい。なので特集記事で基礎から勉強することに。

そもそもBL、ボーイズラブというのは90年代くらいに“JUNE”とか“やおい”とか呼ばれていたものが、ボーイズラブに統一されたのが始まりとのこと。
初期はまだジャンルが未分化で、活字媒体では、少女小説との見分けがつきづらいという問題もあった。
90年代はラノベレーベルが乱立した時期でもあり、講談社X文庫ホワイトハートなどがそうで、俺が知る限りでは十二国記が初めて出たレーベル、つまりその横にBLが置かれていたということか!? 混沌ぶりが窺えるような…。

そして2006年が地殻変動の時期で、大量発生したレーベルが次々と消滅していくなか、ホワイトハートだけは、BL作品を色分けして売っていたから助かったとか。

そして最新流行のオメガバースについて。正直俺は何もしらかった。言葉さえ聞いたことがなかった。
海外発祥の文化で、日本に紹介されたのは2010年くらいから。
具体的になんなのかというと
①男性が妊娠する。
②性による階級制度がある。
③運命の番システムというものがある。
これらの設定を有した架空世界を舞台にしたBLが主にそう呼ばれるらしい。

通常の男女の性別に加えて、アルファ、オメガ、ベータのバース性なるものが加わり、例えば男アルファ、男オメガとか、女アルファ、女オメガみたいな感じに分かれる。
このバース性の組み合わせで、男性が妊娠するという構図になる。
ちなみにオメガというのが非差別的な階級になりがちで、発情期が存在し、抑制剤を投与しないとフェロモンを撒き散らし、ところかまわずアルファを誘惑してしまうという。そこで運命の番システムというものがあり、この契りを交わすと、オメガは契ったアルファしか誘惑できなくなる。

感のいい人ならわかるかもしれませんが、運命の番は結婚のメタファーとして、バース性は性差別を可視化する設定として、男同士の同性愛を描きながらも、根底では女性の問題が追求されているのだという。
正直、BL界隈でここまで想像力が激化しているとは思いもよらなかったので、素直に驚きました。なんかル・グィンっぽいかも。闇の左手みたいな?

以下は読んだ短編の感想です!


聖域 榎田尤利

ヒューマノイド執事と、その開発者テオのBLSF。
人間の身の回りの面倒をみる、いわゆるロボット執事が普及した世界で、テオは延命措置を施され、30代くらいの若さを保ったまま、なに不自由なく生活している。仕事を真面目にこなし、物静かな雰囲気の男です。
しかし彼には隠された趣味があり、それが“痛みを感じること”。わざとサイズに合わない靴を履いてみたりして、靴擦れを起こし、その痛みに興奮するマゾ体質の男だった。
そんな、自身を傷つけるような行為をするテオを見かねた友人が、ほとんど人間と見分けがつかない最新型ヒューマノイドを送り、テオのことを監視しようとしますが、この送られてきたヒューマノイド、リウがテオの癖に刺さりすぎてヤバいいい男なんだが? と言うことで、二人の同棲が始まる。

リウは、エヴァのカヲルくん……みたいなのをちょっと想像したーイケメンなんですが、アシモフの三原則的なのに縛られていて、ご主人を傷つけることはできない。しかしテオは、痛みを欲し、彼にわざとややこしい方法で怪我の治療をさせたりなどして、治療されながら悶えたりする。
そしてついに、一線を越えることになり、人を傷つけてはいけないリウが、テオを痛みで愛撫する。

行為中に、手の隙間を怪我していたテオは、リウに、恋人繋ぎ的な感じだと思います、になってしまい、握った手がこすれ合うたびに出血し、痛みと快感で、ヤヴァイことに。
そして翌朝、リウはテオの元から姿を消していた。

一番エロいやつが雑誌の冒頭に。笑
ハーモニーっぽい世界観、健やかであることが正しい社会で、あえて苦痛を欲しがるという禁忌。禁を犯すから、エロといえる。
いちばん想像していたBLのイメージに近いかも。

ラブラブ⭐︎ラフトーク 竹田人造

打って変わってポップ。スラップスティックなSF。
ラフトークと呼ばれる、高性能なsiriみたいなものが発達した社会で、平凡なサラリーマンの小鳥遊という男が、ある日ラフトークを開発した大富豪のCEO、ジャックに求愛をうけるという話。
ジャックは金に物を言わせて、フラッシュモブ集めてみたり、ラフトークに小鳥遊を優遇して扱うように設定したりなどして、過剰なアピールを始めるが、小鳥遊からすれば、さっぱり事情がわからず、なぜ自分がプロポーズされるのか意味不明です。
しかしそれは、ラフトークの暴走により、なぜか小鳥遊という存在に膨大なリソースが割かれてしまい、AIが小鳥遊を異常に追跡してしまい、このままだとラフトークのリソースが100%小鳥遊に割かれてしまう、通称“推しデミック”が発動してしまうからだった。
ジャックは結婚することで、小鳥遊への注目の熱を冷まし、鎮静化しようと考えたのだ。

しかし、それもジャックの嘘、というかラフトークの計算で、なぜ平凡な小鳥遊にここまでAIが関心を寄せるのかという理由が後半で明らかになる。しょーもないが、面白いオチで楽しかった。

監禁 モーチェンホァン

中国から放たれたBL。Web媒体で発表された小説のようです。
チェン・クァンという男が、謎のイケメンに監禁されており、身動きも取れない。目の前の男はやたら自分の名前を呼んでは、泣きじゃくるなど、情緒不安定で、一向に自分を解放してくれない。
チェン・クァンは記憶がおぼろで、正体がはっきりしないところもあるのですが、徐々に目の前のイケメンと自分との関係性がわかりはじめ、悲しい結末へ辿り着いていく。

これはSFというより、ファンタジー色の強い短編。

テセウスを殺す 尾上与一

人間の記憶などをデータとして複製することが可能になった社会。服役中の囚人が他人の脳を違法に上書きして乗っ取り、脱獄するという事件が頻発し、そうした人間を抹殺する暗殺部隊の活躍を描く短編。
“テセウス”と呼ばれる人間の意識の中核をなすものを弾丸に装填して、それをぶつけることで脳のバグを引き起こし、敵を殺すという、なんだそれはという武器が登場する。

一億年先に君がいても 樋口美沙緒

予習したばっかりのオメガバースBL。
地球を脱出した人類が銀河に散らばった世界。ルーチェはフィニアスと呼ばれる一族で、純粋な地球人だけの宇宙船に乗船していたのですが、袂を分ち、ある惑星に降り立つことに。ルーチェはその星の最後の生き残りで、今はロボットと暮らしている。火の鳥の望郷編みたいな感じだわこれ。
先祖が残していったカセットテープの音楽を、銀河のラジオ局にリクエストして送ってみたら、その後、先祖が乗船していた宇宙船がやってきて、ベイシクスと呼ばれる一族、ラスと呼ばれる男と知り合う。ラスは、ルーチェに僕たちの船に乗船してほしいと誘いをかける。

主人公のルーチェくんがオメガで、ラスたちの一族はみなアルファ。
かつての地球移民船は、女性だけが罹患する正体不明の遺伝病に侵され、地球人の女性は絶滅してしまった。その代わりに生み出されたのが、アルファとオメガの存在だったというもの。

幽霊屋敷のオープンハウス ジョン・ウィズウェル

ここからは非BL作品。
今号のなかで一番衝撃だったのが本作。
母親を亡くした親子が再出発のため、新しい我が家を探しに、ある屋敷を案内されるのですが、これが幽霊屋敷だったという話で、捻りを効かせてるのは、話が幽霊屋敷の視点で進むというところ。語り口はホラーではなく、親子のドラマが焦点なのが非常に面白い。

屋敷は前の主人を病気で亡くしていて、家主がいないまま孤独に朽ち果てようとしていた。そこに妻を亡くして立ち直れずにいるパパと、わんぱくだけどママがいないさびしさを抱える娘のアナがやってきて、屋敷は呪力を使って、さりげなく二人をもてなす。

まったく自然な話運びというか、わざとらしくないセリフのチョイスとか、ストレートに刺さってくる。
本短編はネビュラ賞受賞、ヒューゴ賞、ローカス賞、世界幻想文学大賞ノミネートと、圧倒的高評価なのも頷ける。
既訳は少なく、これから日本に紹介されて、人気が出る作家の一人なのではないか。
未訳だけど、吸血鬼ものの長編があるらしい。すげえ読みたいぞ俺は。

最果ての美術館 ユキミ・オガワ

謎めいた小説。美術館の学芸員として働くロボットの〈あなた〉に話しかける口調で、物語が進む。幻想的な世界観の短編。作者は群馬出身でアメリカで小説を書いているらしい。

テーマ 草上仁

VRゴーグルを使って、自分の好きな世界観で、日常を過ごすことができる世界。例えば普段のデスクワークも、その世界観にあった別の要素に置き換わり、完全にその世界に没入したまま過ごすことができる。
ありきたりなリゾートの設定はあきた主人公は、小津安二郎風の貧しい工場勤務をする昭和世界に没入することに。
オチはちょっと怖い。

あとがき

今号は面白い話がいっぱいで、大満足です。
次号は『デューン』と『三体』の映像化特集ということで、『デューン』はパート2を映画館でばっちり鑑賞してきました。別記事に書きましたが、パート1の興奮を裏切らない出来になっています…!!パート3も製作が決まったので、早くも楽しみ。先に原作を読もうかなとも思っているところです。

『三体』はNetflixドラマ版を鑑賞しまして、これも大満足です。原作のキャラクターを国際色ゆたかに変更し、なおかつ統合。パート2と3の要素も先取りする構えを見せ、シーズン1は面壁者の選定というところで終幕。
人間スパコンとナノ輪切、あと階梯計画の核パルス推進も、映像で見ると無謀な感じが際立ってて良い。笑

あとゲースロ民なので、見てるとき別のキャラクターがちらつく。三体ではなく、冬来たる。
それではまた!


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