コホート研究と症例対照研究の違い　

　コホート研究と症例対照研究はどちらも観察研究に分類されるが、その大きな違いは研究開始時に曝露の情報が必要か否か、アウトカム（検討している疾病）の情報が必要か否かである。

❖研究開始時に必要な情報❖
・曝露情報……コホート研究（アウトカム情報は研究参加者を追跡調査することによって把握する）
・アウトカム情報……症例対照研究（曝露情報は研究参加者の過去の背景を調査ことによって把握する）

　コホート研究では研究開始時に曝露の情報が必要となる。曝露の有無によって、比較する2群を設定するからだ。アウトカムの情報は研究参加者を一定期間にわたり追跡することで把握する。ゆえに、アウトカムの発症率を比較することができる。また、曝露に引き続いて発生するアウトカムを計測できるため、曝露（原因）→アウトカム（結果）という時系列を論じやすく、このことはまた両者の因果性を示唆する一つの根拠となり得る。

　症例対照研究では研究開始時にアウトカムの情報が必要となる。アウトカムを発症している集団（症例群）と発症していない集団（対照群）の2群を設定するからだ。一般的な症例対照研究において、曝露の情報は追跡調査によってではなく、研究参加者の過去の記録（一般的には既存のデータベース）に基づき把握される。そのためアウトカムの発症率を比較することはできず、曝露割合の比較をオッズ比によって評価することが一般的である。なお、細かな点を指摘すれば、症例対照研究における対照群にもアウトカム発症者は含まれ得る。

　また症例対照研究は、既にアウトカム（結果）を発症している人、していない人を対象に過去の事実について解析するため、曝露がアウトカムに先行していたのかどうかの判別が困難である。それゆえ、曝露（原因）→アウトカム（結果）という時系列を論じることはできず、両者の因果性を決定づける根拠とはなりにくい。

　一般的に症例対照研究は過去のデータを解析して曝露情報を把握するが故に後ろ向き研究と分類される。しかし、この「前向き」/「後ろ向き」という区分はコホート研究、症例対照研究の双方に存在する（なお、前向き症例対照研究については後述する）。「前向き」と「後ろ向き」の違いは、把握すべき情報（曝露もしくはアウトカム）を新規に取得するか、既存のデータベースを解析するかの違いと考えれば分かりやすい。

コホート研究の「前向き」/「後ろ向き」

　コホート研究における「前向き」、「後ろ向き」とは新たにデータベースを構築してアウトカム情報を把握するか、既存のデータベースを用いてアウトカム情報を把握するかの違いであると考えれば良い。前者を前向きコホート研究、後者を後ろ向きコホート研究と呼ぶ。

　前向きコホート研究ではアウトカム情報をリアルタイムで収集できることから、より因果関係を論じやすくなる。また交絡調整に必要な情報も得られやすく、研究結果の内的妥当性を高めることができる。しかし、リアルタイムで追跡調査をするということはまた、研究に関わるコストや時間も膨大となる。

　後ろ向きコホート研究は既存のデータベースを解析するため、研究に関わるコストを安く抑えることができ、短時間で解析結果を得ることができる。しかし、既存のデータベースを用いるがゆえに、研究参加者の情報を新規に得ることが難しく、交絡補正に必要となる情報収集が限られることもしばしばである。

症例対照研究における「前向き」/「後ろ向き」

　前述したとおり、全ての症例対照研究が後ろ向き研究であるわけではない。確かに曝露情報を既存のデータベース（あるいは研究参加者の記憶）を解析することによって取得する症例対照研究は後ろ向き研究である。しかし、曝露情報を前向きに取得することも可能である。

　例えば、新たに構築したコホートに登録されている集団に対して追跡調査を行い、アウトカムを発症した人を把握、その都度アウトカムを発症していない人を同じコホートから選びだし、両者の曝露情報を把握するという手法は前向きの症例対照研究である（この場合、アウトカムの発症率も比較できる）。もっともこのような研究手法において前向き症例対照研究という呼称は一般的ではなく、コホート内症例対照研究（nested case-control study）
と呼ばれることが多い。

　コホート内症例対照研究ではリアルタイムでの追跡調査を行うため、曝露（原因）→アウトカム（結果）という時系列が論じやすく、一般的な（後ろ向き）症例対照研究に比べて研究結果の内的妥当性に優れている。

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