見出し画像

趣味のデータ分析023_ゆとりある暮らしのために③_ゆとりは金で買えるか?

021で、足元の「ゆとりがなさ」の急増は、家計の黒字率とは連動していないことを確認し、「家計にゆとりがないと感じる人が多い」ということは、「家計にゆとりがない人が多い」わけではないという仮説を提示した。そして022では、図1のとおり、様々なゆとり指標と、家計の黒字率の長期推移を示した。

図1:1年前と比較した生活水準変化の推移と黒字率
(出所:国民生活調査、日銀、生活定点、家計調査)

今回は、この長期推移について、具体的な相関を数字で確認していく。

ゆとり指標と黒字水準の相関

分析手法的には、前回紹介した3つのゆとり指標、つまり日銀の「生活意識に関するアンケート調査」、内閣府の「国民生活に関する世論調査」(国民生活調査)、博報堂の「生活定点」と、家計調査の家計黒字率(年次)を使う。ゆとり指標には「良化」「変わらず」「悪化」の3つがあるので(正確な言い回しはソースによって異なるが、都合によりこれに揃える)、3×3=9つの相関を見ていく。
また、相関を見るには相関係数か決定係数を使うのが常道だが、今回は、分布図および回帰曲線の関係で、決定係数を用いる。別に決定係数の根を取ってプラマイ考慮するだけなので、数学的にはほぼ同じである。回帰曲線とかの絵で示したいし。詳細は例によって補足にて。
とりあえず一気に図2~4で、分布図と回帰曲線を確認しよう。

図2:黒字率と1年前と比較した生活水準変化の相関
(出所:日銀)
図3:黒字率と1年前と比較した生活水準変化の相関
(出所:国民生活調査)
図4:黒字率と1年前と比較した生活水準変化の相関
(出所:生活定点)

横軸が黒字率、縦軸が「良化」「悪化」「変わらない」の回答率である。まず、黒字率が2000年~2015年頃まで25~28%くらいでほぼ変化がなかったため、どの曲線もそのあたりでダマが出来てしまっている。横側で目立った動きは2018年以降くらいしかない。
決定係数も併せて個別にみると、まず日銀調査では、回帰曲線の傾きが「良化」でプラス、「悪化」でマイナス、「変わらない」でプラスになっており、(「変わらない」をどう見るかはあるが)直感と合致しており、決定係数も0.19~0.30=相関係数0.4~0.5以上の水準である。
国民生活調査では、回帰曲線の傾きが「良化」でマイナス、「悪化」でプラス、「変わらない」でプラスになっており、「良化」「悪化」は完全に直感と逆。「悪化」は決定係数が0.16=相関係数も0.4あり、無碍に出来ない感じなのも困る。
最後の生活定点では、回帰曲線の傾きは日銀と同じだが、すべて決定係数0.09未満=相関係数0.3未満であり、相対的に相関は低く出ている。

以上より、黒字率との相関という意味では、回帰の傾きの観点でも相関係数の大きさという観点でも、日銀のデータが一番信用できそうな感じ。

ゆとり指標と黒字変化率の相関

さて、これまで見た黒字率(横軸)は、絶対水準だった。しかし、縦軸で問われているのは、「去年と比べゆとりありますか?」という問い。であれば、黒字率は絶対水準ではなく、去年と比べた変化率であるべきではないか?黒字率が15%から20%に増えた年の「ゆとり」感と、25%から20%に減ったときの「ゆとり」感は、違ってしかるべきだ。
というわけで、さっきと同様図5~7で一気に見ていこう。

図5:黒字率の変化率と1年前と比較した生活水準変化の相関
(出所:日銀)
図6:黒字率の変化率と1年前と比較した生活水準変化の相関
(出所:国民生活調査)
図7:黒字率の変化率と1年前と比較した生活水準変化の相関
(出所:生活定点)

黒字率の変化率とゆとり回答率との相関で見ると、回帰曲線の傾きはどのデータでも直感と合致するようになった。一方で決定係数についてはだいぶ変わる。黒字率水準では日銀の決定係数が一番高かったが、黒字率変化率では全項目で一番低くなってしまった。決定係数の高さでいえば国民生活調査が一番高く、相関係数換算では0.4~0.5と、相関性も十分な感じ。

まとめ

021で提示したのは、「家計にゆとりがないと感じる人が多い」ということは、「家計にゆとりがない人が多い」わけではないという仮説だった。少なくとも図8で示すように、日銀の直近調査(2022年9月)でのゆとりのなさの急上昇は(加えて、2021年9月ころからの緩やかな上昇も)、家計調査の直近調査(2022年8月)時点までのデータでは、ほぼ確認できない(「黒字率の変化率」は、2022年4月以降マイナス推移ではある)。

図8:勤労二人以上世帯の実支出と「ゆとり」、黒字率
及び日銀調査での「1年前と比較した生活水準変化」
(出所:家計調査、日銀)

しかし図2~7で見たとおり、黒字率の絶対水準でも変化率でも、長期では相応の相関が確認できた。決定係数はたかだか0.25なので、そのほか75%は他の要因で動いているという感じだが、「「家計にゆとりがないと感じる人が多い」ということは、「家計にゆとりがない人が多い」わけではない」仮説自体は、長期的関係としては棄却しても良いのではないかと思う。
別の表現で、「ゆとりがないというのはただの感想で、金銭面から見た事実ではない」と言ったが、少なくとも「金銭面から見た事実が25%は含まれる」ことは反証?出来た。
標題との関係で言えば、「ゆとりは金で買える」と結論したい。ま、当たり前かもしれないが、そういうのこそちゃんと確認しないとね。

さて、では足元のゆとりのなさの急増と、安定した黒字率の状況をどう見るべきか?「ゆとりが金で買える」なら、そして黒字率が変わらないなら、足元で黒字率が安定している限り、ゆとりの有無も大きな変動はないはずだ。これはなんとも言えない。検証したのは長期的な関係だけで、今回の動きは短期変動として十分許容範囲なのかもしれない。そもそも今後家計の黒字率が急落する可能性もある。一方で、特に足元の円安やインフレ率の状況は、騒がれているほど家計への影響が大きくない(何らかの手段で回避されているor軽減されている)可能性も十分残っている。
というわけで、とりあえずは021と同じく、「これからの動向をフォローアップしていくべき」なのだが、少なくとも今回の長期的関係から示唆されるのは、今後黒字率が急落するか、ゆとり率が回復するかのどちらかであるといえる(第3には、ここから長期の関係性を崩すような新たなトレンドが生まれる可能性もある)。是非現状の円安、インフレの危機を(生活費の観点から)指摘する方は、年間8万円生活費上昇するのか、ぜひしっかりと検証を頂きたいところだ。

また足元の状況はそれとして、そもそも家計調査の黒字率については、もうちょっと深掘りしたい点も多い。022で触れたが、年齢別の黒字率では、一時的にせよ60~64歳の黒字率が0にまで下がったことがあるし、黒字率の計算はかなり細かいデータに解剖することができるので、何がどのように貢献しているのか、というところはいくらでも分析できると思う。
この辺は、家計調査のデータがある程度充足されたタイミングで、また検証していみたいと思う。

補足・データの作り方等

まず黒字水準とゆとりデータの相関データだが、データソースによってデータ取得時点が異なるという問題がある。これについて、日銀以外は年次データと割り切って、ゆとりデータが公表された年の家計調査の年次データと、ゆとり調査の結果を直接比較して元データを作っている。国民生活調査はちょこちょこ欠損した年があるし、生活定点はそもそも隔年データだが、そのへんは対応する年から家計調査の年次データを引っ張っている、というわけだ。
一方で日銀のゆとり調査は四半期しかなく、年次で調整されていない。しかし家計調査の四半期データはあまりデータの厚みがない(今後応用しにくい)上、そもそもボーナスとかの関係で変動が激しい。というわけで、日銀についてはゆとり調査の方を年次に調整、つまり年次で平均値を取得して比較している(なお、一年間に公表されているデータ数は当初はばらつきがあるので、必ずしも4回調査の平均というわけではない)。
また、黒字率の変化率は、上記の基準で取得した調査年の黒字率について、その前の年の黒字率からの変化率を取得した。
最後に、回帰曲線はエクセルの機能で楽ちん表示である。自分でわざわざ計算したりはしていない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?