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趣味のデータ分析071_弱男 vs 弱女③_女の貧乏、男の貧乏

069から、弱者女性の数に関する分析を始めた。前回は母集団の整理を行ったのみだった。今回も引き続き、母集団の整理を行い、そして「弱者」の重要なファクターである、「低所得」の定義を行うところまで進めたい。

(概要/要約)
■年齢基準の導入
・年金生活者等を除くため、所得分布に年収基準を導入した。
・未婚既婚を問わず、男性の方が女性より所得が高い。
■年齢別配偶関係別所得一覧表
・所得の年功序列があるのは、その他男性のみ
・既婚男性の高所得への偏りや、男性>女性の傾向は20代から観察できる。
■まとめ
・性、配偶関係、無職の存在を踏まえ、計6個の低所得基準を設定した。

年齢基準の導入

前回は、全就業者に無職を加え、学生を抜いた母集団を作成した。それを踏まえた分布は下記である。無職が一目瞭然に多い。
これは明らかに、無職の高齢者を含んでいるからだが、さて、弱者男性/女性の定義に、年金生活者が含まれるだろうか?

図1:性別配偶関係別所得分布の実数(2022年)
(全数は「所得データあり有業者+無職ー学生」)
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図2:性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(母集団は「所得データあり有業者+無職ー学生」)
(出所:就業構造基本調査)

当初の弱者男性/女性の定義は「未婚低所得」としており、前回集計から学生(と思しき者)を除いたが、年齢基準は導入していない。ただ、就業状況≒所得のフィルターを導入する場合、年金取得世代で無職の者≒(就労)所得0を、弱者男性/女性と扱うのは違和感が強い。よってここで、年齢の縛りも加えよう。弱者男性/女性について、具体的な年齢の区切りがあるわけではないが、定年を考えると、60歳まで、というのは一つの基準になるだろう。
というわけで、「学生を除く15歳以上60歳未満で、就労者+無職」の所得分布を改めて整理しよう。

15~59歳の所得データが有る有業者+無職-学生、で整理した場合、まず実数ベースでは、その他女性の無職または低所得層が多い。専業主婦や家計補助的パート職等が多いことが原因であろう。その他男性は400~500万円台が多い。以前議論したようにその他男性≒既婚男性は、テールが明らかに右に厚く、圧倒的に高所得である。
次に未婚でみてみると、300万円未満では実数ベースでの差はあまりないが、300万円を超えたところで、男性の方が概ね多くなっていく。ただ構成比では、無職を除けば、300万円台を境に、所得が低いほうが女性、高いほうが男性の構成比が多い。未婚にせよその他にせよ、男性の方が分布上も所得が高い傾向にあると言えるだろう。

図3:性別配偶関係別所得分布の実数(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(15~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図4:性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(15~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

また、個別に言及はしないが、後半の議論に備え、5歳年齢階級での所得分布も一気に羅列する(見やすさのため、軸を揃えていない点に留意)。年齢ごとに分布にもばらつきがあるのだが、
・既婚女性の分布は、コピペかよっていうくらい変化がない。
・既婚男性の高所得への偏りは20歳以上の時点ですでに始まっている。
・未婚男性の所得>未婚女性の所得の傾向も、20歳以上の時点から見て取れる。

という点は概説的にも語れるだろう。なお、40歳未満の有配偶男性の無職数が0になっていることは、補正処理上の都合である旨前回も言及したが、40歳以降でも数%に留まっており、大勢への影響はないと考えられる。

図5:性別配偶関係別所得分布の実数(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(15~19歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図6:性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(15~19歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図7:性別配偶関係別所得分布の実数(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(20~24歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図8:性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(20~24歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図9:性別配偶関係別所得分布の実数(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(25~29歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図10:性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(25~29歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図11:性別配偶関係別所得分布の実数(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(30~34歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図12:性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(30~34歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図13:性別配偶関係別所得分布の実数(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(35~39歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図14:性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(35~39歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図15:性別配偶関係別所得分布の実数(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(40~44歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図16:性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(40~44歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図17:性別配偶関係別所得分布の実数(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(45~49歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図18:性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(45~49歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図19:性別配偶関係別所得分布の実数(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(50~54歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図20:性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(50~54歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図21:性別配偶関係別所得分布の実数(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(55~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図22:性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生(55~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

年齢別配偶関係別所得一覧表

さて、一気呵成にグラフを並べたところだが、このグラフだけでは、メイントピックである、「弱者」の重要なファクターである、「低所得」の定義を定めるにはややわかりにくい。
基準、定義となりうるのは中央値や平均だと思うので、細かい分布は抜きにして、平均や中央値を確認しよう。
細かくて正直わかりにくいが、
・概ね平均>中央値。
・年功序列は男性その他しか発生していない。
・女性の中央値は、年齢でむしろ減少(男性未婚も、高齢になると中央値はやや減少)。

となった。

図23:性別配偶関係別所得の中央値と平均値(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生)
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

ちなみに、図23は無職=所得0が含まれており、そのせいで平均値等もしたに押し下げられている(15~19歳のその他女性は、中央値が0である)。元ネタのツイートのリーチは、なんとなく就労女性だった気もするので、図23から無職を取り除いてみたのが図24である。
結果としては、全体の底上げにはなったが、形状的な意味では、未婚男女の、特に平均値に年功序列感が生まれたくらいで、著変と言えるような違いは生まれなかった。

図24:性別配偶関係別所得の中央値と平均値(2022年)
(所得データあり有業者ー学生)
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

まとめ

今回は、性別配偶関係別年齢別の所得状況を概観した。そして、この区分での所得の平均値/中央値を取得することもできた。図23ではグラフ化したが、具体的な値も見たいので、以下で表にも倒しておく。

表1:性別配偶関係別所得の中央値と平均値(2022年)
(所得データあり有業者+無職ー学生)
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
表2:性別配偶関係別所得の中央値と平均値(2022年)
(所得データあり有業者ー学生)
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

さて、ではどこを弱者=低所得の区分とすべきか。まず、概ね平均>中央値であり、平均以下を低所得としてしまうと、全人口の半分以上が低所得になり、それは流石に違和感が強い。
平均ではなく中央値を参照するとして、ざっくりポイントとしては、以下のような点が考えられる。
①性別で基準を分けるか?
②年齢で基準を分けるか?
③配偶関係で基準を分けるか?
④例えば相対的貧困は、世帯等価可処分所得の中央値の1/2だが、その考え方を援用するか?
⑤中央値や平均について、無職の存在を考慮するか?

ところで、今回の分析の最終目標は、以下の命題の是非を検討することである。
命題1:弱者女性の数>弱者男性の数
命題2-1:「女性全体に占める弱者女性の割合」>「男性全体に占める弱者男性の割合」
命題2-2:「未婚女性全体に占める弱者(低所得女性)の割合」>「未婚男性全体に占める弱者(低所得)男性の割合」
命題2-3:「低所得女性全体に占める弱者(未婚)女性の割合」>「低所得男性全体に占める弱者(未婚)男性の割合」
命題3:弱者女性の所得分布が、弱者男性に比して低所得側に分布している(平均と中央値のいずれも低所得側にある)

命題1の検討には、男女平等の基準を用いるほうが適切な気がしていて、その場合は①~③の導入は不適切である。⑤はわざわざ無職を導入したにも関わらずなのだが、「そもそも無職が多いから、その分低所得でも働いているだけで偉い」とは、世の中的にならない気もしていて、悩ましい。
一方で、以下のような考え方もある。
男女の所得格差に、何らか構造的な差がある可能性は、050~059でも検討したとおり。全く同じように扱うのは不適当。
②年齢ごとに所得は当然異なるので、年齢の差を無視すべきではない。
③男女ともに、方向性に違いはあれども配偶関係で所得の差があり、これも無視するべきではない。

さて、ではどのような考え方で基準を設定すべきか。こういうときは、複数基準で考えるべき、の一択だ。具体的には、下記の通り設定することとした。

【A 無職含む中央値】
A-Ⅰ.男女全体、配偶関係全体の中央値
 (男女ともに299万円)
A-Ⅱ.男女別、配偶関係全体の中央値
 (男性436万円、女性185万円)
A-Ⅲ.男女別、配偶関係別の中央値
 (未婚男性298万円、未婚女性245万円)
【B 無職を含まない中央値】
B-Ⅰ.男女全体、配偶関係全体の中央値
 (男女ともに347万円)
B-Ⅱ.男女別、配偶関係全体の中央値
 (男性460万円、女性233万円)
B-Ⅲ.男女別、配偶関係別の中央値
 (未婚男性337万円、未婚女性273万円)

最終目標は、弱者男女の所得(の分布)だが、今回、未婚者については、年功序列があまり機能していないことが判明した。よって、(頑張ってグラフを貼ったけど)②の年齢条項は考慮しなくても良い、と判断した。そのうえで、①、③、④、⑤を適宜考慮した。

並び的には、基準という意味では、Ⅰが最も男女平等だし、命題1の検証にも適当だろう。
次に、概ね所得が男性>女性であること、男性の場合配偶関係がその他のほうが所得が高く、女性はその他のほうが低いことを踏まえると、Ⅱが一番女性に対して基準が緩い(男性に対して厳しい)。命題2-1や2-3の検証には、この基準が適当と思われる。
Ⅲは、要するに「未婚男女の分析」にフィーチャーしたもので、命題2-2なら、この基準が適当だろう。
AとBはかなり悩んだが、未婚者を母集団にした議論を念頭に置くと、そもそも無職の存在は、論外と扱われているような印象がある。つまり、未婚=生活の糧を他者にあまり委ねられない=最低限職に就いていることがスタートラインで、そこからいくら稼いでいるのか、という風に「弱者」が使われているのではないか、ということだ。実際には、(decent workであるかないかを問わず、図3~4で示したとおり、)職にすら就けない弱者の極めて厚い地層が存在しており、彼らの存在を基準から無視するのも違和感が強いのだが、まあ私家分析であり、議論を拡散させない範囲で分析のリーチを広げておくのは悪くないだろう。金額水準の並び的に、④は最終的に採用しないことにした。

以上、ここに至って基準が6個も出てくるのも厄介な話だが、いずれにせよ基準の設定に係る考え方の整理はできた。次回、各基準でどのように弱者の数(割合)が仕分けられるかを確認し、本稿の締めとする。

補足、データの作り方等

データは前回同様就業構造基本調査国勢調査

平均値と中央値の推計について

やや今更だが、前回と今回で、所得分布の平均値と中央値を算出したが、これは、
・無職は所得0円
・各所得階級の内部において、分布は一様
・最高階級(1,500万円以上)は、最大3,000万円と仮定
したうえで、平均値、中央値を推計している。方法論的には019等で行ったものと全く同じ。

配偶関係実数の差について

今回は、図3で、男性未婚者>女性未婚者となっている点について補足したい。今回のユニバースは色々補正をしているので、見にくいところはあるが、生の国勢調査でも、男女で未婚者/その他の実数の差が著しい(図25)。

図25:性別年齢別の配偶関係実数(2020年)
(出所:国勢調査)

年齢別で収束するようなら、「男性の方が年上の婚姻が多い」ということで整理がつくのだが、年齢別でも収束せず、常に女性の方が未婚者が少ない。また男性再婚、女性初婚のパターンが多く(図26、048でも言及)、「強者男性の時間差一夫多妻状況」が、「その他(離死別等)」の多さをもたらしている可能性もある。

図26:総婚姻数に占める初婚再婚の組み合わせ別割合
(人口動態調査)

ただし「その他」の内訳を見ると、(65歳以上を除けば)素直に有配偶の女性数が多く、離死別が決定的な要因となっているようには思えない。もちろん「全ての女性は、結婚する場合5歳以上年上の男性と結婚する」と仮定すれば、65歳以上では男性の方が有配偶者が多いことから、この辺のズレをほぼ全て吸収することも可能ではある。ただそもそも男性有配偶者は、全年齢合計で30,138千人、女性は30,331千人と、割合的にわずかとはいえ、20万人のズレがある。

図26:性別年齢別の配偶関係「その他」の内訳実数(2020年)
(出所:国勢調査)

なお本データは国勢調査ベースで、「本邦に常住している者」が対象なので、国籍は問題とならない。この辺は統計の限界かもしれない。この辺はもう少し深掘りする価値もありそう。

そもそもの実数の差

もう一つ重要な指摘事項は、15~64歳男女で比較すると、単純に男性の方が600万人ほど多い(男性36,753,516人、女性36,169,248人(2020年国勢調査))という点。要するに、働き盛りの人口はそもそも男性が多く、その分弱者男性の実数自体が多くなる傾向があるのだ。
今回の調査は実数比較をする部分もあるので、この点には留意する必要がある。


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