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アニメ『オッドタクシー』を一気見

 久方ぶりにアニメをじっくり見た。それもタイトルにあるように全話を一気見。僕はあまり一気見をした経験がない。にも関わらず、それほどまでにのめり込んだ作品の名は『オッドタクシー』。

タクシー車内のオットセイが主人公

 キャラクターデザインこそポップな動物たちではあるが、その舞台は寸分たがわず僕らの社会そのもの。
 基本的な構成は、主人公である中年の個人タクシー運転手・小戸川の日々を描く。
 各キャラクターの心理描写やバックボーンなどが丹念に描かれており、現代ドラマとして、個々の苦悩を浮き彫りにする。
 
 ところが、本作はそれだけにとどまらない。
 第一話冒頭から、真相の語られない不穏なセンテンスが盛り込まれており、その後ラストまでミステリーとしての要素が非常に色濃く演出されている。

 独り身の中年男性の日々を描いたヒット作として、今年度に映画『PARFECT DAYS』が放映された。こちらも、役所広司演じる寡黙な中年男性の日々を扱うが、彼の背景は意図的に言及せず、ほのめかすだけに終始していた。

 だが、むしろ本作の非日常性は、まさしく映画『タクシードライバー』を彷彿とさせる。

 ロバート・デニーロ主演の本作との共通点は、まず不眠症のタクシードライバーとして作中に登場しだしたこと。
 次に、客を選ばずに乗せ、やがて拳銃が行き来する非日常へ。
 『タクシードライバー』の場合は若く、非日常への衝動がはっきりと描かれるが、『オッドタクシー』の場合は、一つ一つ視聴者にピースを与えるようにして、劇的な部分と、現代社会の闇のようなものを織り交ぜ、余韻をもたらす。
 まだまだ見ていたいような、それでいて、殺伐とした事態の収拾と結末を知りたいもどかしさ。
 それと、恋愛から離れていくという物語進行も、キャラクターが日常という型からやや離れていく事の表れとしていずれも機能している。

 思うに、考えさせられるアニメというのには二種類ある。
 Keyの泣きゲーを原作とする感動系や、『イリヤの空、UFOの夏』『最終兵器彼女』『新世紀エヴァンゲリオン』といったセカイ系など、キャラクターの葛藤などを通して我々すらも人生を省みる作品。
 もうひとつは単純に、ミステリーとしての思考をたのしむもの。前者が哲学的な考えであれば、後者は論理・解明的。
 『オッドタクシー』はその両方を兼ね備えている点であまりにも重厚だ。

 タクシードライバーという職業、そして独身中年男性という何者でもないキャラクターが、事件の渦中にある。
 そもそもタクシードライバーはやや社会的地位の低い存在として扱われることが少なくない。各種作品でもそのような描写はある他、『PARFECT DAYS』の主人公の職も、トイレ清掃員であり、こちらでも同様な状態と描写が認められる。

 更にミステリーとタクシードライバーという繋がりは、我らがホームズの第一登場作『緋色の研究』でも重要な役割を担っている。
 勿論、時代的には馬車なので、その職も「御者」と言うべきだが、BBC制作のドラマ『SHERLOCK』第一話「ピンク色の研究」では、舞台が現代であるため、タクシーに置き換わっている。曰く、誰もタクシー運転手を覚えてはいないし、警戒もしない。

 と、このように、『オッドタクシー』は僕がこれまで見たり読んだりした好みの作品の重要な要素を巧みに用いている。
 その上、このビジュアルなのでアパレルとしても有効で、思わずグッズを買いたくもなる。
 いかに現実描写が素晴らしくとも、あくまでもアニメとして楽しめるのだ。“『CLANNAD』は人生”であれば“オッドタクシーは社会”と僕は思う。

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