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第一歌集『桔梗心音』

はじめに

詠まずに済んだはずの思いを君に。歌にしなければ保てないわが身を越えて。ニ十の首をそろえて、異口同音にあなたへ捧げる。

和歌・短歌ニ十首 作:綾波宗水

袖ゆれる 木陰のかぜも 人が知り 今はやむなし せみの天下よ

野にかたり 想いをはせし 平城京 となりよりそう 朱き横髪

かたよせて 街燈に照る 彼岸花 ゆめのふちなし 冷めぬ左手

いまはなき おもいのたけも 着古して だれのものかも すでにとわれず

またひとつ 夏の夕陽に めしべ散る 土にかえれと あえてのぞかず

突然の あめにめざめて ゆめ流す あえるはずなき 君としりつつ

イヤホンを してもきこえる 雷鳴も かきけせないと 訳知り顔で

いつのまに 花壇にふえし 桔梗かな こころ尋ねる 音もないまま

僕のみが まだかぐのない 居心地を 味わえたから 配流やむなし

「どうしても きみにあいたい」 柄も無く デートと書き添え ついにこのまま

くるしみを たれにうちあけ なぐさむる 当代ひとりも やめぬものなし

失恋を ごまかすために 埃吸い 参考書よむ 今日はドイツ語

遺書だけが 心の壁と 一行も 恋文ついぞ わたされぬまま

約束の 二人であえる その日こそ 僕は消えたい カナン見ぬまえ

進退を 決するためと 思いつつ ライヘンバッハは 君とおちたい

無頼派リベルタン こころやぶれて 退廃派デカダンス まるで改作リメイク まえも君には

もう会えぬ そのことのみが うち響き 教授の顔も 白く反射す

野をかけて たれかしらゆり その蜜も くちるものとは うけいれられず

歴史学 ねじまがるのを 危惧してか 片思いすら 手記にしたため

ガジュマルの 根はもとになし 音あいた いろの薄きを 想い重ねる

さいごに

表紙とシュウスイちゃん

僕にとっての創作の原点は中学生の頃へとさかのぼる。
俳句だった。形成途上の自我の矛盾や恋人への葛藤の言わばはけ口で、季語なんて愚痴をこぼす言い訳でしかなかったかもしれない。だから今では一句も残されていない。
「カクヨム」に登録し、自分が生きていた証・遺書の如く始めた小説執筆。思えば僕にとって創作とは自分を生かす手段だったのだろう。

俳句を書き綴っていた時、僕は松尾芭蕉やその他俳人ではなく、ベートーヴェンのつもりでいた。おかしな話だが、クラシック音楽鑑賞の趣味が既にあったことと、図書館で彼の伝記を何度も読んだことで、彼の作曲への姿勢を憑依させ、そして苦悩を成仏させていたのかもしれない。

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