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私の辞書に◯◯という文字はない

モスキート音という言葉自体はよく聞くし、自分でも使う機会が多い。モスキートは蚊の意味で、つまり蚊の鳴らす音のようなものなんだけど、この「モスキート音」を「モスキート音」だと知ったのは高2の夏だった。

それまでは、「モスキートーン」だと思っていた。

モスキート音について知ろうと思ったことが無いから、文字で見る機会がなく、「モスキート音」だと知らなかった、というだけの話なのだが、それまで私は「モスキートーン」と発音していたのに誰も気づかずにここまで暮らしてきたことに驚いた。

つまり私は高2の夏まで「モスキート音」という文字を見たことがなく、他人が話す「もすきいとおん」という声でしか聞いたことがなかったから、頭がそれを「モスキートーン」と変換し、そのままずっと「モスキートーン」と認識していたのだ。

なぜこのようになったのかというと、一番納得のいく考察としては、私がモスキート=蚊という知識がなかったからだ。これを知っていれば、「もすきいとおん」と聞いた時に、ああ、モスキートの音で、モスキート音なんだな、と変換できたはずだが、それをしないまま、なんの疑問も持たないまま、「モスキートーン」だと思っていた。

多くの人は、モスキートの音(おん)、という理解なのだろうが、私は、モスキーのトーンだと思っていた。音の調子という意味での、トーン。
初めてこれに気がついた時は内心大騒ぎだった。別クラスの友人にまで「モスキートーンってモスキート音なんだって!」と言いに行った記憶がある。


今日、これと似たような体験をした。
単に私の無知を晒すだけの話となるが、意外とこういう“知ってたようで知らない言葉”が溢れている気がするので書いておく。

穂村弘の『ラインマーカーズ』を読んでいた。私にとって問題だったのはこの短歌だ。

「なんかこれ、にんぎょくさい」と渡されたエビアン水や夜の陸橋

穂村弘

りくばし、、、、、、あっ!これがりっきょう!?!?
という、なんともアホっぽい脳内で、自分でも呆れる。
かつて私の辞書に「モスキート音」という言葉が無かったように、「陸橋」も空欄の事項だった。
「りっきょうを渡った向こうの中華料理屋」といった具合に、日常で使う言葉としてよく使うしよく聞く言葉だ。「りっきょう」と聞けば確かにあの青だったり薄緑だったりするあの橋を思い浮かべることができる、が、私は18年生きていて、今まで「りっきょう」を漢字にするという発想がなかった。強いて言えば、「立橋」だと思っていた。道路の上に立っているから。


他人に言ったらおおいに馬鹿にされるような話だけど、こういう発見をしたときはなんだか嬉しくなる。モスキートーンがモスキート音になって、りっきょうが陸橋になる。ひとに言いたくなる体験だ。
もし現実に“ふきだし”があれば、人によって、文字の変換が違うだろう。みんなが「モスキート音」と言っている中で、私だけが宇宙人みたいに「モスキートーン」と言っている様は想像すれば面白い。


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