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 うさぎとカリシが見事に積み上げられた石の柱と半球のドームに目を奪われていると、馬のミイラだ、というリスの声がした。正面に硝子ケースに入った小さな馬の姿が見えた。カリシとリスとうさぎは硝子ケースに近付くと並んで中を覗き込んだ。

 「ミイラじゃないよ」とうさぎが言った。「ハクセイよ」

 「そう?」とリスが言った。「ミイラもハクセイも同じでしょ?」

 「違うんじゃない?」とカリシが首を傾げた。「ミイラってエジプトの王様がなるのよ」

 「違う違う」とうさぎは言った。「ハクセイは皮を剥いで製るから剥製って言うの。死んだ後そのまま固まってるのがミイラ」

 「本当?」とにやけたリスが訝しんだ。

 「だってエジプトのミイラはわざと人が作ったんでしょ?」とカリシが訊ねた。

 「そうよ」とうさぎは答えた。「ミイラは自然に出来ることもあるし、作ることも出来るのよ。剥製は自然には出来ないの」

 「何でわざわざミイラなんて作るのかな」と顔をしかめてリスが言った。

 「復活するの」とうさぎは言った。「死んで抜け出した魂が戻ってくるのよ。そのとき元の身体がないと困るでしょ、行き場がなくて。それできちんとミイラにしてとっておくの」

 くすくすと笑ったリスは顔を説明書に近付けた。「この金華山号も生き返る?」

 「だから」とうさぎも笑った。「これは単なる剥製だって」

 「じゃあ金華山号としてはミイラの方が良かったかもね」と真面目な顔でカリシが言った。

金子浩一郎 「甘い幸せな生活」(1996年)より

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