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僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#3】

#3 辿りついた星系で

「ねぇ、マーク。宇宙旅行だとどこまで行ったことあるの?」
「ちっちゃい頃の記憶だけど、”アイシー”と”モンタ”かな。」
「知らないなー。」
「家族旅行で行ったんだけど、”アイシー”は凄く寒くて”極寒の避暑地”って呼ばれてた。」
「うわぁ、寒そう。冷凍人間になりそう。」
「アイシー博物館に、冷凍人間が展示されてたよ。」
「えっ、うそ。気持ちわるー。ってか、そんなに寒くても人って住んでるんだね。」

 ミステリーツアーは、1時間のワープ時間が設けられている。どんなに近くても、どんなに遠くても一律一時間。距離や位置は着いてからのお楽しみになっているのだ。恐らく注意事項などを記してあるガイドブックを読んでもらうためでもあるだろう。
 今は、そのワープの真っ最中で少し暇を持て余している。ガイドブックに目を通しながら、ごくごく日常的な会話をしているところだ。

「あと何分くらいなの?」
「15分くらいかな。準備しとこう。」

 準備とは言っても、バッグ類には衣類などの生活必需品は全て詰めてある。心の準備ってところか。

――――――――――

ー ガタガタガタガタ! ギューン! ー

 擬音にすると、間抜けな字面だがワープを抜ける瞬間はこう書くしかないほどに、ギューンという音を鳴らす。

 ワープホールを抜けた。それは未知の星系に到着したことを示す。

「着いた!」
「よし、選択だな。どれどれ?」
「どこにする?」

 ワープホールを抜けると、ディスプレイに選択肢が表示される。いくつかの選択肢が提示され、着陸のシークエンスに移行する。着陸までは自動運転なので非常に安全だ。

「選択肢は5つだな。その内、衛星が2つあるから、実質4つか。」
「え?衛星はダメなの?」
「衛星は星の周りを回ってる小さな星だから、開発されてたとしても見所少ないと思うよ。」
「そっかぁ、じゃあ、これは?」

 あれこれ言いながら迷っていた。選択の時間は1時間の猶予が与えられる。3分前からカウントダウンが始まり、選択しなければランダムで選定される。出来れば自分たちで決めたいものだ。

「ん?何あれ?」

 レイニーが窓の外を指差した。選択に残された時間があまり無いが、気になり窓の外を眺める。

「あれは...宇宙船か。ほかの人がこの星系に来る事はないはずだけど...。」

 ガイドブックには【宇宙開発が進んでいない星系】と書かれていて、宇宙船が飛んでいるのはおかしい。
 その宇宙船は僕たちから離れて行く。海賊船であれば警告が鳴り、安全地帯まで自動転送されるから脅威ではないのだろうが、たまたま長距離渡航中の他星系の宇宙船なのかもしれない。

「大丈夫だよ。離れて行く。たまたま通りかかったのかも。」
「そっか。未知との遭遇かと思っちゃった。」
「そうなると本当のミステリーだね。」
「追っかけてみる?」
「え??」
「だから、追っかけてみようよ。」

 驚きつつも、いつもの彼女だ。興味が沸けば、それを追いかけずにはいられない。しかし、残された時間があまり...。

「追尾、っと。」

 返事を待たず、追尾スイッチを押してしまった。

「ちょっとレイニー!!!」
「いいじゃん。ちょっとだけ!」

 それは本当にツアーガイド無しのミステリーの始まりとなった。

 最初の行き先は、通りがかった宇宙船。

「さぁ、行きましょう!」

 始まった...。

つづく

T-Akagi

【 つづきはこちら(note内ページです) 】


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