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僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#24】

#24 紫の魔女はどこに

「え!なぜ!さっきまでここに!!!」
「一瞬だよ。ほんの10秒とか20秒とか。」

 紫の魔女は突如として、その存在を消した。
 部屋は暗くなっていて、どうやら蝋燭が消えている。廊下からの光で真っ暗になっているわけではなかったが、この部屋に僕たち二人以外の人がいない事はわかった。

「ちょっと待って。揺れてない?」

 カタカタカタカタ、ガタガタガタガタ

 揺れは徐々に大きくなり、さっき体感した地震以上の揺れを感じる。

「うわあああ!やばい!これ、崩れないか!!」
「どうしよう!」

 ひとまず、人工の建造物である廊下に戻った。相変わらず揺れは収まらない。

「さっきより長い。どうなってるんだ。いや、待てよ。」

 マークは思い出した。

「レイニー!出られるかもしてれない。さっきは地震が来た後に、元来た道がなくなったんだ。」
「そっか!もしかして!」
「そう。道が戻っているかもしれない!」

 二人は収まらない揺れの中で、廊下を駆け戻った。扉はさっきと何も変わっていないが、大きく違って見える。今は希望が持てたからだ。
 この先に、帰る道が続いているかもしれない。
 しかし、開いた扉の向こうには思っていたものを違う光景が広がっていた。

「これは…何…。」

 扉の向こうは道を塞いでいた土壁ではなかった。かといって、さっき通った小屋と似た造りの部屋でもない。
 そこには、広大な空洞が広がっていた。
 なぜ一目見ただけで空洞だと分かったかと言うと、目の前の光景が絶えず動いていて、それがそれなりに大きな空洞だと分かったからだ。

「どういうこと…?」
「わからない...。」

 通路の奥に道は続いておらず、洞窟のような空洞が広がっている。そして、その光景は動いている。つまり、

「ねぇ、マーク。これって...。」
「もしかして…。」
「多分、そうだよね…。この廊下の方が動いてる。」

 地震の強弱を付けながら揺れが続いていて、少し体が振られる感覚さえある。間違いなく、二人が今立っている廊下が動いていた。
 気を抜いたら、その空洞に落ちてしまう恐怖さえ感じる。

「このままじゃ、地上に出られないな。」
「どうすればいいの…。」

 落ちないように捕まりながら、廊下から空洞を覗き込む。
 やはり、動いていた。振られて飛び出そうになる程ではないものの、気を抜いてバランスを崩せば落ちてしまいそうだ。

 どうしようかと途方に暮れていた二人だったが、レイニーが何かを見つけた。
 レイニーは、空洞の先を指差し、こう言った。

 「あれ、何…?」

 指差した先には、キラキラと光りながら動いている物体を見つけた。その光は場所を変えながら、大きさも光の強さも絶えず変わっていた。
 そして、その光が徐々にこちらに近づいて来るのもわかった。

「あれは何だろう…。こっち来る。」
「大丈夫かな…。もしかして、魔女...。」

 徐々にその光が人である事がわかった。明らかに浮いている。ただ者ではない。
 それに、光源がひとつでない事もわかった。

「もう一つ、光りがある。」

 レイニーが指差した先の光は、一つになったり二つに分かれたりしながら、大きさを変えている。それに、時折聴いたことのないような音を鳴らした。

 そして、その二つの光がこちらにも迫って来た。

「まずい、こっちに来る。」
「大丈夫かな…。」

 正直言ってわからない。光は動いているし、この廊下も動いている。

 必死に光を追っていると、風切り音と風圧と共に目の前まで迫って来た。

『あなたたちは、逃げて。』

 声は突然聴こえて来た。その声は、さっき蝋燭の火に鍵を当てていた時に聴こえた声だ。

「声、、、どこから。」
『あなた達に直接語りかけています。あなたたちの目の前にいますよ。』
「もしかして、目の前の光…。」
『そう、紫色の光は魔女、黄色い光が私。私は、光を司る神【ルーフ】。』
「光の神…ルーフ…。」
『そうです。この星の創生に関わった時、全てを終わらせる神【ロキ】に邪魔され、封印されてしまいました。そして今日、あなた方がその封印を解いてくれました。感謝しています。』

 僕達はどうやらとんでもない事をやってのけたらしい。封印を解いて神を蘇らせたとは…。実感沸かないけどすごいな。

『これからあなた達を出口のある通路まで導きます。ただし、魔女の邪魔が入り続けています。私と魔女の光のほかにもう一つ光があるのがわかりますか。』
「…あ、あります。四角い光が見えます。」
『そこが地上への洞窟です。あなたが通って来た洞窟。真っ直ぐ駆け上がってください。』
「え、でも、遠すぎて届かない…。」
『今から、徐々に廊下を近づけます。なるべく、近くまで。近寄ったら乗り移るんです。』

 選択肢など恐らく存在しない。僕達が地上へ逃げ延びるには、どうにかあの四角い光に飛び移るしかないのでだ。

『それでは、地上まで登れば魔女は追っては来ないでしょう。』
「わかりました!ルーフさん、ありがとう!」
『どうか、これからもあなたの人生に光が当たり続けますよう。』

 そう言うと、直接語りかける声は止んだ。そして、徐々に四角い光に近寄り始めた。

「レイニー、聴こえた?」
「うん、あの四角い光だよね。怖いけど…。行くしかないんだよね。」
「そうだな。もうちょっとだ。行けると思ったら、先に行ってくれ。」

 徐々に近づいて来たことで四角い扉の先が見えた。扉の奥は、廊下の手前にあった小屋と同じ造りの部屋だった。その先に、洞窟がある。

「あぁ、これ以上は近づかないのかな。」

 扉は目の前なのだが、距離にして2メートルほどの距離がある。どうやらこれ以上は近づけないようだ。

「レイニーいけるか?」
「助走つけたら多分いけると思う。」
「よし、それじゃ、早く行こう。いつまでこの状態が保たれるかもわからないし。」

 レイニーは廊下を少し戻って、位置についた。深呼吸をしている。

「はー。よし、行くよ!」

 レイニーは運動が得意な方ではないはずだ。だけど、度胸だけは据わっている。うまく助走をつけ、ジャンプした。

「よし!いけたよ!」

 レイニーは思ったよりも余裕があった。向かいの扉の向こうに着地し、すぐにこちらを向いて、手を振った。

 今度は僕の番だ。
 そう思った時、予想だにしない事態が起こった。

「お前たち!逃げる気か!」

 どこからともなく呼び掛ける声と共に、地上への唯一の扉が離れ始めた。

つづく

T-Akagi

【 つづきはこちら(note内ページです) 】


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