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地獄に突き落とされた男 ~ インフルエンサーの場合 ~《短編小説》

世にも奇妙な物語のようなテイストのお話が好きな方は是非♪

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僕のSNSには100万人の登録者がいる。
YouTubeは累計1億回再生されている。

インフルエンサーとして、一つの成功の形を体言出来ていると言える。
しかし、そこで満足するわけにはいかない。

僕の野望は多岐に渡る。

「今よりも一つ上のステップに進む為に、ライブステージの活動を開始します。」

僕は、自身のYouTubeやSNSで大々的に宣言した。

宣言したSNS投稿には50万"いいね"が付き、報告のYouTube動画は公開から1日で100万回再生を超えた。

もう成功は約束されている。
間違いなく成功する気しかしない。

もちろん、慢心はない。

パフォーマンスが中途半端だったり面白くなければ長続きはしない。

ステージデビューまでの一ヶ月。

地獄の合宿を敢行した。
それを綴ったドキュメント映像が記録的な再生数を記録した。

さぁ、満を持してのステージデビューだ。

大きな発表も用意しているし、生配信で全世界に向けて発信している。

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『Takuyaさん。準備OKです。あと5分です。』
マネージャーの城石が、広い会場内を飛び回っている。

デビュー当日、会場入りする時にはさすがに緊張した。

SNSや動画などで活動していると、どうしても多くのスタッフと関わる事はない。
それはもう凄い数のスタッフがいた。
会場の運営を担当する会社の社長とその社員が50人ほどいたし、音響・照明関連だけでも20人ほどがスタンバイしていた。
バンド形式の演奏をお願いする為に、10名ほどの演奏者も呼んでいる。

会場内外の警備員もいたので、総勢100名はいたと思う。

かたや、YouTubeも100万にの登録者数が居ても、うちのスタッフは10人も居ない。
マネージャー、編集担当の5人、撮影担当の2人、事務関係を1人。
あとは、企画や演出は全部僕自身が担当している。

まだ売れていなかった頃は、マネージャーと友達にも手伝ってもらいながら撮影や編集もやっていたが、それも懐かしい記憶だ。

そんな僕が、挑戦する大きな会場のデビューステージには、何千人かの観客が来る。
チケットは販売開始直後にSold Outしたとの事で、満員になるのは間違いない。

ここ一ヶ月の地獄の合宿で、パフォーマンスは格段に良くなった。
昨日の、直前生配信には同時接続50万人を越え、コメントでは「楽しみにしてます!」「早く見たい!」「必ず見に行きます!」など、とても盛り上がっていた。

ー・-・-・-・-・-

『Takuyaさん、準備いいですか?』
「OK」
『それでは、オープニング行きます。』

トランシーバーで音響・照明関連に人たちに向けての開始の合図。

大きい会場なだけに、圧力のあるオープニングミュージックが流れ出す。

まだステージに出ているわけではないが、もう既に観客たちの歓声と地響きのような興奮が伝わって来る。

所々、小さな電灯が付いただけの薄暗い通路を進んでいく。
アリーナのど真ん中から、飛び出して登場するためだ。

隙間からキラキラとして照明が時折差し込む。

これから、飛び出したらノンストップだ。

幕間の映像などは差し込んでいくものの、2時間以上の歌唱やトークを披露する。

もちろん、動画のための企画もステージ上で行って、リアルタイムにアップするという荒業をやってのけるのだ。

『それじゃ、ここです。オープニングのカウントダウンが終わった瞬間に、飛び出しますので頑張ってください。』

マネージャーはそう言い残し、次の段取りに取り掛かる為この場を離れた。

ー バーン!バーン! ー

これは、ステージ上のビジョンに映し出されたカウントダウンの数字が減っていく音だろう。
リハの時に見せてもらった。

10秒前からは、音でもカウントも始まる。

ー 10! ー

ここに来るまで何年もかかった。

ー 9! ー

売れない時に支えてくれた仲間がいた。

ー 8! ー

企画がうまくいかず有り得ないほど叩かれたりもした。

ー 7! ー

バズるためにいろんな人たちに迷惑をかけたりもした。

ー 6! ー

ファンが増え始めた頃のことは一生忘れない。

ー 5! ー

これからも挑戦は止めない。

ー 4! ー

求めてくれる人がいる限り。

ー 3! ー

いつまでも、いつまでも。

ー 2! ー

その始まりはここだ。

ー 1! ー

「さぁ、第二章の始まりだ。」

小さく呟き、最後の気持ちのスイッチを入れた。

足元のプレートから一気に上に向かって力が加わっているのがわかった。

次の瞬間、扉を潜り抜けステージ高くジャンプした。

「お待たせーーーー!!!!!」

ー スタッ ー

着地した僕は、その場で少しだけの余韻を楽しみ、顔を上げようとした時にとんでもない違和感に襲われた。

全く音がしない。

歓声どころの話ではない。

無音。

今何が起きている?

顔を上げ観客席を見渡した。

「え...みんなは...僕のファンは...」

観客などそこにはいなかった。

アリーナは何千人も入る席数だ。
チケットが完売したとも聞いている。

何かで来れない人はいてもこれはありえない。

混乱して気づいていなかったが、音楽も止まってしまった。

「曲は...え...なんで...」

ステージのど真ん中でうろたえる。

次の瞬間、ステージ上のビジョンに映像が映し出された。

そこには、このステージの恐らくリアルタイムな映像が映し出されている。

すると、その映像の僕の後ろに近づいてくるよく知る人物が映った。

『てってれーーー!ドッキリーー!!』
『ハハハハハハーー!』

マネージャーと撮影担当が僕の後ろから現れたのだ。
話ているのはマネージャー、笑い声は撮影担当者だ。
いつもの撮影スタイルだ…が…。

「え...え...いや、ドッキリ...って…」
『わからない?わからない?今日のステージは、全部、ドッキリでしたー!』

頭が真っ白だ。
今日のステージ自体がドッキリ...?

「いや...歌とかパフォーマンスとか...これから...」
『はーい。状況を説明しますねー。今、この瞬間は全てライブ配信されています!』

ビジョンの映像にはコメントも映し出されていて、

ドッキリ大成功ww
やったーーー!!!
Takuyaくん、顔顔ー!

信じられない反応...。

「待って...ライブは...?」
『ライブどころかステージパフォーマンス企画自体がドッキリでーす!』
「って、合宿は...動画とか配信とかしてたのに...?」
『あれも全部ドッキリです!しかもー、』

しかも...?何?なんなんだ?

『このドッキリはファンの方全員に協力してもらった2ヶ月に渡るドッキリ企画でしたーーー!!!』

バレないかドキドキしたーー!
合宿がんばってる姿見て笑いこらえてたよー
このドッキリのためだけに曲作ったとか笑うー!

『というわけで、これも動画になると思うんで、Takuya、一言どうぞ!』

カメラを向けられる。

「...あ、あぁ...いやーうそでしょ...やられた...」

ドッキリに掛けられる事は、よくあった。
ドッキリ企画はバズりにバズって、記録的な再生数を叩き出した事もあった。

だけど、僕が本気になって進めていた企画がまさかドッキリに遭うなんて...。

『反応悪いですけど、多分本当にショックなんでしょうね。でも、この配信、同時接続数が今100万人を突破しましたー!』

すげーー!
100万人とか快挙!
神企画!おもしろい!

自分だけ置いてけぼりを食らったみたいだ。

なんでこんな...ひどい…。

『それでは、ドッキリの種明かしも終わりましたので、配信終わりますねー!ありがとうー!ほら、Takuyaも』
「あ、ありがとう...」

ありがたくない。絶望だ。どうして...どうして...。

『ふー、終わったー。こりゃバズってるな。今すでに。Takuya最高だったよー。』
「なぁ、」
『え、どした?もう終わったから撤収しようぜ。』
「お前、僕の夢知ってるよね…。」
『そりゃ知ってるよ。今回の事でまたバズって、人気出るよなぁ。』
「アーティスト活動やりたいって言ってたじゃん...」

気持ちの整理がつかないまま、言葉を絞り出す。

『あぁ、でもさぁ、、、バズる方が大事なんじゃない?』

何の迷いもなく言葉にしてきた。

そりゃ、その夢は僕だけのものだ。他の人たちには関係ない。

「バズったらいいわけじゃないよ...」
『何、言ってんだよ。お前が行ったんだよ。「バズるなら何でもいい」って。』

雷に打たれたような気分だった。
何年も前、売れない若者だった時に、何してでも売れようとしていた。
その時にそんな事を言っていたかもしれない。

『あとさ、お前は俺の夢を潰したんだ。これくらいで文句言うな。』

親友から全力で殴られたような気持ちになった。
そうだ。完全に忘れてしまっていた。
動画やSNSの活動をするずっと前、バンド活動をしていたのにマネージャーにしてバンドを辞めさせた。

『ま、バズったんだからいいでしょ。』

そう言い残して本当に撤収してしまった。

心にポッカリ穴が開いたような、抜け殻になってしまった。
その後の事はほとんど覚えていない。

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そこから数日、しばらく嫌になっていたが、徐々に日常を取り戻していった。

「はーい、Takuyaです。いやー、配信とか動画、見てくれました?やられました。ってか、ファンの人たちも知ってたって聞いてショックでしたよー。」

YouTubeのライブ配信をしている。
動画撮影までに、少しファンに向けて話しておきたいな、と思ったからだ。

「アーティスト活動が夢でねー。また機会あったらやりたいけど、信じられないよー(笑)」

愛想笑いしながら、少し本音が出た。
視聴者のコメントは概ね優しいものだった。

しかし、そのファンもドッキリに協力していたかと思うと、信じられなくなってきてしまっていた。

「それじゃ、また動画見てねー」

ライブ配信を締めようとした瞬間だった。

『はーい、ストップー!』

なんだなんだ!またマネージャーだ。

『ここでファンの方々に報告とお知らせがあります。』

え、報告?お知らせ?聞いてないぞ?

『Takuyaのドッキリに協力してくれて本当にありがとうございました!
あのライブ、本当に会場を借りて、スタッフもたくさん集めて、歌もヒットメーカーの方々に作って頂いておりました!
なので、払うお金がありませーーん!』
「おい!どういう事なんだよ!?」

素が出てしまうほどの驚き。あのライブにかかったお金のこと?なんでそんな事になってるんだ!?

『はいはいはい、続けるよ。
払うお金ないはないので、Takuyaは1億円稼いできてください!』
「いやいやいや、冗談じゃないよ。どういうことだよ。」
『仕方ないじゃん。色んな所にお金かかるんだからー。』
「何で俺が払わなくちゃいけないんだよ。」
『え、Takuyaのためのドッキリだから!』

コメント欄は、これを企画だと思って茶化してくるものばかり。笑っている人もいる。

「うそだろ...おい。」

これからお金を払うために何が待ってるんだ…。
狂ってる。狂いまくってる。

『バズったんだからいいっしょ?』

決め台詞のようにそう言い残して去って行った。

この一言でこれからも全ての責任を負わされるのだろうか…

END

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