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僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#19】

#19 ここはどこだ。

 レイニーと再会し、早速今まで来た道を引き返し始めた。

 長い廊下をてくてくと歩いて行く。左右に牢屋がある異様な廊下。
 今まではレイニーを探すのに必死だったが、マークにとって牢屋を見ること自体始めて。
 昨夜、捕まった詰め所のような簡易な牢屋ではなく、ちゃんと人をここに閉じ込めておく事を目的としているのがありありと伝わって来る。

 それにさっきまで居た女性はどこかに行ってしまった。
 もう先に帰ってしまったんだろうか。
 僕たちが再会した瞬間にもういなくなっていて、謎は残ったままだった。

「ねぇ、マーク。ここどこなの?」
「わからない。僕たちが到着した山があった国を出た所にある森の小屋からここに繋がってたんだ。」
「そうなんだ。私、意識が戻った時には捕まってたから。」
「とにかく、ここから早く出よう。もうすぐ部屋があるはず。そこから洞窟に入れる。」

 二人は扉まで辿り着いた。

 そして、マークが扉の鍵穴に鍵を差し込もうとした時だった。

「うわぁ!またか!!」
「きゃあ!揺れてる!」

 廊下がガタガタと音を立てて揺れ始めた。
 それは、洞窟の途中に感じた揺れに近いものがあった。
 揺れは20秒ほど続いただろうか。また地震に見舞われてしまった。

「レイニー、大丈夫?」
「平気。怖かったけどね…。」
「地元にはこんな地震ないもんね…。」

 驚きながらも冷静さを取り戻した。
 そして、マークは鍵を開け、すぐに扉を開いた。だが、そこには…。

「え…。そんなはずは…。」

 扉の向こうに部屋は無く、空間さえもなくなって、目の前が岩壁になっていた。

「ここに小屋と同じ造りの部屋があったのに…。どうしてっ!」
「本当にここなの…?別の扉じゃないの?」

 そんなはずは無かった。廊下を真っ直ぐに進んで来たから、この扉しか有り得なかった。

 扉の向こうにあった部屋が消えた。
 部屋に繋がった洞窟へも行けなくなった。
 あるのはこの廊下だけ。

「マーク、大丈夫だよ。きっと、どこかに出口あるよ。」

 レイニーには、マークが焦っているように見えた。本当は自分だって、ここから出られるか不安いっぱいだった。でも、二人して焦っていたって何も前に進まない。焦りを隠して、精一杯の強がりを言ってみた。

「レイニー、ありがとう。」
「マーク、それよりやれる事やってみようよ。」

 マークにとって、気丈に振舞うレイニーは心強かった。それがたとえ強がりだったとしても、不安に覆い被せるくらいには心強かった。

 二人はもう一度廊下を戻ってみた。

「そういえば…。」

 レイニーの捕まっていた牢屋に行く前に立ち止まった謎の扉の前に辿り着いた。

「この扉、開かなったんだ。さっき居た女性がレイニーはここだよって言ったのに開かなくて。」
「女性って?そんな人いたの?」
「そうか。レイニーは見てなかったんだ。レイニーが牢屋に捕まったのを教えてくれてね。監禁されていたみたいなんだけど、レイニーの所まで連れて来てくれたんだ。」

 扉に辿り着いたはいいが、たしかこの扉は開かない。試しに鍵穴に差し込もうとしたが、うまく差し込めなかった。

「鍵を全部開けられるはずなんだけど、ここだけ開かないんだ。」
「どういうこと?」
「さっき捕まってた女性の話が本当なら、この廊下も小屋も魔女が作ったもので、その魔女が作った鍵は全部この鍵で開けられるらしいんだ。でも、ここだけが開かない。なぜなんだろう。」

 レイニーは少し考えるそぶりをしている。
 魔女の話しが出た時点で、どういう事だよとなるはずだから仕方ないかとも思う。
 そして、何かに気付いたようにレイニーは口を開いた。

「ちょっと待って。その女性。捕まってたのに何で魔女の事をそんなに詳しく知ってたの?」
「え、だってそれはほら、捕まってたから色々見たんじゃないか。それに話したのかもしれない。」
「捕まってた時、私には何も話してくれなかったわ。顔も合わせなかったし、正体も教えてくれなかった。ここがどこかもね。」
「…って事は。」
「あなたたち、そこで何してるのかしら。」

 真実に近づきつつあった時に、後ろから突然声がした。
 それは、たしかにさっき一緒に居たレイニー以外の女性の声だった。
 ただ一つ違ったのは、さっきの弱弱しさは微塵も感じられない事だった。

「あなたはさっきの…。もうここから逃げたのかと…。」
「とぼけなくていいの。」

 やはり簡単にはいきそうになかった。
 振り向くとそこにはさっきの簡素な服ではなく、装飾品でいくらか飾りつけられていて、全身が紫色の衣装で覆われた女性がいた。

「とぼけるなんてそんな。廊下を戻ったんですけど、部屋が無くなってて。慌てて戻って来ただけですよ。」
「あら、あなたたち逃げられなかったの。そう。そうなの。」

 ふふふと不適な笑い声を漏らしながら、こちらをじっと見ていた。

「すいませんけど、私がどこにいるか教えてくれたんですよね。」

 レイニーが会話に入って来る。このままじゃ埒が明かないと思ったのだろう。
 すると、紫色の女は返事を返して来た。

「そうね。どこに入れとくか決めたのは私だから。」
「それ、どういう意味ですか。」

 レイニーは少し怒気を強めて、確実な答えを求めた。

「どういう意味って、そのままよ。あなたをどの牢屋に入れるか決めたのは私。ここに連れて来たのも私よ。」

 意外にも紫色の女は、あっさりと答えた。

つづく

T-Akagi

【 つづきはこちら(noteページ内です) 】



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