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大阪散策 止め処も無い「白雪温酒場」

かつて大阪によく行く機会があった。そして、白雪温酒場は、関西圏を瞬く間に席巻した雑誌「Meets」でいち早く取り上げられた、地元密着型の名店である。今も店は続いているというから、なんとなくうれしい。

九条で降車。商店街を抜けて、川に向かって歩く。

宮崎駿の千と千尋の神隠しの、居酒屋版だ。夕暮れ、夕日の沈む寂しい堤防沿いに、ぼおっと一軒の酒屋の明かりがともっている。夏場は始終入り口の引き戸が開いていて、L字のカウンターと厨房が店の奥まで続いている。友人と連れ立ってこなければ、なかなか、このおとぎの世界に立ち入るには勇気が要る。

東京の居酒屋にも名店、美味しい店、すごい店はたくさんあるが、こちらの店の(当時の)関西ならではのメニューをご紹介したい。

まず、子芋の煮ころがし。子芋の名の通り、本当に小さい。おそらく水の中で擦り洗いしながら皮を剥いだと思われる、親指から小指の爪くらい(!)の大きさの不揃いの里いもだ。これをあっさりした出汁で炊いて、醤油と砂糖とみりんなどの甘辛のたれでからめ煮にしたもの。ひとつぶ、箸で口に入れたらもう、驚きの旨さ。あくまで「アテ」、つまり肴として作られているから、ビールが進む。

はものつけ焼き。鱧というと、最近では関東圏でも魚屋に並ぶようになったが、関東圏に生活するみなさん、はもの「落とし」、つまり湯引き以外にもおいしい食べ方があるってご存じだろうか。鱧の骨切りした身を串に刺して炭火で焼き、仕上げには、鰻のように甘辛のたれを付けて炙り焼く。もともとうま味たっぷりかつ癖のない魚だ。炭火の力も手伝って、外はかりっと、中はふっくらジューシー。これぞ頬が落ちるおいしさだ。つけ焼きも一度はぜひ楽しみたい。落としとはまた違った楽しみ方である。

そして、ねぎま。こちらのねぎまは、豚バラと長ネギを食べやすい大きさに切ったものを串にさして、湯にどぼっと浸けて「湯がく」。薄口しょうゆベースのあっさりしたたれに、和辛子を添えて一皿出される。「?」焼かないの?と怪訝に思うが、これを一口食めばビールと辛子醤油の無限ループに突入だ。炭火料理もできるのに、あえて湯がいて出すのだから、お店の自信も伺うことができる。

もちろん、おなじみの瓶ビールが欠かせないが、なにわの居酒屋らしく、注ぎ口と取っ手が付いた錫の酒器、「ちろり」で熱燗も一合くらいはいってみたい。

そして、熱燗とくれば、きずし(しめ鯖)も欠かせない。関西のイケてる食い物屋は、使っている昆布のグレードが信じられないくらい高いことを思い知らされる。常連など、きずしに熱燗とほかにちょっと、なんて粋な注文をする方も多い。

わたくしは瓶ビールがあれば全国どこでも幸せであるが、白雪温酒場を思い出すと、うちにちろりがあればどんなに良いだろうかと考えてしまう。日本酒など飲まないのに。

…ちろりは、レンジに入れてはいけませんよ。念のため。


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