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“地獄”も、見方次第で“笑い”になる【多田修の落語寺・地獄八景亡者戯】

 落語は仏教の説法から始まりました。
だから落語には、仏教に縁の深い話がいろいろあります。
このコラムでは、そんな落語と仏教の関係を紹介していきます。今回の演題は「地獄八景亡者戯」です。


  亡くなった人が三途の川を渡り、閻魔大王の下に向かっています。途中いろいろな店が並び、大黒天の米屋、文殊菩薩の学習塾、弘法大師の書道教室などがあります。その先の念仏町では、大勢の亡者が罪を軽くするために、懐具合と相談しながら念仏を買っています。いよいよ閻魔大王の裁きです。多くの人が極楽行きになりますが、医者、山伏、軽業師(サーカスのような曲芸をする人)、歯医者の4人は地獄行きになってしまいます。
 
 4人は釜ゆでになりますが、山伏が呪文で適温の風呂に変えます。針の山に送られたら、軽業師が難なく登頂、針をなぎ倒しながら下山します。閻魔大王が巨大な鬼に4人を食らわせようとすると、歯医者が鬼の歯を全部抜きます。鬼が4人を噛まずに飲み込むと、医者が鬼の体内をあちこちいじって遊んでいます。

 この落語は、地獄絵図のパロディ(有名な話や作品を面白おかしく作り変えたもの)です。パロディは元ネタを知っている方が楽しめます。この落語をより面白く聞くために、地獄がどのような世界なのか、調べてみてはいかがでしょうか? さて、物事にはさまざまな見方ができます。地獄という恐ろしい場所でも、笑いの種は見つけられるということです。

 「八景」とは、ある地域の8つの景勝地を選んだものです。中国から来た習慣で、日本では神奈川県の金沢八景や、滋賀県の近江八景などがあります。あるいは、この題は仏教の八大地獄の「八」をかけているのかもしれません。

『地獄八景亡者戯』を楽しみたい人へ、おすすめの一枚
東京の落語家は演じない演目です。桂枝雀師匠のCD「枝雀落語大全第十集地獄八景亡戯/SR」(東芝EMI)をご紹介します。パワフルな芸で爆笑を誘います。


 

多田 修(ただ・おさむ)
1972年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、龍谷大学大学院博士課程仏教学専攻単位取得。現在、浄土真宗本願寺派真光寺副住職、東京仏教学院講師。大学時代に落語研究会に所属。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

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