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追うほどに、逃げていく。

酸素カート使用者となって歩みが遅くなった分、多くを視野に捉えられるようになった。特に四季の移ろいを感じられるようになったのは、俳句づくりと相まって良かったと思える点。逆に――

皮膚科受診で先に出た母子と図書館で待ち合わせ。
強い日差しの中を一人歩いて行く。
遥か前方に薬局から出て来た母子を捉えた。
ただ声を掛けるには遠い。

気持ち早足で行くも追いつけない。
酸素供給量を毎分3Lにして加速するも無理。
逆に遠ざかってる……五歳のスピードを舐めてた。
いつもはパパに合わせてくれてたのかい?

諦め、立ち止まって電話を掛ける。
その背中は、気づいてくれない。
アスファルトから立ち上る水蒸気の中、揺らめきながら母子は去っていく。
まるで映画の一場面。

――パパを、置いていかないでくれぇぇ

妄想炸裂して、妻子に捨てられる男の台詞を吐いた。
とてもヘタクソだった。
それで逆にほっこり。
まあいいや、とまたゆっくり歩き出す。


逃水や独り台詞を母子の背に

(にげみずやひとりぜりふをぼしのせに)

季語(晩春): 逃水


※その後、図書館目前の自販機で涼をとってる母子と再会。
「あ、ウサギと亀だ」


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