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月下の「喜ばせ競争」

十五夜と比べてなかなか姿を現さない月。
昔の人はそれを「居待月ゐまちづき」と呼んだとか。

「ママ、お腹空いたー」
五歳息子が痺れを切らす。
いつもより三十分遅い居待食は自家製コロッケ。
妻の初チャレンジメニュー。

「おまたせ。味がないからソースいっぱいかけてね」
謙遜にドバっとかける野暮はしない。
息子もそのへん分かってる。
先ずはそのまま食べて親指グッジョブ。笑顔になる妻。
畳みかけるように「こんなおいしいの初めて」
とろける妻……よく分かってる。

私も一口。
うん。時間をかけて炒めた玉ねぎが効いている。
形は不格好でも、洋風で上品な味わい。
――資生堂パーラーのクロケットみたい。
息子に負けじの褒め言葉が出た。
「やだ嬉しい」

喜ばせ競争は激化し、息子はさらにおかわりを所望。
寝しな、「お腹痛い」になったのはご愛敬か。
――無理しすぎだよ。
言いつつ、私もクロケットは写真でしか見たことなかったことを反省する。


居待月妻のコロッケ揚がりけり

(いまちづきつまのころっけあがりけり)

季語(仲秋): 居待月、居待 ……旧暦八月十八日の月。「座して待つ月」の意。


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