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デザイン経営とDXが抱える共通課題

街で目につく、ちょっとおしゃれなママチャリがgood design companyのディレクションだったと知って、妙に納得してしまいました。どちらかというと質実剛健な日本の製造業がデザイン経営を志向する中で、外部のコンサルタントを頼るケースが増えています。これは私たちにとって、より良いものを手にする機会が増える一方、企業はITと同じように外部依存というリスクを抱えることになってしまうと思うのです。

 気がつくと、身の回りに「good design company(gdc)」が溢れている。gdcとは、そう、あのくまモンを生み出したことで有名なデザイン会社である。単にロゴやイラストを描くだけでなく、コンサルティングという事業形態で顧客企業・組織のブランディング全般に携わっている。その代表事例である中川政七商店を見ても分かる通り、クライアントの文化や歴史に着目したリブランディングを得意としているようだ。

 横浜で生まれ育った私にとって、数年前、地元の鉄道会社・相模鉄道(相鉄)のイメージを一新された際の衝撃は大きかった。JR線への乗り入れに伴う東京進出を控えて、野暮ったいローカル路線だった相鉄が一気に纏った近未来的なカッコ良さは、車両だけに限らず、駅舎や制服、広告の全てに一貫していて、「やればできるじゃん」という嬉しさを覚えずにはいられなかったのだ。なんと言ってもこの後には、おしゃれ路線として名を馳せる東急との乗り入れが待っている。相鉄100年の歴史を想わせるCM動画は、二階堂ふみさんをフィーチャーすることでしっかりとバズっている。

 ちょうどその頃、新橋で開かれたgdcの20周年を記念する展示会では、これまでに同社の手掛けた作品が一堂に会していた。くまモンはもちろん、食器、食品、文具、書籍とあらゆるものが所狭しと並べられ、まるで雑貨屋の様相を呈する。それでもやはり気取ったデザインは、どちらかというと贈答品のイメージで、ブランディングの機能とはそういうものだと示されていた感がある。ところが最近、その対象が日用品にまで広がってきているのだ。

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 地場に根付く伝統産業を起点に見れば、福井県鯖江市の漆器を、食洗機に耐えうる品質に改良したRIN&CO.だったり、宮崎県の焼酎酒造の別蔵として、クラフトジン人気のきっかけを作った尾鈴山蒸留所だったり、付加価値の作り込みによる差別化戦略という中小企業改革のお手本のような事例が並ぶのだけれど、その影響が大手企業のニッチな商品に波及しはじめているから面白い。

 例えば、昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)が作る食品用ラップ・キッチニスタ。サランラップの競合として従来からプロの料理人には人気の高かった製品が、一般消費者も受け入れられるよう、昨今のデザイン家電にも馴染む意匠に生まれ変わっている。日東電工ニトムズのステーショナリーブランド・STALOGYが本場ヨーロッパの伝統的な気品を漂わせるように、品質だけでは選んでもらえない時代にブランディングは重要性を極める。

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 gdcの代表・水野学氏は著書『センスは知識からはじまる』(朝日新聞出版)にて、デザインという行為が感覚的な作業ではないことを説いている。デザインは個々のデザイナーのセンスに委ねられるものではなく、定量化による再生産が可能だからコンサルティングビジネスとして建て付けられる。その知見を得るために、中小企業ばかりでなく、大手企業も挙って彼ら彼女らを頼ろうとするのだ。これが特許庁も推進するデザイン経営の枠組みの中で有効に機能するのだから、流れは加速するだろう。黒鳥社・若林恵氏がまとめられた『デザイン経営ハンドブック』(特許庁)によれば、デザインの役割は、これまで「市場を理解すること」だった経営を「社会を理解すること」まで高めることなのだ。

 デザイン経営はデジタルトランスメーション(DX)の文脈で特に意識される。いや、むしろ、ともに人を中心に据えるアプローチは元を辿れば同じもの。企業の中でITの延長に位置付けられるDXの課題を見れば、デザイン経営自体も同じ課題を抱えていることに気付く。端的に、外部のコンサルタントの力を頼り過ぎているのだ。ITを外部から調達することが当たり前の日本企業において、デジタル変革を推進する人材は社内にほとんどいない。同じようにデザイン経営を推進する人材もいない。だからgdcが身の回りに溢れるのだ。

 デザインとDX、これからの経営の2本柱(束ねて1本)をともに外部リソースに依存することの危うさは、発注能力の低い企業がITシステム作りに失敗するケースが増えていることからも明確で、決して自社内での育成を諦めてはいけない。これが組織の多様性を醸成する一面も持つだろう。短期的には外部コンサルタントの力を借りつつも、中長期的な戦略立案は常に自分事として捉える必要があると思うのだ。gdc自身は中川政七商店と協業し、THEという自社の商品ブランドを展開している。

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