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栗山町・地域おこし協力隊の3年間の活動を整理してみた|情報発信プランナー・望月貴文

はじめまして。北海道・栗山町地域おこし協力隊(ブランド推進課所属・以下、協力隊)情報発信プランナーの望月貴文(たかふみ)です。

私のこれまでの経歴はプロフィール覧に掲載していますが、行政での経験がほとんどです。ただ前職の初任地である北海道・室蘭市では、余暇活動の中で地域の方々と共に地域づくり活動を勤しんでいた過去があり、そのときの体験が、現在の地域づくり活動における源泉になっています。

そのような背景もあって「行政と地域の双方の視点から地域課題を認識し、地域全体の中での最適解は何か?」を探りたく、協力隊の活動をはじめました。

本日(3月28日)、3年間の成果を報告する報告会があります。発表時間が短い関係もあり、プレゼン資料を作成するよりも、note記事で共有しながら発表したほうが良いかなと思い、筆をとりました。

また、これを期に自身のnoteも起ち上げ、今後の活動の記録をしていきたいと構想もしています。

7000字を超える拙文となりましたが、ご一読いただけますと幸いです。


■1年目で活動したこと|2021年度

1 情報発信プランナーとしての基本的な考え方

3年間にわたって情報発信プランナーとして活動するにあたり、最初の1ヶ月は、地域の情報発信がどのようになっているのか調査しました。栗山町に関係する資料(広報紙や議会だより)といったアナログ媒体や飲食店SNSといったデジタル媒体のデータ等をザッピングし、栗山の地域情報の傾向を分析しました。

栗山町は(即時性の高い)フロー情報が多いが(蓄積型の)ストック情報は少ない、という事実を認識した上で、下図のような私案から「栗山町の日常(顔や音)が見えるようなストック情報の蓄積をすることで、栗山町の魅力的な情報が可視化されることで町の価値を向上できる」という仮説を立てました。(全然間違ってる可能性はありましたが…)

図表:自治体における情報発信のタイプ(望月の私案)

上記の仮説に基づいて以下の3点を念頭に置き、情報発信プランナーとしての活動を開始。

1 オウンドメディアの起ち上げ(自発的な公的発信媒体の確保と運用)
2 フォロワー数やPV数に囚われない形で、栗山にあるヒト・コト・モノといった記録をする(フロー情報ではなくストック情報の発信を主とする)
3 デジタルだけではなくアナログ媒体との連携を意識した取り組み

皆さまのおかげもあり、3年間継続することができました。

2 栗山町公式note「くりやまのおと」開設

最初に情報発信のベースとなるくりやまのおとを、2021年7月に開設しました。選択した配信元(媒体)はnote株式会社が運営するnote。note社の地方公共団体支援プログラムにより、有料版のnote proを無償提供を受けることとなり、栗山町は北海道では、東川町上士幌町猿払村に続く4番目[1]の同プログラム利用自治体となりました。

くりやまのおとは「栗山の音を、書き留める・積み重ねる・継ぎ合わせる」を目的に、栗山のヒト、モノ、コトに焦点をあてた記事を掲載しています。

▼ 栗山に人に焦点をあてた「くりやまのひと」

▼ 栗山の歴史や地域の活動に焦点をあてた「まちのこと」

など、配信開始から2年9ヶ月で109記事を作成しました。

※2022年4月からは同じ情報発信プランナーの西村さやかさん、総務課の伊藤昴(すばる)さんも執筆していただいています。

3 広報紙「広報くりやま」との連携の“第一歩”

くりやまのおとを開設して3ヶ月が経過した2021年10月には、広報紙の特集も担当しました。

当時、町のシェアキッチン「ヤムズキッチン(現・くりふとキッチン)」の1周年であることと、栗山町外から出店される人の紹介をしたいという私の希望もあってシェフの"美味しい"が集まる空間と題し掲載。

それぞれの店舗の情報はもちろんのこと、どのような形でヤムズキッチンに応募し、どのような思い料理を提供しているのか。生の声を紙面に落とすという作業は、楽しくもありましたが、難しい作業でもあることを痛感した機会になりました。

広報くりやま2021年10月号

※翌(2022)年11月号にも地域とデジタルをつなぐファブラボ[2]の現場と題し、広報紙の特集を担当しました。

広報くりやま2022年11月号

4 情報発信に係る先行自治体への聞き取り調査

地域づくりの活動の基本は、先達(先人・先輩)から学ぶであると認識している私ですが、日本全国には移住や地域愛溢れる情報を発信する地域が多くあります。

愛媛県・東温市や山口県・周南市(2022年に視察)等[3]、noteなどのWEB媒体を積極的に活用している自治体・団体や、広報紙の制作に力を入れている自治体に赴き、聞き取り調査を行いました。

聞き取り調査に伺った、いずれの自治体も、従来の自治体職員のあり様から一歩踏み込んだ活動をされており、その熱量に大きな刺激を頂きました。

特に「広報うちこ」を制作している愛媛県・内子町で当時広報紙を担当されていた兵頭裕次(ゆうじ)さんとの出会いは、次年度以降の活動に大きな影響を与えていただきました。(詳細は後述)

広報うちこ2022年2月号

■2年目で活動したこと|2022年度

1 姉妹Instagram「くりやまのおと」の配信開始

2022年3月から、同じ情報発信プランナーとして西村さやかさんが協力隊として加わり、4月からは総務課・広報担当の伊藤昴さんと、(主に)2課3名で連携をとりながら、広報紙・情報発信の改善活動が活動の軸となりました。

これまでは、noteを中心としたストック情報に偏重した情報発信となっていましたが、日々移り変わる栗山の日常を切り取るフロー情報重視のSNSも必要であると感じており、2022年4月に栗山町公式Instagram「くりやまのおとを立ち上げました。

当初、西村さんがメインで運用していましたが、2023年からは伊藤さんも加り、現在は2名体制で運用しています。

2 愛媛県・内子町での全国広報広聴研究大会参加と交流

愛媛県・内子町は、広報全国コンクール(公益社団法人日本広報協会主催)で、日本一となる「内閣総理大臣賞」を2度受賞した過去があります。

先述の訪問の際、広報担当者の兵頭さんから「来年、全国の広報担当者が集まった全国大会を、内子町で開催するのですが、望月さん参加しませんか?」という嬉しいお誘いをいただきました。

コロナ禍の影響で延期していた大会が2022年の6月に控えていると聞き、これも何かの縁と勝手に思い、西村さんと伊藤さんを誘い同大会に参加。

撮影:筆者

特に、広報の担当者である伊藤さんは、なかなか悩みやスキルを共有する場所が無かったと言っていたともあり、大会後、兵頭さんから(ほぼ)マンツーマンで指導や悩みを共有させていただく機会をいただきました。

3 広報紙「広報くりやま」との連携の“第二歩”

全国大会でトップレベルの広報担当者との交流や指導を受けたメンバーは、広報紙の改善はもちろんのこと、デジタルとアナログの連携を強く意識した取り組みを行いました。

その一環として、くりやまのおとと広報紙を連動させることにしました。広報紙に書ききれない深掘りした情報について、QRコードを通じてくりやまのおとで見ることができるよう意識した構成にしました。

▼ くりやまのおとと広報裏表紙の連携例

広報くりやま2022年6月号

なお、このアナログとデジタルの連携を取り組みを見て、北海道の政策情報紙「プラクティス」(発刊:北海道市町村振興協会)から取材を受けることにもなりました。

出典:北海道市町村振興協会(2022)「プラクティス」第39号,pp26-27

4 地域プロジェクトマネージャー養成課程を修了

行政機関に在籍が長くおり、大学院も政策学が専攻であった身としては、自身のこれまでのスキルや経験等を栗山町の政策等に活用していきたい、という欲もあります。

将来的に、栗山町に具体的に町の政策に対して、立案・意見ができる立場になることも想定し、社会構想大学院大学の履修証明プログラム[4]である地域プロジェクトマネージャー養成課程を受講しました。

和歌山県・橋本市をターゲットに調査・研究を実施し、最終課題として市長に対して歴史を活かした地域づくり「令和の一六塩市」[5]をテーマに発表を行いました。

撮影:筆者

5 カメラを活用した先行事例への聞き取り調査

2年目は、カメラを通じた情報発信の先行事例として奈良県生駒市の「いこまち宣伝部」、香川県・小豆島の「小豆島カメラ」、滋賀県・長浜市の「長浜ローカルフォト」の関係者からお話を伺いました。

デジタル化が進んだ現在は、アナログと両立しながら自発的に情報を発信できる時代となりました。いずれの活動もカメラを通じて、WEBでの発信や写真展の開催など、地域の魅力を市民が主体的となって継続的に発信しており、調査先からはおのおのイキイキとした発言が多く生まれていました。

なお、今回の調査を経て西村さんは「くりやまカメラの会」というイベントを企画し、カメラ通じた情報発信や地域の魅力を発見する取り組みを進めています。

■3年目で活動したこと|2023年度

1 「くりやま未来カフェ」の主宰&広報紙「広報紙くりやま」との連携の“第三歩”

情報発信はWEBや広報紙だけではありません。井戸端会議に代表されるインフォーマルによる発信も多くあります。世界的・歴史的にもサロン活動を通じて芸術や文化、政治など話し合いことで、地域や国の発展にも寄与してきました。

情報発信プランナーとしても、これまでの一方的な情報発信だけ足りない、という実感もあり、地域の課題や町の政策について共通テーマで話し合うようなイベントを開催してみたい、と思いが強くなってきました。

2023年6月にくりやま未来カフェと銘打ち、シンポジウム形式のイベントを行いました。くりやま未来カフェのコンセプトは「コーヒー片手にお菓子を食べながら栗山の未来を考える」

ゆったりとした雰囲気の中で、のんびりとした流れの中でテーマに沿った内容を考えていただくイベントにしました(半面、お話の内容は熱くになる可能性もありますが…)。

第一回のテーマは、自治体広報の最前線と栗山の情報発信のこれからを考える。その名のとおり、栗山の情報発信とはなにかを考える機会を設け、先述した内子町職員の兵頭さんをお招きして、広報うちこを例にコンセプトである「あなたとまちをつなぐふるさと情報誌」からの地域の変化、人の想いを紙面に表現する楽しさについて熱く語っていただきました。

写真提供:栗山町総務課

翌日には、総務課主催の職員研修の講師として、兵頭さんに登壇していただき、広報制作の作法や心構えについて、若手職員にレクチャーしていただきました。

写真提供:栗山町総務課

12月には第2回となる「くりやま未来カフェ vol.2」も開催しました。今回はあったらいいなをカタチにするファブラボ栗山って何?と題し、日本で最初に創設されたファブラボであるファブラボ鎌倉の代表・渡辺ゆうかさんをお招き「地域づくりの点においても教育や自身の好きな居場所などとして、ファブラボは大きな可能性がある」[6]と話し、鎌倉の事例を踏まえた栗山での可能性についても触れていただきました。

写真提供:栗山町総務課

2 文化資源を活かした団体やまちあるき事例の聞き取り調査

3年目は調査、地域資源を活用したまちあるき(ガイド)団体や歴史的価値のある文化財や空き家を活用した取り組み団体に伺いました。(青森県・八戸市、山口県・萩市、広島県・尾道市、福岡県・太宰府市)

いずれの団体も、年齢・経歴・出身など多様な人たちで構成され、一つの思いで活動されており、郷土愛とともに責任感にあふれる形で、自分の楽しみと地域のために精力的に活動される人たちからお話を伺いました。

3 デスティネーション・マネージャー育成プログラムを修了

2023年4月から今月(2024年3月)まで、北海道大学大学院 国際広報メディア・観光学院の履修証明プログラムデスティネーション・マネージャー育成プログラムに受講し、先日(25日)、履修証明書と「デスティネーション・マネージャー」の称号をいただきました。

地域(観光)資源と情報発信の連動を考えるために受講しましたが、講座の中で生まれた知見から、次の活動が生まれることになりました(後述)。

撮影:筆者

■活動を通じて嬉しかったこと

取材を通じた情報発信から主要メディアへの発信に繋がったこと

くりやまのおとを掲載をキッカケ(だと勝手に思っている)に、取材先が北海道の情報誌やテレビなどの映像メディアなどに掲載されることも多くありました。

特に2022年2月に公開した切り絵作家・小林ちほさんの記事を見て、活動内容に目が留まったNHK北海道が、15分の特集を組んでいただきました。後日、ご本人や家族からも御礼の言葉をいただきました。

北海道広報コンクールで第一位となる「特選」に選出されたこと

3年間の活動の中で一番の成果は、伊藤さんたち総務課が手掛けた広報くりやまが、第70回北海道広報コンクール(主催:広報広聴技術研究会実行委員会)の「組み写真部門」で第一位である「特選」を受賞したことです。(私では制作したわけではない)

本命の「広報紙部門」の選出では無かったのが残念でしたが(伊藤さん本人が一番悔しがっていました)、この度の「特選」の選出は、広報紙では「初」の快挙となりました。

広報くりやま2023年8月号

「WBC優勝の歓喜、栗山監督と町のつながりがよくわかる写真企画である」[7]との評価を受けた本組み写真。伊藤さんたち広報メンバーの努力と広報うちこをはじめとした先達からの教えが実った、喜ばしい出来事となりました。

■仮説の検証・課題

以上が、私が情報発信プランナーとして行った主な活動となります。上記以外にも、可視化できていない活動も多くあり、整理できない&しにくいものも多くありました。

もちろん、それぞれ活動については、当然私一人で完遂したものではなく、役場職員や栗山町民、取材・調査の皆様のおかげにより実施できたものがほとんどです。

冒頭の仮説である「栗山町の日常(顔や音)が見えるようなストック情報の蓄積をすることで、栗山町の魅力的な情報が可視化されることで町の価値を向上できる」が、自身の3年間の活動で立証できたかといえば、なかなか首を縦には振れないのが現状であります。

コロナ禍や実力不足もあり、力及ばずといった場面も多くありました。仮説の立証までは長い年月を要しますが、少しずつ継続していくことで、何らかの形で成し遂げることができると思っています。今後の課題は、これらを継続できる体制と成果の可視化が挙げられます。

■次年度の動き・文化観光プランナーとして

3月末をもって、協力隊の任期を終えますが、たくさんの方々からご縁をいただき、なんとか栗山町に留まることができました。次(2024)年度から文化観光プランナー(フルタイム会計年度任用職員)として活動することになります。

※まずは1年間。これまでの情報発信プランナーの活動も継続します。 

近年、文化庁が所管する文化財行政は、大きな渦中にいます。2019年の文化財保護法の改正により、文化財はこれまでの「保存」から「保存と活用」へ大きく舵をきることになりました。

従来型の保存重視だけではなく活用しなければ守れない文化財が増えたこともありますが「いろいろな文化財を連携して活用することで『観光をはじめとしたまちづくりに変化が生まれる』」[8]ことも、行政と地域の活動の中で可能となりました。

文化観光プランナーとなったのは、先に受講した「デスティネーション・マネージャー育成プログラム」で文化財保存活用の先生や専門家たちを言葉を交わす中で、栗山の文化財や地域資源を学術的視点や自治体の制度設計の下でキチンと整理すれば、学校教育や地域づくりや観光にも活かされるのでは、という問いが生まれたのがキッカケとなります。

先述の調査先である山口県・萩市では萩まちじゅう博物館をコンセプトに地域の資源を学校教育や社会(生涯)教育、観光資源や地域の誇り(シビックプライド)として結びつけるエコミュージアム[9]を実施しています。

出典:萩まちじゅう博物館HP

栗山にも魅力的な多くの地域資源があります。特に北海道最古の酒蔵である小林酒造やハサンベツ里山の取り組み、WBCの元監督である栗山英樹氏と栗山町との関係は、地域の独自性が高く、地域の魅力を伝えるには充分な潜在力を秘めています。

写真提供:栗山町建設課

『ノスタルジックシンメトリー』
第3回くりやま景観フォトコン・準グランプリ
撮影者:札幌市・平出 美穂 撮影場所:小林酒造

文化観光プランナーとして、これらを地域資源の中から、地域で生まれたマチの魅力を、文献や記録に基づいて丁寧に可視化(物語化)していく活動を少しずつ進めていきますので、これまでの活動で生まれた成果(資源)がより活かされてくるのかとおもいます。

具体的な動きについては固まっていないものも多いですが、これからの活動も注目していただきければ幸いです。

以上となります。3年間活動を支えていただいた関係者の皆様には、心からの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

■注釈

[1]2021年5月18日時点、note社提供資料より
[2]木工工具などのアナログ工作機械をはじめ、3D プリンター等のデジタル工作機械を備えた市民工房。栗山町内にファブラボ栗山は、2023年4月にオープンした。ファブラボは世界100ヶ国、2000カ所を超える拠点を構えるネットワークがあり、世界中でデータを共有が可能。
[3]他、愛媛県・西条市の「LOVE SAIJO」、東京都・小金井市の「まろん通信」、埼玉県・三芳町の広報紙「広報みよし
[4]学校教育法105条に基づき、大学の学生以外を対象にした特別課程のこと
[5]橋本市は、かつて豊臣秀吉から船で運んできた塩を売る許可を受けた場所で、一と六のつく日に市が開かれていた
[6]栗山町HP「まちのニュース ファブラボの可能性を考える|第2回くりやま未来カフェ
[7]北海道HP「第70回北海道広報コンクール審査結果
[8]國學院大學メディア「保存から保存&活用へと舵を切る文化財
-背景にある日本の課題と、法改正によって引き出される地域の魅力とは -

[9]文部科学省HP「エコミュージアムについて


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