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本人が望んでいないのに、レカネマブ投与のために認知症の診断をするのは難しい


レカネマブについて、よく相談を受けています。
レカネマブを投与するためには診断は早い方が良いのでしょう?でもうちの母親(父親)は診断を受けたがらないのです。
というものです。


はたして、認知症の診断をレカネマブ投与のためにできるだけしたほうが良いのでしょうか?現時点で私が考えていることを述べさせていただきます。


早いに越したことはないが・・・

レカネマブを主語にして語る場合には、認知症の診断は早いに越したことはないということになります。適応が、軽度認知障害から早期の方だからです。アミロイド蓄積による神経細胞の障害が起きてしまった後では、治療効果は期待できません。神経細胞を守るためにも早期の診断は大切だと思います。

一方で受けたくないと言っている本人にとってはどうでしょうか?認知症という病気は、まだまだ偏見が強く、なりたくないと思われている病気の一つです。そのレッテルのようなものを貼られると思った時、随分と恐怖を感じるかも知れません。またご両親などが認知症であった場合は尚更です。受け入れる方と、受け入れられない方の差が激しいのもこの病気の特徴だと思います。また、診断に際して以下のような不確定要素もありますので、嫌がっている方への診断には慎重にならざるをえない面もあります。


診断確率

まず、認知症の診断の確率から考えてみます。
認知症の診断は、通常生活機能に支障ががそれなりに出てから行われることが多いです。しかしMCI(軽度認知障害)の場合は、非常に症状が軽いです。軽度認知症の状態では、1年後に認知症ではない状態になっている可能性もあります。その診断の確率を上げるために、患者さんはアミロイドPETや髄液検査といった特殊な検査を受けることになります。

検査費用は高額療養費制度が利用できますので、所得に応じて減免されます。一方で、キャンセルすると大きな損失が出るため、本人の同意は必須と言えます。またアミロイドPETや髄液検査で陰性であった場合は、様子観察となります。とくにMCIである場合は、特に何の支援もなく、半年後、一年後に認知機能検査を繰り返すことになるかもしれません。診断を受けることを拒んでいるご本人がメリットを感じることが非常に難しい状況といえます。

検査で異常が出なければ、様子観察となる

認知症の診断の定義から言っても、1−2年の時間が経てば、認知症かどうかはわかります。しかしその間の診断のつかない状態、不安を抱えた生活がしばらく続くことになります。
例えば、癌の腫瘍マーカーだけ上がっていて、がんが見つからないというような状況と同じ不安感があるように思います。


遺伝子多型を調査することによる弊害

レカネマブの副作用もあります。ARIAというのは、投与後に脳出血や脳浮腫をきたす副反応です。この副反応の出方は、APOEという遺伝子多型により副作用の出方が違うことがわかっています。ただ、このような遺伝子多型を調べるということは、子供が受け継いでいる可能性が出てきますので、知りたくないという権利に十分配慮しないと、子供世代にまで不安が及んでしまう可能性があります。このような不安には、遺伝カウンセラーなどの説明が有効であると思います。


投与開始からのハードル

PETや髄液検査で、アルツハイマー病と診断されたとします。そしてレカネマブの適応が決まったとします。そこからは2週間に一度1時間の点滴を受けることになります。経過観察の時間、受付時間などを考えると2-3時間+通院時間が必要です。定期的なMRI検査も行います。最初は一人での通院が認められるかどうか不明です。家族も心配でしょうからしばらくは付き添う必要があるでしょう。


半年後からは、近隣の認知症専門医が投与できる場合もある

半年たって点滴治療が安定していると、近隣の認知症専門医のもとで点滴治療が可能となります。しかしながら、そういった環境が居住地の近くになければ、遠方まで通う必要があるでしょう。今のところ投与期間は最大1年半とされているようです。


治療効果が家族や本人の期待通りになるか

レカネマブの治療効果については、進行はゆっくりになるが続くというものです。本人や家族が期待する効果と、治療効果に乖離がある場合もあります。投与前に、どの程度効果がある治療かは主治医に尋ねておく必要があるでしょう。


まとめ

レカネマブ投与ということから考えれば、早期の認知症診断は非常に重要です。投与の適応となる方は一部であること、診断後、レカネマブ投与の適応とならなかった場合、またMCIであった場合は診断がつかない場合もあります。診断後の不安に対する支援の見通しをきちんと立てたうえで、診断を勧めていく必要があるでしょう。
ある程度の予備知識や診断後の支援もまた普及させていくことも重要ではないかと思います。

とはいえ、ご本人が診断に消極的な場合においても、まずはかかりつけ医や地域包括支援センターにご相談されるとよいでしょう。時間やタイミングを味方につけることは大切です。ご本人の認識によりそい、タイミングをはかって認知症専門医にご紹介いただくとよいかもしれません🍀




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