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アルツハイマー病~診断の精度を高める


はじめに

今日はアルツハイマー病についての研究結果の紹介です。意外と知られていないのですが、認知症の診断というのは非常に難しいです。なぜならアルツハイマー病とかレビー小体型認知症のような脳神経系の神経細胞やその周辺の病気というのは、神経病理(脳の解剖)による病名だからです。例えば癌であれば、組織の一部を切除して分析することができます。一方で脳は一部でも傷をつけてしまうと、その部分の機能が障害されてしまうため、病理診断ができないのです。ですからMRIなどでの検査を間接的に行ってきました。
今回は、脳の中の病気のもととなるたんぱく質を光らせることができるアミロイドPETとタウPETを使った研究です。

アルツハイマー病の診断

アルツハイマー病は、脳内にアミロイドベータとタウ蛋白という2種類の物質が異常に蓄積することで発症します。これまでの診断方法では、神経心理検査や頭部MRIなどで行われていました。しかし臨床的にアルツハイマー型認知症と診断された人を、死後解剖して病理学的に確認した研究では、その診断の正確さを表す感度は71%~89%であることがわかっています。つまり通常の診察、MRIによる診断では、1~3割の人の診断が誤っている可能性があるのです。
その診断精度を高めるのがPET検査です。


アミロイドPET検査とタウPET検査

アミロイドPET検査とタウPET検査は、これらの物質の蓄積をより正確に検出することができる検査です。この検査により、認知症の診断精度が向上することが期待されています。レカネマブの治療においては、アミロイドPETが重要視されています。今回はさらにタウPETを追加することによって、診断精度を上げるという研究です。


研究結果

 慶應義塾大学病院と量子科学技術研究開発機構の研究チームによる研究では、このタウPETを行ったことにより、認知機能正常者(40名)の25%にアミロイドand/orタウの蓄積が確認されました。また、軽度認知障害(25名)では68%で診断名が変更になりました。認知症(42名)でも23.8%の人で診断が変更になりました。


今後の展望

 この研究では、健常者の25%に神経変性がみられる可能性がわかりました。これは認知症の新薬開発や予防法の確立にも応用できる可能性があります。
また、軽度認知障害や認知症の人の診断が正しければ正しいほど、治療薬に反応する人を見つけられます。効果のない人に投与することも減ります。問題はコスト面ですね。最近保険適応になったアミロイドPETで、自費ですと15万円ほどです。健康保険が使える場合もあります。
このような研究がもっと発展していくことで、認知症の治療がより具体的にできるようになっていくでしょう。


Shimohama S, Tezuka T, Takahata K, et al. Impact of Amyloid and Tau PET on Changes in Diagnosis and Patient Management. Neurology. 2023;100(3):e264-e274. doi:10.1212/WNL.0000000000201389

慶応大学プレスリリース




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