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新潟県村上市の地域組織のまちづくり取組を視察しました。

 1月16日、地域組織によるまちづくりの取組を学ぶため、新潟県村上市の「村上地域まちづくり計画の取組」を視察しました。ご対応いただきました同市議会議会事務局、自治振興担当の皆様、誠にありがとうございました。

 村上市には、自治会などの連合体である「地域まちづくり協議会」という組織が市内に17あり、それぞれが、自治体と協働する形で、「地域まちづくり計画」を策定し、各種の事業、まちづくりの取組をされています。村上市の中心市街地地域に「村上地域7まちづくり協議会」があり、「村上地域まちづくり計画」の取組をされています。
 各自治会の機能低下、より広範な地域の課題への取組という点で、地域まちづくり協議会が設けられており、こうした組織は本市にないことから、新しい知見を得るべく、市民協働、住民自治の事例として、視察させていただきました。
 以下、1.村上地域の課題、2.所感、3.視察の概要をまとめました。
所感では、視察を受け入れていただき誠に恐縮ながら、同協議会やまちづくり計画が抱えている課題を指摘させていただきます。すばらしい景観維持の取組をされている村上が、まちづくり協議会の取組も含めて、次代において日常的な賑わいを実現していくことを微力ながら応援したいと考えています。

1.村上地域の課題
 村上地域の人口は2011年4月で、14,174人(市全体67,442人)、2016年4月で13,572人(市全体で63,195人)、2021年4月で、12,646人(市全体で57,825人)であり、10年間で10.8%減少している(市全体で14.3%減少)。
 2021年10月に、「まちづくり計画」見直しに伴うアンケートを行ったところ、取り組むべき課題として「就労」「高齢者対策」「空家」「防災」「共助・共援活動」「若者」「人口」「少子化」などが挙げられた。アンケートの対象は各町内選出の協議会の歴代代議員。


 村上市民全体を対象にしたまちづくりアンケート(2021年2月実施)では、今後のまちづくりについて、「移住者を増やす」「子育て環境を充実させる」「女性や高齢者の活躍する場を増やす」などの意見があった。女性の活躍を進めるためには、「女性が働きやすい環境の整備が重要」「高齢者の多様な働き方や社会進出を進めるには、移動手段など生活環境づくりが重要」などの意見があった。
 課題としては、①少子高齢化への対応、②自然・景観の保全と活用、③安全・快適な地域の創造、④まちなかの活性化、⑤文化交流の推進、⑥市民と行政の協働のまちづくり、⑦地域を担う人材の育成、が挙げられている。

2. 所感
 村上市における「地域まちづくり協議会」は、一定地域の自治組織の連合体と言える。これは、人口減少・高齢化による自治組織の能力の弱体化への対応と、一定規模地域における自治活動の組織体の有用性という二つの側面があると考えられる。いずれにおいても、地域協議会の必要性を示すものと考える。本市においては、地理的要因などから複数の自治会からなる共同組織の形成を後押しすることも検討に値すると考える。
 村上市は、城下町で歴史的な建物が多く存在する。2000年ころからは、商業者・市民グループ(村上町屋商人会など)が建物、塀などの再生活動を行い、歴史的な外観を再生させ、観光客の来訪に貢献している。
 

村上市観光協会HPより

 2008年には、「旧町人町・旧武家町地区」が都市景観大賞「美しいまちなみ賞」の大賞(国土交通大臣賞)を受賞している。同協議会では、景観計画についての学習や生垣の整備の学習、実践が行われている。地域協議会の活動、特に環境整備、伝統文化関連の活動は、歴史的外観、風致の維持向上に少なからず貢献していると考えられる。同市は2014年に景観行政団体(県の景観に関する事務を行う自治体:本市は景観行政団体になっていない)となり、2016年に景観計画を策定している(本市独自の景観計画はない。県のものを適用している)。同市の「村上市歴史的風致維持向上計画」は2016に国の認定を受けている。
 本市においては、残念ながら、景観計画は策定されておらず、市・市民の景観に対する意識はあまり高くないと考えられる。美しい街並みをつくり、次代に引き継ぐ上で、村上氏における市民協働の景観関連の取組は大変参考になると考える。
 
 以下は、村上地域において、地域の日常の活性化、及び、人口減少の歯止めがなされていない点と、地域まちづくり協議会との関係の考察である。

 一定の自治組織の連合体という性質のためか、協議会の役員は、地域内の自治組織の役員に限定されており、若い方、女性、現役世代が協議会の運営に関与する状況になっていないのが残念である。自治組織の役員とともに、様々な属性の方が、協議会の運営に参加できる方法が適切と考える。これは、自治組織も同様である。

村上地域まちづくり計画資料より


 若い方・女性は、4つの活動部会に入って活動するとのことであるが、リクルートに苦労されているとのことである。若い方は、商工会議所青年部が中心とのことであるが、数としては、青年層の事業者数より、多数である勤め人、個人の協議会の活動への参加は非常に少ないという。自治組織・地域組織は、高齢者、男性、従来型組織構成者が主な構成者となっている
 まちづくりにおける従来型組織でない各グループは、例えば、村上市における町家再生を行ったグループ(村上町屋商人会など)などは、情報収集に長けていたり、勉強会など知識の研鑽にも熱心である。一方、従来型組織の構成者は、現役世代の方と比べて、現代のインターネットを通じた情報集能力が必ずしも高くなく、また、勉強会などを通じて最新、広範な知識の研鑽を積み重ねているケースは比較的少ない。多様な年代、職種、出身地の方とコミュニケーションをとることも少ないことが推測される。
 村上地域まちづくり協議会は、生涯学習を活動の一つとしているが、自治体の市民協働部門は、積極的にこうした活動にアプローチしたり、従来型組織の方に対して、情報や知識向上の支援を行うことが有効することが有用と考える。情報収集能力、知識、コミュニケーション能力を高めることは、現役世代、女性、多くの個人の方との共通の土台を作るもので、地域活動がより充実し、市民参画の質と量が高まる重要な経路であると考える。同時に、自治体は、現役世代、女性、多くの個人の方が、市政に参画する手立てを講じるべきである。

 村上町屋商人会など、村上市の商家や市民のグループが近年の20数年間、町屋再生で行ってきた活動は、観光の誘致という点では、国を含めた各界の極めて高い評価を得ている。国や自治体の補助金も受けてこなかった同グループは活動の自主性を保ち、革新を行う上で、既存の地域組織とも、一線を引いてきたとされる。

国土交通省HPより

 上に指摘したような情報、知識、コミュニケーション能力における既存の地域組織の限界を認識していたことも一因と推察される。一方で、上記町家再生の活動は、イベント開催期間中は別として、日常的な地域の活性化につながっていないことは、多く指摘されているところである。こうしたイベント頼みの活性化は、イベントを開催しない日常への影響が乏しいことから、地方創生で「イベントはするな」という教訓になっている。重要なことは、日常的な活性化、具体的に言えば、一年を通じた地域のトータルの生産額の維持、向上である。ただし、村上の場合、イベントの効果は10億円とされている(経費が少なく、補助金がない)。

村上の町屋再生を紹介した本


 村上地域まちづくり協議会のまちづくり計画には、こうした日常的な地域の活性化に関する取組がみられていないが、地域まちづくり協議会が、上に挙げたような手段などを通じて、現役世代、女性、多くの個人の方の参画を得て、地域を代表する能力を高めることで、地域における日常的な地域の活性化に取組む官民の活動を、有効に支援していくことが可能になると考える。このことは、村上地域のみならず、本市の各種組織とまちづくりの関係においても同様と考える。
 なお、村上地域協議会が設立時に視察した、兵庫県朝来市の地域自治協議会では、産業振興、子育て支援という、現役世代、女性を対象にした、人口維持につながる施策を行っていることも付記しておく。

以下、視察の概要です。
 
(発足の経緯と構成)現在の村上市は2008年4月に、旧村上市を含む5市町村が合併し、形成された。ある程度面積としてまとまった地域における課題の解消や活性化を目指し、2011年末、「地域まちづくり組織」として、「まちづくり協議会」が市内に17組織設立された。各協議会には、市の職員が配置され、人的支援を行うとともに、交付金による財政支援を行っている。
 「村上地域まちづくり協議会」はその中の一つで、2012年3月に設立された。2つの小学校区、41町内(町内会のこと、郊外では「区」と呼称。代表者は町内も区も、区長)で構成されている。各町内から総会を構成する代議員62名が選出される。総会で会長を含む役員10数名が選出される。役員会の事務局は、市職員が担当する。役員会の下に、「環境整備部会」「伝統文化部会」「生活安心部会」「地域活性部会」の4つの部会が設けられており、それぞれ関連の活動を行っている。

(他自治体の参考事例)発足時の2011年に、区長会が秋田県湯沢市を視察した。同年、関係者が先進地域として、兵庫県朝来市を視察した。
※朝来市は、地域自治協議会を設けている。部会として「地域づくり」「障害学習・健康福祉」「環境安全」の3つを設けている。

(地域まちづくり計画の位置づけ)計画は、市の条例によって位置付けられた地域におけるまちづくりの基本方針、地域に将来像、事業等をまとめた計画で、2022年~2026年は「第3次計画」期間となっている(第3次村上地域まちづくり計画)。計画は、各まちづくり協議会が主体となって、地域住民の合意形成を図りながら、策定したもので、地域まちづくりの指針となっている。
 
 (令和4年度各部会の活動)環境整備部会では、秋と春の「花一輪挿し運動」を行っている。これは、各自が花などを生けて外に飾り、おもてなしの心を表し、地域に緑と花の潤いを与える運動で、約一か月行っている。このほか、「生垣・庭木剪定講座」、「景観計画の研修」を行っている。伝統文化部会では、「城下町村上探検ガイドの頒布」、「城下町探検ウォーク、稲荷神社への解説付き巡行」「お祭り体験講座」を行っている。生活安心部会では、「あいさつ運動キャラクターバッジ配布」、「三の丸カフェの運営(月2回)」、「交通安全啓発グッズの交付」を行っている。地域活性部会では「お地蔵さまスタンプラリー」「商店街(交流施設「土間ん中」)イルミネーション設置」「村上キーホルダーガチャの設置」を行っている。
(注)令和4年度は、コロナ感染予防のため、複数の事業が中止となった。
 
 (令和4年度市民グループなど他組織との関わり)環境整備部会では、ロータリークラブ、花ボランティア会、小学校、一部町内と協働し、除草や花壇整備などを行っている。伝統文化部会では、「村上大祭屋台巡行生配信への支援」、「七夕祭り継承イベントへの支援」を行っている。生活安心部会では、「通学路の安全確保での関係団体との協働」、「生活支援協議体(生活支援事業者、社会福祉関係者、行政機関)との情報共有、講座参加」を行っている。生活安心部会は、生活支援協議体のメンバーである。地域活性化部会には、村上商工会議所の青年部が参加している。協議会としては、「高校のまちづくり学習に講師として参加」、「災害ボランティア活動」を行っている。

 (町内の活動への助成)世代間交流やコミュニティの創造促進など「交流支援事業」として、登山愛好会への助成、カラオケ同好会への助成、地域の茶の間への活動助成、ラジオ体操実施の助成、町内行事への助成が行われた。「伝統行事の支援事業」として、村上大祭参加受入の助成が6町内、七夕祭り参加受入の助成が1町内に、それぞれ行われた。「美しい街並み事業」として17町内の清掃などの事業の助成が行われた。「町内活性化支援事業」として各町内集会施設の備品の購入助成が16件行われた。

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