見出し画像

【スタートアップ向け】適切な評価制度運用のために給与の歪みを解消する

はじめての評価制度の運用で困っている人の参考に

こんにちは、ノインの土屋です。さて今回は、株主のCoralコミュニティの人事系の勉強会で議論になった社内の給与の歪みについてです。
これから会社をスケールさせようとしている経営者の方、評価制度の導入や運用で悩んでいる人事の方などの参考になればと思っています。

評価制度を上手く運用する前提として、社内の給与を歪ませてはいけない

信託型SO(ストックオプション)の記事の反響もあり、最近よくスタートアップの経営者やHRの方から、評価制度の相談をいただくようになりました。

評価制度をどう運用していいかわからないという悩みをスタートアップの方から聞くと、そのうち3割ぐらいの方が「そもそも社内の給与がかなり歪んでいる」というお話しをされています。

もちろん我々にもそういう時代はありましたが、3年前ぐらいから改善に注力をして来ました。2022年3月の評価会議では出席者から「歪みほとんどなくなって、納得感ある状態になったね。」みたいなコメントもありました。給与を歪んだ状態で評価制度は適切に回らないと考えています。

なぜ給与が歪むのか、その発生経緯は?

まずスタートアップは給与が歪みやすいです。ここでいう給与のゆがみは社内でのバランスの話です。どういうことかイメージつきにくいと思うので、まずは歪みの発生が想定される経緯をご説明します。

スタートアップの初期はお金がなく、そして昔はスタートアップは給与水準が低かったので、経験者採用であっても給与を下げてオファーすることが多かったです。一方でシリーズAやB等でお金に余裕ができてくると、現年収に合わせてオファーできるようになります。初期メンバーの給与はあとから入ってくるメンバーと比較し、低くなりがちです。

そしてSOも付与している場合、「初期メンバーはSO結構付与してるから給与低くていいよね、本人ともそれで合意できているし」みたいな話が更に重なります。その影響が社内に残ってしまうとBさんより古株のAさんのが活躍してるし役職も上だけど、新人のBさんのが給与高いみたいなことが起きます。

大企業でも評価制度の運用次第で給与のゆがみは当然発生しますが、スタートアップのこの入社時期やストックオプションによる歪みは場合によっては大企業の比ではなくなってしまいます。

特にストックオプションに関しては、社内的にもコンフィデンシャルにしてることも多いと思うので、この一見意味不明な「歪み」については、場合によってはCEO以外にはロジックが理解できない状態になりえます。

そして人事部長やCHROなど採用も評価も労務もわかるマネジメントクラスがいない場合も、給与は歪みやすいと言えるでしょう。当社の初期フェーズにおいても人事領域を担当する私自身が、職種ごとの給与水準やオファー方法(入社時一時金やグレード調整給、役職設計)などの知見やテクニックを持ってなかったため、今ならしなかったであろうオファーの提示の仕方をしてしまったことが数件あります。すでに本件は解決済みではありますが、私自身の苦い思い出の一つです。

オファー年収を決めるときは採用側面だけでなく、評価や運用までを意識することが大事です。エージェントさん、場合によっては採用チームからの「この年収でのオファーじゃないと採用できない」とか、「転職市場ではこのような評価です」というのは、時によっては経営陣は強い気持ちを持って「この年収で承諾してもらえないならそこまで」と決断しなければいけません。オファーを出して終わりではなく、オファーを出すときは入社1~2年後の成長曲線や役割の変化、社内のバランスを考えてオファーの出し方を工夫すべきです。

そもそも論として採用は事業グロースのための施策の一つでしかなく、社内昇格、異動、育成全ての手段の中からの選択とすべきですし、採用せずにグロースできるんだったら絶対にそのほうが良いです。コストも削減できますし、社内のコミュニケーションコストもあがりません。

給与が歪んでいるとなぜ評価が回らなくなるのか

人事システムとして「絶対評価」か「相対評価」の仕組みを用いているかは会社によると思いますが、「絶対評価」のシステムを採用していたとしても、相対比較は絶対に必要です。Bさんが年収500万なら、Aさんはもう少し活躍しているので550万であるべきみたいな会話が必要だからです。

「絶対評価」の制度で相対比較するんですか?という質問を受けたことがありますが、「相対評価」はS評価は3%、A評価は10%と割合を決める制度であり、「絶対評価」はS評価が50%居ても良いという評価制度の形式のことです。「絶対評価」のシステムにおいてもS評価を付けるのが妥当なのかどうかにおいて相対比較は必要であるというのが私の意見です。

CEOや一部の役員にしか年収の根拠がわからない、もしくは発生してしまった給与のゆがみを放置しているとなると、マネージャーや部長はもうメンバー間の相対比較のしようがなく、評価の基準がわからなくなってしまいます。Aさんの方が活躍しているのに、なぜかBさんの方が給与が高いという結果のFBが役員から返ってきてしまうということが起きます。

それでもまだ社長が社員全体のパフォーマンスを把握できる人数規模の時は何とかなります。人数が50人を超えたら社長が全社員の半期のパフォーマンスを把握するなんてことは、全社員と週1で1on1しているとかいうツワモノでもない限り不可能ですし、100人を超えていけば100%無理でしょう。そうなる前に歪みをなるべく解消し、評価の実質的な権限を現場の部長やMgrに移譲していく必要があります

ストックオプションは付与済みのものを修正できないので完全に修正することは難しいと思いますが、人数規模的には20~30人を超えるシリーズAあたりで給与のゆがみの解消に着手し、イレギュラーな報酬体系のメンバーを数えられる範囲に整えることをお勧めいたします。

完全に綺麗にするのは理想論ですが、少なくとも役員間や所属部門の責任者までは完全オープンにして、相互牽制も効くような状態に持っていきたいですね。弊社の評価会議では役員間、部長間で活発な議論が行われ、カウンターパートナーの部長職の意見など反映したうえで評価が変わることが多々あります。毎回真剣勝負なので非常に疲れます。

給与だけでなくSOについてもフェアな制度にする

歪みの原因の1要素であるストックオプションも公平かつオープンな制度にすることによって、より評価の透明性と評価の権限移譲を進めることができます。当社が導入している信託型SOの制度については記事を公開していますのでそちらをご覧ください。当社の評価会議ではストックオプションのポイントについても、全部長にフルオープンです。

給与を歪ませないためにはオファー年収が大事

社内の給与体系を歪ませないために、オファー年収が大事ということ前述したとおりです。
オファー年収の算定方法には正解がないですし、我々も試行錯誤している途中ではあります。違うんじゃない?みたいな意見もあるかと思いますが、それ自体をオープンに議論することで我々自身が解像度を高められたらと思ってます。あくまで現時点での我々の見解です。

職種や役割変更を伴う転職の場合、前職種での市場価値は無視する

まず職種や役割を変える場合の「市場価値」と「社内パフォーマンス」はそもそもズレますよねという話をします。一番わかりやすいのは未経験職種への転職についてです。「戦略コンサル」→「事業会社の経営企画、CXO」、「監査法人」→「事業会社の経理」、「広告営業」→「マーケティング」、「転職エージェント」→「事業会社採用担当」などなど。

前職の同職種同業界で転職すれば市場価値としてもっと高いというのは誰もが同意することだと思うのですが、では転職した後生かせるスキルがどの程度あるかと言えば、場合によっては5割とかになってしまうケースもあります。

社内的な公平性を保つためには「社内で発揮できるであろうパフォーマンス」に対して報酬を用意すべきであり、それを本人にも納得してもらう必要があります。

市場価値を完全に無視することはできない

当社では、監査法人出身者を経理として採用する時に、監査法人時代の給与を無視して、一般的な事業会社経理としてどれぐらいパフォーマンスを発揮できるかの尺度でオファー金額を決めていますというのは前述のとおりです。

一方で完全に市場価値を無視しているわけではありません。転職マーケットにおいて、年収は需要と供給のバランスにより高騰することがあり、市場価値を完全に無視すると特定職種の採用が困難になるためです。

近年では特に開発系技術職の転職市場において、この現象は顕著であり無視できない問題です。この問題は他の職種からは一見歪みが発生しているように思えるかもしれませんが、当社においては市場価値を反映させること自体は歪みではなく、職種内での公平性を担保できるように評価制度を運用できていれば問題ないと考えています。

SOでの給与ギャップ解消への考え方について

ちなみに給与が高い業界から給与を下げて転職してきてもらったからSOを発行するみたいな話もちょいちょい聞きますが、私はこれは報酬を歪める大きなミスジャッジになる危険性があると思っています。

あくまで社内での実績へのリターンとして給与やストックオプションという報酬は用意されるべきであり、業界が違うことによる市場価値の違いにSOでの補填は不要と考えているためです。実績の対価ではない報酬を認めていくと社内の公平性が保てません。

もちろん入社時のストックオプションの付与がダメなのではなく、あくまで給与差額の補填的な意味合いでの付与が危険であるという話です。入社後すぐ期待できるパフォーマンスが1,800万クラスだけど、報酬は1,500万で残りはSO(IPO時に数千万になるような設計)みたいなオファーはありうると思います。

同様にメガベンチャーなどからの転職による給与水準の違いにより、給与ギャップが生まれる場合も同様です。給与水準の高い企業から一般的な企業への転職をする場合、当然給与ギャップが生まれると思いますが、社内パフォーマンス(求める期待役割)をベースに報酬設計をしないとミスマッチが起こってしまいます。

低くオファーをしましょうという話ではない

当たり前ですが低くオファーをしましょうというのは本末転倒で、この記事の意図するところではありません。当然、適正年収でオファーすべきですし、仮にそうしていないのであれば転職マーケットでまけてしまい採用が進まなくなってしまいます。あくまで注力すべきポイントはフェアな年収になっているのか、入社後社内の基準や他の社員と比較して歪みは生じないのかという点です。
なお、当社の場合は特にマネージャー、部長以上の信託型SOのポイントを手厚く用意しており、金銭報酬+株式報酬で給与水準が高い企業と比較しても、魅力的に感じていただけるような体系をご用意しているつもりです。詳細は前述の信託型SOの記事をご覧ください。

一度決めたオファー年収に対しては強い心を持つこと

オファー年収は会社それぞれで考え方がありますし、ほんとに?みたいな高額オファーを出される企業もあります。何度か体験したことがありますが、同時に選考が進んでいる他社企業が一度提示した年収をひっくり返して100万も上乗せするとかの対応もみたことがあります。

この人絶対採用したいから希望年収叶えよう!ライバルより高い年収提示しよう!というのは、ある意味簡単な意思決定です。不適切な年収で採用できたとしても、その先苦労するのは現場と本人です。人事として高い目線と強い気持ちをもって、社内の報酬の公平性を保ちつつしっかりと評価制度の運用をしていきたいと思います。それとはまた別にいつか社内の報酬水準そのものを上げていきたいですね。それはまた別の話。

過去の関連記事はこちら


この記事が参加している募集

人事の仕事

採用の仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?