高齢者の交通事故は増えているのか?

死亡事故、目立つ高齢者のミス」というニュースが出ていました。こういった記事のタイトルは誤解を生みやすい。確かに池袋の母子が犠牲になった交通事故は悲惨でした。都会で他の交通手段があるのに、足がふらつく人が運転する必要はなかったでしょう。

しかしタイトルの答えはNOです。増えているとは言えません。にもかかわらず、高齢者事故ばかりを煽るようにメディアは報道しています。本当の事故率が高いのは20代以下の若い世代なのに。。。

南海トラフ地震を強調するあまり、その他の地域の防災が軽んじられてきたことにも通じる気がします。そこで今回は、公表されているデータをグラフ化して紹介します。この具体的な数字は、e-Stat(交通事故発生状況および交通死亡事故の発生状況)に公開されているものを用いました。


まず、4つのグラフを作成しました。上は事故件数に関するもの、下は死亡事故件数に関するもの。そして左は件数そのもの、右は免許保有者10万人あたりの件数です。2022年の情報です。それを年代別に並べてあります。
一番左側は15歳~20歳、5歳刻みで、一番右側が85歳以上となっています。

わかることは、実際に高齢者に多いと言えるのは10万人あたり死亡事故件数です(グラフ右下)。しかも最も多い85歳以上が10代と変わらない水準です。そして増加するのは70代以降だということがわかります。
死亡に至らない事故件数10万人あたりも、85歳以上の方が20代前半より少ない(グラフ右上)。80代前半が20代後半とほぼ同じレベルです。
そして事故数そのもので比較しても、実は高齢者の事故数は決して多いとは言えないことがわかります(グラフ左上下)。件数で多いのは40代です。これは免許保有者が多いだけでなく、運転機会が多いからかも知れません。


続いて上と同じデータの推移の折れ線グラフです。赤線が85歳以上です。

読み取れることは、事故数(グラフ左上下)は多くの年代で減少傾向にあるものの、高齢者は横ばいであること。但し10万人あたりになおすと高齢者も含めて減少傾向にあることがわかります。

つまり、(1) 高齢者増加により高齢免許保有者数も増加した、(2) 交通事故が全般的に減少傾向である、という2点から、見かけの高齢者の死亡事故が目立っている、と理解できます。

ということで新聞記事のタイトル、「死亡事故、目立つ高齢者のミス」も、本文の記載「運転手が75歳以上の割合は増加傾向」も正しい。

が、運転手が75歳以上の交通事故数が増加している訳でもなく、交通事故は高齢者だけが注意すべきことでもないことを改めて強調したいと思います。


それにしても、物事は1つの数字で単純に理解したと思ってはいけない、様々な側面で情報を見て深く理解する必要があると、今回も感じました。