note用救急車

救急隊について

今回は、僕も所属している救急隊について書きたいと思います。

 救急隊の編成は基本的に3人です。機関員(運転席に座っている人)、隊長(助手席に座っている人)、隊員(後部に座っている人)の体制です。稀に、救急車に乗っているのは医師や看護師ではないのですか?と聞かれることもありますが、全員消防職員です。ドクターカーを運用している消防本部や病院もありますが、そちらの救急車には医師が乗車しています。また別の機会にドクターカーについても書きたいと思います。

 救急隊員は各消防本部で定められた救急に関する専門教育課程を修了しています。救急救命士という資格を有している救急隊員もいます。救急救命士というのは気管挿管や静脈路確保、アドレナリン投与、血糖値測定、ブドウ糖投与などの行為をあらかじめ決められた条件下と状況で医師の指示のもとに行うことができます。救急救命士についてもまた書きたいと思いますので、今回は詳しい説明は省きます。

 ~ 指令から現場まで ~   
 119番通報が入ると、指令課から現場に一番近い救急隊に出場の指令が下されます。指令課が聴取した急病人や怪我人の詳しい情報が無線で伝えられます。その情報を基に隊長が活動方針を立て、隊員に必要な資器材の準備を促します。その間、機関員は現場の住所を確認し、現場への最短ルートを考えます。交通事故などで怪我人が車に閉じ込められている場合や、急病人や怪我人の状態が緊急を要し、重症である可能性が高い場合は救助隊・消防隊も同時に出動することがあります。
現場への道中、119番通報した方へ隊長が折り返し電話をする場合もあります。それは、現場の詳しい情報を直に救急隊が知っておいた方がその後の活動をスムーズに展開していけるからです。救急隊から折り返し電話があった場合は、落ち着いてその問いに答えるようにして下さい。
現場へ急行している際、隊長は道路状況を確認しながら、通行の妨げになる車両への移動などを車外マイクで伝える場合がありますので、一般車両を運転しているドライバーの方はその音声に耳を傾け、指示通りに車の移動をお願いします。「救急車は道路の中央を走行します。左右に分かれて道路中央を開けておいて下さい。」や「救急車は交差点に進入します。車両は一旦停止してください。」、一般車両が道を譲ってくれた際には「ご協力ありがとうございました。」などは僕自身よく言っているような気がします。緊急走行中であろうと、交差点を通行する際などは救急車も必ず、安全確認のため一旦停止し、安全確認後交差点内に進入するようにしています。機関員だけでなく、隊長、隊員全員で安全を確認しながら現場へ急行します。機関員は物凄く神経を使って運転しています。119番通報した方は、サイレンの音が聞こえたら、屋外に出て手を振るなどのアクションをしていただけると現場がすぐに分かりますので、救急隊からするとありがたいです。ただし、急病人の状態が悪く1人にできないような状況であれば、急病人に寄り添うことを優先してください。周りに何名かいるようでしたら、救急車の誘導をする人、急病人に寄り添う人というように役割分担するようにして下さい。
救急隊到着までに、119番通報した方にしておいて欲しいことがあります。それは、急病人の病歴、かかりつけ病院、服用薬の把握や家族への連絡、貴重品や保険証の準備などです。救急隊が現場についた段階ではまだ、搬送先病院は決まっていません。急病人の状態を把握した上で、搬送先病院を選定し、病院へ受け入れの要請を行います。病歴や服用薬は救急隊が病院へ急病人の受け入れの要請をする際に必要な情報です。病院の医師は急病人の基礎疾患(もともと患っている病気)や服用薬なども考慮に入れたうえで治療方針を決めます。また、手術には家族の同意も必要な場合がほとんどですので、家族連絡も重要です。これらの事を救急隊到着までにしていただいていると、活動はスムーズに流れます。

 ~ 現場から病院まで ~
 急病人・怪我人の状態を詳細に観察(血圧・心電図測定、怪我の処置なども)し、必要な情報(急病人・怪我人の氏名、生年月日、住所、病歴、かかりつけ病院など)の聴取を救急隊員全員で役割分担しながら同時進行で進めていきます。必要であれば、家族の同意を得て、医師の指示のもと、救急救命士が様々な処置を実施します。部屋や廊下、玄関などに荷物が山積していると活動の障害となる場合があるので、なるべく整頓しておいて下さい。また、元々基礎疾患があり、救急要請の確率の高い家族が居られる場合は、その方の寝室は1階がいいのではないかと思います。急病人・怪我人の方が歩けない場合は担架で搬送するのですが、2階からの担架による搬送は困難が伴います。何より、2階からの搬送は急病人・怪我人の方本人に心身ともに負担をかけることになります。担架で階段を下りる際には無理な体勢になる場合がほとんどです。
必要な情報を聴取し、必要な処置を行いながら、病院の受け入れ要請も行います。急病人・怪我人の状態に応じた、適切な病院選定を行います。最近では各都道府県でその地域に応じた病院選定の基準が定められており、その基準に基づき病院を選定します。病院選定用のスマートフォンやタブレット端末を導入している地域もあります。救急隊員がスマートフォンやタブレット端末を触っているのは決して遊んでいるわけではなく、必要な情報を打ち込み、病院選定をするためだとご理解ください。この病院への受け入れ要請は場合によっては長い時間がかかることもあります。病院側も救急隊側もこの時間を短縮するために様々な取り組みを行っているところです。どうかご理解ください。
搬送先病院が決まっていない間は救急車はサイレンを鳴らして緊急走行することはできません。搬送先病院が決まればサイレンを鳴らし緊急走行を開始します。搬送先病院が決まっていない状態で通常走行する場合もあります。現場が山間地域で、病院が市街地区にしかない場合などは、病院交渉をしながら、通常走行で市街地区への走行を開始し、病院が決まり次第、緊急走行に切り替えるということはよくあります。救急車内では血圧・心電図測定などのバイタルサインの観察を継続して実施します。急病人・怪我人の家族や関係者の方にはなるべく救急車への同乗をお願いしています。それは、救急車内でも家族や関係者の方から更なる情報の聴取を行い、急病人・怪我人の正確な状況を把握したいからです。また、急病人・怪我人の方の容体が悪化した際、必要な処置の同意を家族に得なければならないからです。病院でもその点は同じで、手術には家族の同意が必要ですし、普段の生活状況などもしっかり伝えられる人を医師や看護師も必要としています。家族が何名かおられ、1名は救急車に同乗し、もう1名は「救急車の後ろから自家用車で付いて行きます」とおっしゃる方も多いのですが、その際、必ず「救急車は緊急走行し、赤信号でも走行しますが、一般車は必ず信号を守って、救急車の後ろを付いてくるということは止めてください」と伝えます。実際、救急車と同じように自家用車で赤信号でも交差点を付いてきた方はいました。その際は、緊急走行中であっても、一旦サイレンを止め救急車を停車させ、付いてくる家族の方が運転している車に行き、付いて来ない様に注意をしに行きます。非常に危険ですので救急車の後を追いかけて付いてくるのは止めてください。また、注意をしに行っている時間が勿体ないです。緊急を要する急病人・怪我人の搬送では1分1秒が命取りになることもあるのです。
急病人・怪我人の方を搬送中の救急車の運転ですが、非常に神経を使います。急がなければならないにもかかわらず、救急車が揺れてしまうと、容体を悪化させてしまう病態などもあります。機関員は相当なプレッシャーの中で迅速で安全な運転を求められます。先ほども書きましたが、救急車を見たならば、またはサイレンの音を聞いたならばすぐさま、道路の両脇に車を移動させ、救急車に道を譲るようにして下さい。
基本的に、救急車は助手席には必ず、救急隊員が座っていますが、稀に、助手席には隊員がいない場合もあります。それは後部で急病人・怪我人の容体が悪化し、処置に人手が必要となった場合です。緊急走行している救急車を見かけた際、前席に運転手しかいない場合は、相当に重度な急病人・怪我人を搬送しているものと考え、より一層の救急車の走行への配慮をよろしくお願いします

 ~ 病院到着から消防署に帰るまで ~
 病院到着後、医師・看護師に急病人・怪我人の状態や事案の概要を説明し、事後を申し送ります。通常走行で、消防署へ引き上げます。引き上げている最中にも救急出場の指令が下命されればそのまま、連続で次の現場へ向かいます。連続出場の下命がなければ、消防署に戻り、報告書を作成し、次の出場に備え、資器材の点検や補充、車内清掃などを実施します。


 以上が救急隊の1事案の大まかな流れです。最近は本当に救急件数が増加の一途を辿っており、1日に20件近く出場する救急隊もあります。連続出場が重なり、昼食を20時に摂ったこともあります。1年間で救急出場件数が1,000件を超える救急隊員もいます。その、1件1件が一つとして同じ状況、同じ病態ということはなく、すべての事案で心身ともにすり減ります。本当に物凄い仕事だなと実感しています。救急隊員が病院の売店などで水分や軽い軽食を購入しているのを目撃されることもあると思います。それは出場が重なり最低限の栄養補給のためやむを得ずだということをご理解いただけるとありがたいです。

最後に少し泣き言を書いてしましましたが、前半部分は一般の方が119番通報される際の参考になるかと思います。長い文章にお付き合いいただきありがとうございました。

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