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第11話 『まめつぶキッコの憂鬱』


① ボローニャ市立サラボルサ図書館

今日はボローニャの中心、マッジョーレ広場に面したアックルシオ宮殿(…舌噛みそう!)の中にあるサラボルサ図書館を訪問してみることにしました。

出入口周辺にはいつも観光客市民学生などがワラワラと溜まっていて、日本の一般的な市立図書館よりは人気がありそうな施設です。

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建物の大きさの割には地味で小さい入口を入ってしばらく歩くと突然、目の前に3階層吹き抜けの巨大なアトリウム空間が出現!

わー、中身すげぇっ!

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外観は恐ろしいほどレトロですが中が急に現代的になるので違和感が半端ありません。いわば古民家カフェ的なサプライズを目指しているのでしょうか?規模からして全然違うので比較対象になりませんけど…。

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このサラボルサはボローニャの市立図書館地上3階、地下2階からなっているそうです。

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1階は職員のいるカウンター、キッズスペースの他、読書の息抜きに使えそうな落ち着いたカフェなども入っています。

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本を借りたい場合は、まず受付のインフォメーションカウンターで図書館を利用するための申し込みをしなければいけません。

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申し込み登録をすると会員証がもらえ、図書館の本を無料利用できる(ボローニャの全図書館で有効)、ボランティアのイタリア人と無料でイタリア語会話が体験できる(※語学指導をしてくれるわけではありません)、図書館内の無料トイレを利用できるようになるなどの特典があるそうです。

ただ、僕らは手続きのための会話もできませんし、そもそも本を借りても中身が一切読めないので会員証は現段階では不要なのでスルーしました。

2階は雑誌などの定期刊行物や新聞を閲覧できるスペースがあり、その奥に各種図書の書架や静かに読書や勉強できる空間が広がっていました。

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大学が近いので学生さんを中心に多くの人が真面目に勉強や調べ物に励んでいます。僕は学生時代に通信簿でオール2を記録したことのある猛者だけに、こういった空間は少々息苦しいのでミスタービーンのような挙動不審な動きをしながら足早に通り過ぎます

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あああああ!間違えた!これはゴーンだった。…まぁ、いいか。

3階にはボローニャ・アーバンセンターがあります。このアーバンセンターとはパネルや模型、映像などでボローニャの魅力や駅周辺の再開発住宅団地の再生といった各種の都市プロジェクトを紹介する展示、会議やワークショップ、ボローニャ大学の授業等が行えるスペースなどが入った施設です。

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…お、おぅ。としか言いようのない、いかにもお役所的なフロアです。

ちなみに地下1階は図書館整備時に発見されたローマ時代の遺跡が部分的に保存修復され、見学できるようになっています。1階ホールの床は一部、透明なガラス張りになっており、足下に遺跡が見れるように工夫されていたりします。

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ただ、遺跡とはいっても単なるゴツゴツした岩みたいなものなので、そんなに驚きや感動はないのですが…もしやコレ、スカートを履いた女性が上を歩いてたら下階の観光客から丸見えになってしまうのではっ!?

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ある意味、この遺跡には驚きや感動、夢やロマンが詰まっているのかもしれない…! (←ねーよ!)

世の中、僕のようなジェントルメンだけじゃなく、変態スチュアートみたいな野郎が地下遺跡に棲みついているかもしれませんので、もしもスカートで訪問してしまった女性ガラス張りじゃない部分を歩くように気を付けてくださいね!

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…さてと、僕は少し疲れたので遺跡の上でしばらく昼寝でもしようかな?

ん? なにか?

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肝心の図書ですが凝った装丁の本がたくさんあって見てるだけでもとても楽しいです。

表紙が自動車のボンネットに見立てて鉄板で作られているイタリアの名車フェラーリの本があったり…

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表紙全面がホログラムになっているギネスブックなんかもありました。こういうホログラム系を見ると僕は世代的にビックリマンシールとか思い出しちゃってテンションがあがりますね。

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児童や幼児向けの絵本なども分かりやすくて面白いです。ここボローニャでは毎年、国際的な絵本の祭典なども行われているらしく、品数も結構豊富にありました。

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…が、やはり何といっても僕の興味は料理の専門書に集中してしまいます。

さすがは料理大国イタリア3フロアのうち1フロアは、ほぼ料理関連の本だけで構成されているほどの力の入れようです。

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地域や素材ごとに詳細に分類された専門書の数々は日本で買える本とは質も量も比にならず、日本のイタリア料理に関する書籍なんて大雑把な紹介程度のものでしかなかったとさえ思えてくるほど衝撃的でした。

ちなみにこういうイタリア料理の専門書って買ったらいくらぐらいするんだろう?と裏カバーの価格表示を確認した瞬間、その金額にまで痛恨の衝撃を受けて石化しました(なお、この本は日本円換算で約8千円でした)。

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妻は絵本やイタリアの漫画本に興味があるようだったので館内では別行動し、僕は2時間ほどひたすらイタリア料理関連の専門書を読みあさり、気になったページを片っ端から携帯カメラで撮影したり、レシピをメモするなどして図書館を有意義にフル活用しました。

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思わず突っ込んでしまったのは寿司の調理法を初めとする日本文化について紹介されている本。いわゆる『ザ・日本』みたいな図解資料で、その紹介内容がいちいち激しく勘違いされているのです。

寿司のレシピではトンカツを酢飯でサンドするという謎の解説があったり、巻き寿司にはサラダドレッシングをかける、サーモンの握りにはレモンスライスをねじってのせる…など完全に創作料理化しています(ある意味、最近の回転寿司にはそんなのもありますけどね)。

やたら威厳のある日本語の筆書体で『食べ方』などと格好よく書いてあるのも笑えます。

ちなみにこちらが寿司という日本を代表する食べ物らしいです。

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…違う何かが違う。むしろ何料理なのか悩めるレベルです。

さらに極めつけは『日本人の食卓』というタイトルで紹介されていたこちらの写真

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いつの時代やねん!今どきこんなヤツ存在しねーよ!
いくらなんでもレトロすぎんだろうがよ、リアル戦時中か!
てか、一番手前の子供の服どないなっとんねん!?
こんな家族おったら国宝級の天然記念物やで!

日本に興味を持っている純粋なイタリア人学生やボローニャ市民がこの図鑑を見て、日本という国を誤解しないことを切に祈ります…。


② ドラゴンボールのキキ

イタリアでは子供から大人まで日本のアニメ作品が大人気です。

フランチェスカ(語学校の先生)によると日本アニメの人気は近年に始まったことではなく20~30年以上も昔からずっと続いているそうで、現状40~50代のイタリア人の多くは子供の頃から日本アニメを見ながら育ってきたと言っても過言ではないのだとか。

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年配の先生もマジンガーZ、銀河鉄道999、リボンの騎士、キャプテンハーロック、ヤッターマン、アタックNo.1、キャンディキャンディ、鉄腕アトム、エースを狙えなど、昭和生まれの僕らからしても古いと感じるアニメの内容を良く知っていましたし、若い世代ではドラゴンボールやワンピース、コナンやジョジョ、エヴァやポケモン、ジブリ作品なんかも大人気です。

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夕方頃にテレビをつけるとどこかしらのチャンネルで日本のアニメが頻繁に放送されていますし、本屋や商店などにもアニメ関連商品が驚くほど多く出回っています。中には微妙にニセモノ臭い類似品も多数存在しますが、それらはおそらく中国などから入ってきた非公式商品をイタリア側はニセモノだと判別できず格安で仕入れて広く流通してしまっているという面もあるでしょうねぇ。もちろん中には確信犯の業者もいるのでしょうけど困ったものです。

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テレビの放送ではセリフのみ吹き替え主題歌や登場人物名などは日本語のままで放送されている場合も多く、イタリア語まみれの番組を何気なく付けていたときに突然『シティーハンター』という日本のアニメが始まって、僕が中学生時代に大好きだったTMネットワークの『GET WILD』が聴こえてきたときは思わず感動しました。それらをイタリア人の子供たちはどのように捉えて聴いてるんだろう…と少し気になったりもします。

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ついでに言うとイタリアのアニメキャラ凄まじい早口で、とにかく良くしゃべります。しゃべりすぎて映像の口パクと大きくずれてしまっていることすら日常茶飯事です。

原画のキャラはあくまで日本語の文章の長さに合わせて口パクするので、そこへ半ば強引にイタリア語訳をはめ込んでいく声優陣と翻訳者はさぞかし大変なことだろうとお察しします。まぁ、それは海外映画を日本語に訳すときも同じなのでしょうけども。

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しかし、ドラえもんなどの可愛い系キャラならともかく、シリアスな二枚目キャラ極悪系キャラが突然『チャオ』と言ったりすると、思わずイスからズリ落ちそうになってしまうこともあり、自分自身もリアルマンガみたいになります。

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ちなみにドラゴンボールの主人公、孫悟空のお嫁さんになる『チチ』というキャラクターがいるのですが、このキャラはイタリアではなぜか『キキ』と呼ばれています。イタリアで放送を見たときは『…え?今、キキって呼んだんじゃね!?』と二度見してしまいました。

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キキ』だと魔女の宅急便になってしまうわけですが、なぜこんな間違いが起こってしまったかというと、おそらく日本から海外のアニメ制作会社向けに届いた英語資料には『チチ』のキャラクター名をローマ字で『Chi-Chi』と記載されていたものと思われます。

確かにローマ字読みとしては間違っておらず、イタリア語は言葉のほとんどがローマ字読みなのですが一部だけ例外があり、『CHI』のつづりもその一つなのです。

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そうです。お察しの通り『CHI』の文字並びを読むとイタリア人は『』と発音するのです。この違いについてイタリア人向けの資料作りをする側の人が理解していれば『Chi-Chi』ではなく『Ci-Ci』と書くことで避けられたミスなのです。または制作関係者の中に一人でもドラゴンボールについて知っている日本人が混じっていれば、日本のオリジナルでは『キキ』じゃなくて『チチ』ですよ!と発音による進言ができたことでしょう。

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かくしてイタリアのドラゴンボールファンにとって日本の『チチ』は『キキ』という名称で完全に定着してしまい、日本とイタリアの文化交流上において重大な支障をきたしております。また、原作者である鳥山明氏の意図したキャラの命名由来牛魔王の娘なので牛に関係したもので女の子っぽい『乳(チチ)』にした)とも大きく乖離しており、下手すれば国際司法裁判所に提訴しなければならない外交上の問題にまでも発展しかねません。関係者には猛省してもらいましょう。

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…あ、そうだ。イタリアのドラゴンボール主題歌って意外にカッコいいんです。You Tubeで見つけたので、ぜひ聴いてみてください。日本のオリジナルも好きですけど繰り返し聴いているうちにクセになる独特の味わいがありますよ。


③ まめつぶキッコの憂鬱

家主のガブリエッラは1匹の年寄り猫を飼っています。

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名前は『キッコ』です。
直訳だと『まめつぶ』や『小さな実』を意味する言葉です。

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結構立派な体格の老猫なのに『まめつぶ』って!?おそらくは粒のように小さかった仔猫時代から飼っていたのでしょう。

もしかしたら日本で言う『おチビちゃん』的な感覚なのかもしれません。いわゆる正式な名前というより、単にガブリエッラが昔からそう呼んでいるだけなのかもですね。

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ガブリエッラは外出する時、普段は屋内で放し飼いのキッコを自分の部屋に閉じ込めて出ていきます。粗相の防止同居人に迷惑をかけないための配慮かと思われますが、そのせいでたまにキッコが部屋の外に出たがって、彼女が帰宅するまでずっと鳴き続けていることがあるのです。

今日もそうでした。

僕は猫が大好きなので全然出しっぱなしでも構いませんし、ずっとキッコが鳴きながらドアをガリガリしていると相手をしてあげたくなります

ですが、僕が勝手にガブリエッラの部屋のドアを開けるわけにはいきませんし、おそらく彼女も部屋は施錠して出掛けていることと思われます。ろくに素性も知らない外国人を自宅に同居させているのですから当然といえば当然のことですよね。

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ガブリエッラが帰宅した際に世間話くらいのつもりで『今日もキッコが寂しがって鳴いてたよ』と軽く話しかけると『あら…ゴメンなさいねぇ。お勉強の邪魔になったかしら?』と言うので僕としては『全然そんなことないよ!』という意思を伝えるつもりで、手を横に振り『ノー、ノー』と笑顔
で応じると彼女は急に表情を曇らせそれは残念だわ…』と暗いトーンで謝り、足早に去っていってしまいました。

あれれ…!?

また何やら望まぬ誤解が生じてしまったようです。

イタリアでは『ノー』と言うと常に拒絶の意味になってしまうのでしょうか?もしかするとガブリエッラには『猫うるさいよ、ありえないよ、勘弁してくれよ!』とでも僕が訴えているような構図で伝わってしまっている!?

だとしたら『なんてイヤな性格の日本人だ!』と思われてそうで誤解を解きたいところですが、今の僕の語学力でそんな釈明などできるはずもありません

ガブリエッラの前で今まで以上にキッコと仲良くたわむれて無類の猫好きをアピールすることで猫へのクレームは誤解だったと察してもらうしかなさそうです。

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ただ、ってこういう人間側が構いたいときに限って冷たく素っ気なくなって離れていってしまうもんなんですよねー。その気ままな特徴は万国共通のようで…。いつにも増して目にヤル気がない

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キッコ本人からしたら『はぁ~、人間の都合なんてどうでもええけど狭い部屋に閉じ込めるのだけは勘弁してくれや…』ってだけの話なんでしょうね。

自由な外の世界
を夢見て、窓際でたそがれるキッコ。その後ろ姿には哀愁すら漂っております。

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《つづく》

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