見出し画像

【広島県立美術館】会期は終わっているけれど

広島県立美術館  春の所蔵作品展

対決! 5番勝負 ―師VS弟子、東VS西


やっとこの記事がかけたー…。

以前このようなつぶやきをした。

とある美術館の所蔵作品企画展示がハチャメチャに良くて興奮している。
興奮が醒めやらないので早く書きたい

この場所のことでした。



特別展ではなく所蔵作品の企画展示、
それもお隣の縮景園とのセット券で、600円という超良心価格設定。
「広島の思い出の一部になればいいな」というくらいの軽い気持ちで訪れたことを反省したくなるくらい、ときめきと満足度の高い企画展だった。

(きっと様々な事情から)特別展に重きが置かれがちな昨今、これほど充実した所蔵作品展を観ることができたのは本当にラッキーだし、私の人生にとって大きな出来事な気がしている。


平日の昼下がりで、お客さんは見た限り私と、ちょっと先を観て回る外国人旅行者1人だけ。
その分、じっくり一作品ずつに興味を傾け鑑賞することができたことも、この満足感大きな要因かもしれないのだけれど。

何にこんなに感動したのか。私の拙い文章ではこれっぽっちも伝わらないけれど、伝えたい。
そういう思いで書いています。


○ 所蔵作品展ならではのごちゃまぜラインナップ

まずこの作品展について。

絵画、工芸、彫刻、そして版画、様々なジャンルの作品を「5番勝負」というタイトルにもあるように、5つのテーマに沿って対決させている。

学芸員ってすごい仕事だなあと感動したのは、
来訪の目的がどのジャンルであっても、
今回のテーマにいつまにか引き込まれているよう、世界観が作り込まれていたこと。
ただ作品を対照的に並べているわけでなく、
どういうところを対決させているのか、なぜ対決なのか、という魅せ方がとても上手なように感じた。
私にとって言えば、「①工芸篇 師匠と弟子」「⑤工芸篇 東と西」としてこの作品展の最初と最後を飾っていた工芸品は、普段あまり興味が湧かない分野であった。
特にその日はとても疲れていたからある程度流し見かな、と思っていたのだけれど(ごめんなさい)、 結局ほとんどの作品の前で足をとめてゆっくりと鑑賞していた。

最後の東西対決こそ、一番シンプルに東西の作家の作品が対となるように展示されていたのだけれど、工芸品に関してはそれが一番見やすく、素人にも分かりやすかった。
陶磁器、ガラス、紬まで、多様なジャンルが一同に会しているのに、決して雑多にならず上品さを保っている。

それとお気に入りの作家さんも見つけた。
「舩木倭帆」さん。彼の吹きガラスの作品は、どれも丸の要素があり、可愛らしく凝ったデザインだ。
それ故、いつか手元においてみたいと感じる愛らしさや親しみやすさがあるのに、一方で手が届かないような高貴さも持ち合わせているように感じた。


○ 吉田 博 「帆船 朝」

さて、この作品との出会いがこのときの興奮の一番の根幹なのだと思う。
間違いなく私の人生を変える作品になった。

大学において(フランス美術ではあるが)美術をかじっておきながら、恥ずかしながら私は「新版画」というジャンルすら知らなかったわたしは、この作品を目の前にしてその場から動けなくなった。というか、動きたくなかった。

旅行のときに訪れたルーブル美術館でも、卒業論文で題材としたロートレックの作品を初めて観たときも、ここまでの衝撃を受けた記憶はない。

新しく、美しく、繊細で儚い。

いろんな海を回っているが、やっぱり瀬戸内海が好きだ。
島影と島影の間をすり抜けるようなあの海には独特の湿った風のなかに、切なさと儚さが漂っていると思う。
そして、その空気がこの作品の中では流れ続けている。


空と海、その中心に帆船。
構図としては単純だが、摺りの色合いでこんなにも美しく空を表現できるなんて、知らなかった。

朝焼けの空は抽象画のように繊細な色合いで、版画である故の強さも感じられる。
凪いだ水面も、水のゆらぎはとても写実的なのに、何故か幻想的で夢の中を表しているよう。

そうそう、この帆船と言う作品は同じ木版を摺りわけていて、一日の様々な時間帯の空を楽しめるのだ。

吉田博の瀬戸内海集がずらりと並ぶその一角を見終わるころ、わたしは思わず落涙していた。

これをきっかけに、どっぷり浸かっている吉田博についてはまた別記事で書こうと思います。


○ 児玉希望 「飛泉淙々」「室内」

新版画の余韻を引きずったまま、日本画の部屋に足を踏み入れた。

私の中ですでに600円の価値を遠に超えていたので、この余韻と一緒に帰ろう、と考えてすらいたのだけど、今度は壁に堂々と掲げられた児玉希望の「飛泉淙々」を前にまた強く惹き付けられる。

豪快な滝の流れに自然の力強さや荘厳さが詰め込まれている。260×145の大画面の多くが緑と強い白を中心に構成されているその作品の横には、同作者の「室内」。同じ作者とは思えないほど、「飛泉淙々」とは全く対照的な作品だ。

洋館の一室、家具や飾られた果物たちは、窓から差し込む柔らかな光に照らされて、すこし不自然なほど彩色豊か。作品概要の“色彩の音楽的調和を試みた”という表現にも心を奪われた。

このゾーンにおける“対決”のテーマは師弟ということで、児玉希望の弟子である3人の画家の作品が同じ区画に展示されていたのだが、
わたしには同じ画家の描くこの2つの作品が一番互いを意識しあっているように強く感じられた。

カラフルで個性的な出で立ちの「伊万里柿右衛門様式色絵馬」二体に見送られながら会場を後にし、心地よい疲労感と心いっぱいの満足感。
それと、素晴らしい作品に出会えたことによる放心状態と興奮状態。
いろんな感情が私の中を席巻し抑えきれない。
アンケートでは求められてもないのにびっしりと興奮と感動で埋め尽くしていた。


悔しいので(?)最後に。
一つだけ惜しかったのがギャラリーショップ!
終わったあと吉田博の作品集やポストカードを買う気満々で行ったら「所蔵作品に関連する商品は取り扱っていない」と申し訳なさそうに言われてしまって、その熱をどこへやったらいいのか、手持ち無沙汰になってしまった。ぜひ今後なにかしら置いて頂けたらいいなあ。
それくらい、素晴らしい作品展でした。

これを会期中に上げることができなかったことは結構後悔している。
いろんな人に楽しんでほしくて、ほんの数ミリでもそれに携わりたかった。
そうなれるか分からないし可能性は低かったと思うけれど、やっぱりなんとなく後悔。

ただ、もともとすべて所蔵作品で構成されているので私もまたこちらを訪れたいと思うし、誰かの広島観光の手助けになったら嬉しいなと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?