見出し画像

【ゴミ映画】JAZZ版イナズマイレブンこと『BLUE GIANT』の感想

※最初に言っておきますが、これは映画も音楽も素人な私が抱いた感想です。この映画を見て感動した人は、わざわざこんな記事を読む必要はありません。


体育会系のマインド

技術より情熱

はっきり言います。これはクソ映画です。

特に、音楽やジャズに詳しい人は、終始意味の分からない展開にイライラし続けることになります。

まず、基本的なマインドが体育会系すぎる。

ジャズを演奏するなら、コードやスケール、楽器や曲の構成など、基本的なことを勉強しないと話にならないのに、「必死に練習すればなんとかなる!」の精神で全てをくぐり抜けてしまいます。

映画の終盤に、ピアニストの沢辺が、ドラム(玉田)とサックス(宮本、主人公)の情熱的な演奏に比べて、「小手先のテクニックしか使っていない」という批判を受けるのですが、音楽的な理屈が一切語られていないので、その違いが一切わかりません。

とにかく、情熱を持っているやつが偉くて、そうでないやつはダメという、意味の分からない理屈で演奏の良し悪しが判断されています。

作品一の才能を持ったドラマー、玉田

体育会系マインドが一番よく出ているのが、主人公の親友でドラムの玉田です。

彼は、主人公に会うまで一切音楽をやったことがないという、まったくの素人です。ですが、ドラムを始めた初日で、エイトビート(ハイハットのみ)をほとんど完璧に叩けるようになります。

これは、どう考えても異常なことです。どれぐらい異常かというと、さんすうを習ったばかりの小学一年生が、因数分解を解いてしまうぐらいです。

この物語では、才能と努力みたいな話がちょくちょく出てくるのですが、その観点で言うと、玉田の才能は群を抜いています。というか、主人公より世界一になるポテンシャルを秘めている人物です。

さらに彼は、ドラムを始めて3日で「電子ドラム」を一式買い揃えます。

ドラムを始めてすぐは、電子ドラムが何かすら分からないと思うのですが、彼はなぜか電子ドラムの特徴を理解し、決して安くないYAMAHAの電子ドラムを購入します。

もはや、どこから突っ込んでいいのかわかりません。

まずはドラムとは何か、本当にドラムを買う必要があるのか、十分に検討するべきでしょう。しかし、それすらも「男の36回ローン!」という意味不明なセリフで吹き飛ばします。

とにかく、ドラム初心者という概念が、一般的な理解とは大きく異なっています。もしかして、異世界の漫画なのでしょうか。

そんな玉田は、ドラムを始めて5か月ほどで、プロレベルに達します。理論的なことは一切学んでいないのに、どうやってここまでの技術を手に入れたのでしょうか。それもおそらく、情熱と努力のおかげなのでしょう。

つくづく、体育会系マインドで溢れかえった映画です。何で誰一人この異常さに突っ込まないんだ?

主人公も熱血

主人公も、中々に体育会系マインドに染まっています。

個人的には、ライブに向けて肺活量を鍛えるために、毎日3時間のランニングを始めた、というのが一番印象的でした。「いやいや、サックス吹けよ」って感じです。

それでサックスが上手くなるなら、道路がサックス奏者で埋め尽くされることでしょう。もしかして朝ランニングしている人は、全員サックス奏者だったりするのか?

自分より10年以上音楽をやっている沢辺に、「お前のソロには情熱がない」と言ったり、「ジャズは情熱の音楽だ」とかいう、どこ目線?と聞きたくなるような独自のジャズ論を展開したりします。

「情熱ってなんだよ!情熱的なソロと情熱的でないソロの違いをきちんと説明しろー!!!」心の中で何度そう叫んだことか。

ピアノの沢辺も、スランプに陥ったときに2日間ぶっ続けで練習するなど、一から十まで体育会系で埋め尽くされています。

沢辺が「君は音楽をバカにしている」と言われるシーンがあるのですが、私から言わせれば、この映画に登場する全員が音楽をバカにしています。

あと、演奏シーンで汗が楽器に落ちる演出が何度もあるのですが、本当に汗とジャズの相性が悪すぎると感じました。そこまでの熱量がない部分で、過剰な汗をかいていたりするのを見ると、部屋の空調が合っていないんじゃないかと思ってしまいます。

あと、単純に汗がいっぱい出てくるのは汚いのでやめてほしいです。

影響力の強すぎる主人公

弱いきっかけ

この映画、主人公の影響力が強すぎます。

玉田がドラムを始めたのは、主人公の影響によるものです。

楽器を一切やったことのない玉田は、その後何の疑問も持たず一年半ドラムを続けるのですが、そのきっかけは主人公が言った「俺の演奏に合わせてリズムを刻んでくれ」という一言だけです。

サックスに合わせてお菓子の箱を叩くというだけで、ここまでの情熱が生まれるのはどう考えてもおかしいとは思わないでしょうか。

ジャズバーを私物化

これよりひどいのは、ジャズバーのママです。

「Take Two」という店名で、客が一切入っていない小規模なバーに、主人公がたまたま訪れます。そこで彼は、ウーロン茶を頼んで帰っただけなのですが、なんとその後、そのバーは主人公たちの練習スタジオ(しかも無料!)になります。

それだけでなく、主人公たちはそこで一日中練習したり、ペットボトルの水を持ち込むという(せめて飲み物ぐらいは注文しろよ)、迷惑極まりない行為をし続けるのですが、全く文句を言いません。

映画の終盤になるまで、ママの姿が映らないこともあり、「主人公たちが殺したのではないか?」と勘ぐってしまいました。しかし、後半になって登場するので、どうやら殺したわけではなく、脅して監禁していただけのようです。

最後、主人公たちの演奏を聞いたママは涙を流します。演奏を聞くだけでフラッシュバックするほど、ひどい脅迫や拷問を受けていたのでしょう。そのシーンは残酷過ぎたのか、映画には映っていません。

主人公の演奏を始めて聞いた沢辺も、感動のあまり涙を流します。確かに上手いのは上手いですが、どれほど良い演奏であっても、名前も知らない素人のソロサックスで泣くことは絶対にありません。

しかも、そこでのセリフは「たった3年、どんだけやってきたんだよ、アイツ・・・」という、実力より努力をほめたたえる、体育会系のルールにしっかり則っています。もうやだ。

全員、異常

理解不能な行動

ていうか、登場人物が全員頭おかしい。

「世界一のジャズ奏者になりたい」という夢を持った主人公は、何の当てもなしに上京します。本当に当てがなさ過ぎて、「なんでこいつは東京に行ったんだ?」という疑問が終始頭に浮かんでいました。

そんな主人公が最初に出会う沢辺というピアニストは、「ジャズで勝ちたい」(ジャズの勝ち負けってなんやねん)と言い、レベルの高いメンバーを求めているにも関わらず、どこの馬の骨かもわからない主人公とバンドを組み、ドラムを触ったことのない玉田もメンバーに引き入れます。

ドラムにドハマりする玉田の異常さは、先に述べた通りです。

他にも、監禁されたジャズバーのママ、なぜか無名の主人公たちの初ライブを許可してくれたマスター(客がまったく入っていないのに、何も言わなかった)、素人バンドに注目し続ける業界の偉い人など、キリがありません。

とにかく、ほとんどの人物の行動原理が意味不明です。

そのせいで、誰にも感情移入ができません。感動するシーンでも、乾いた笑いしか出ませんでした。

演出の問題点

冷める演出

ここでタイトル回収をしておくと、主人公たちが演奏しているとき、イナズマイレブンみたいな壮大なアニメーションが挿入されます。その出来自体は素晴らしいのですが、せっかく演奏を聞いていたのに、過剰な演出をされるせいで、「そこまで強調するほどじゃないな・・・」と素に戻ってしまいます。

さらに、やたらと回想シーンが挿入され、「それと今の演奏関係ある?」とイライラさせられます。

音楽的な良さを、映像が台無しにしているという感じです。音楽に関しては、本当に良いのでもったいないです。

いくらサッカーファンでも、ワールドカップのスーパープレイに安っぽいCG(燃えるサッカーボールとか、光る靴先とか)が加えられたら冷めてしまうでしょう。

そんな演出を入れるなら、「素晴らしいジャズ」みたいなテーマは持ってきてほしくないです。ジャズの誤解を広めないため、どこかよそでやってくれ、と切に願います。

雑な演出

あと、細かい演出が雑すぎる、というのもあります。

ドラムの玉田が必死に思い出した譜面が、コードやメロディの書かれたピアノ、サックス用のものだったり、ジャズの演奏を聞いて、異様に盛り上がる観客(実際に行けばわかりますが、みんな基本的に静かな面持ちで聞いています)しかいなかったりすることなどです。

主人公が一人で練習するシーンで、足でリズムを刻んでいるのですが、さすがにメトロノーム使った方がいいと思います。

主人公の演奏が突っ走り過ぎているのに対し、「ドラムを入れれば、その暴走も落ち着くんじゃないか?」というアドバイスの意味がわかりません。なぜドラムが入ったら、ソロが落ち着くのでしょうか?

物語の冒頭では、主人公がジャズに詳しいという設定になっているのですが、それが活かされることはありません。

主人公のバンドは、オリジナルの曲しか演奏しないというストロングスタイルをとっているからです。(じゃあ主人公はジャズのことを何も知らないけど、やる気だけはある人物にした方が整合性がとれたじゃん!)

オリジナルしか演奏しないジャズバンドなんて、聞いたことがありません。どんな個性の強いバンドであっても、ジャズをやる以上、スタンダードやカバーは絶対に演奏します。

ここまで来ると、原作者やこの映画を作った人は、ジャズの生演奏を聴きに行ったことがなく、ジャズバーにすら行ったことがなく(無料のスタジオと勘違いしてるぐらいですから)、コードが何かについてさえ知らないのでは、と思ってしまいます。

作中に出てくる、音を表現する用語は全て抽象的です。ほんとうに抽象的すぎて、映画を見ても音楽的な知識は一つも得られませんでした。「音楽的なことを無視して、どうやってジャズの良さを知るんだ?」といった感じです。

情熱を見せたいだけなら、サッカーでもやればいいんじゃないでしょうか。

伏線回収の問題点

無理やり挿入される伏線

演出が雑なら、伏線回収も雑です。

初登場のとき、左手だけで演奏していた沢辺が、事故によって右手が使えなくなり、左手で演奏するという演出。しかもその事故の原因は、交通整理のバイトで巻き込まれた事故です。なんで一流ピアニストが、交通整理のバイトやってんだよ!

こんなしょうもない伏線のために、わざわざ事故に遭わされた沢辺がかわいそう。

沢辺の幼馴染で、経済的な事情で教室をやめてしまった女の子が、沢辺の母親とピアノを続ける約束をする。その女の子は、ひそかに沢辺のピアノを聞きに来ていた。これも一瞬しか挿入されず、非常に分かりづらいです。

というか、演奏を聞きに来てるだけなので、ピアノを続けているかどうかは結局不明です。

さらに、最後のインタビュー映像で、「BLUE GIANT」の意味が明かされるのですが、それも「なんか青くてすごいやつ」ぐらいのフワッとした説明ですし、沢辺がエピローグで「BLUE GIANT」という曲を作曲するのも脈略が無さ過ぎて、無理やり感満載です。

ずっと夢だった「So Blue」での演奏が実現したあと、主人公はいきなり「このライブを最後に、バンドを解散する」とメンバーに伝えます。3人の中では、「悲しいけど仕方ないか」みたいな雰囲気で処理されるのですが、なんでここで解散を決めたのか、いまいちよく分かりません。

おそらく、主人公が海外に行くことが関係していそうですが、この段階では決定事項ではないはずです。ずっとやってきたバンドを、こんな一瞬で解散させる理由を考え出すことはできませんでした。

あと、主人公の演奏を無名のときから聞いていた観客が、最後の舞台に全員終結するのですが、搭乗時間が短く、印象も薄い人たちばかりだったので、誰が誰だかって感じでした。

オールスターというよりかは、どこかで見たことある人たちの集まりといった感じです。これは見る側の問題でもありますが、もう少しわかりやすくしてほしかったです。

まとめ

アニメーションや、音楽の質は悪くはないのですが、ストーリーや演出に無理がある部分が多く見られ、全体としては不満な点ばかり目につく映画でした。

原作を知っていると、また評価は変わるのかもしれませんが、フラットな視点で見るとジャズ映画、音楽映画としては駄作だと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?