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ビッグバン・イノベーション – 「一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよ」読みました。テクノロジーによって加速するイノベーションの第四ステージを生き延びるためには。

 面白かった。

 任天堂やシャープ、SONY – 数年前まではエクセレント・カンパニーと絶賛されていたような企業が、たった数年で凋落してしまう。最近、そんなニュースに接することが多くなってきたが、なぜなのか。不思議でならなかった。同じ疑問を少しでも抱いたことがある人にとって、そして、この変化の激しい時代にあってイノベーターたろうとする情熱のある人にとって、本書は必携の書となるに違いない。

 現代は、モバイル・コンピューティングが起爆剤となって、凄まじい加速度でイノベーションの主役交代の歯車が回り続ける時代だ。そんな時代を読み解くカギが、著者のラリー・ダウンズらが提唱するビッグバン・イノベーションだ。

― ビッグバン・イノベーションとは「安定した事業を、ほんの数か月か、時にはほんの数日で破壊する新たなタイプのイノベーション」である。

 ビッグバン・イノベーションをもたらす最重要の要素技術は、ムーアの法則によって指数関数的に性能と価格の両面で改善し続けるIT技術である。ビッグバン・イノベーションは予想外のところから「よりよく、より安い」サービスとして現れる。そして、とめどない成長によりそのセグメントのあらゆる顧客を奪い、既存の業界に大きな混乱を引き起こす。著者らによって最初に引き合いに出されるのが、20世紀を通じて少数の老舗企業による寡占状態であった道路地図の制作・販売が、無料のグーグル・マップによって一夜にして駆逐されたエピソードだ。しかし、地図業界に関わらず「もはや巻き込まれずに済む産業はない」と言う。何故なら、「今日の事業はいずれにしろ、デジタル事業だからだ」。規制産業の代名詞である医師や弁護士などの専門職や、電気やガス、水道や道路などのインフラ産業も、ビッグバン・イノベーションの波から逃れることはできない。

 モバイル・コンピューティングによって、ユーザーが市場でほぼ完全な情報を手に入れ、製品に対する評判が一瞬で世界を駆け巡る時代に、イノベーションの本質は劇的に変化したようだ。より早く、よりオープンに、より破壊的になったビッグバン・イノベーションによる製品のライフサイクルを、著者らは次のようにビッグバン宇宙論に擬えて解説する。

ステージ1: 特異点 – ビッグバン宇宙論において「特異点」は、「物質と熱とエネルギーとが超密度に圧縮されて、ブラックホールをつくる」と考えられている宇宙空間の仮説上の点を指す。(中略) イノベーター企業は市場でじかに実験を行い、何度も失敗する。(中略) 行き当たりばったりに見えても、失敗した実験はその実、間もなく訪れる変化のシグナルである。

ステージ2: ビッグバン – 特異点は最初、直径ほんの数ミリだったかもしれない。ところが、内部の熱と圧力の増大によって物質が爆発して宇宙を創造し、今も宇宙は膨張し続けている。同じように、初期の実験が技術の絶妙な組み合わせとビジネスモデルをもたらすとき、実験は新たな市場を創出し、あらゆるセグメントの顧客が破壊的製品やサービスに殺到する。

ステージ3: ビッグクランチ – ビッグバンの後、宇宙のエネルギーは四散する。(中略) ビッグバン・イノベーションの内破は、早い時期に訪れる。あらゆるセグメントの顧客が一斉に雪崩を打つため、市場は記録的なスピードで飽和に達する。破壊的製品やサービスは成熟期を迎え、イノベーションは漸進的になり、成長速度も落ちる。このステージで産業は一種の死を迎える。

ステージ4: エントロピー – ビッグバン宇宙論によれば、崩壊する宇宙の物質とエネルギーは再び集まり、新たなかたちを形成する。 (中略) 手元に残った、ほとんどがかたちのない資産は、砕け散って新たな特異点を作り出す。

 最初はやや乱暴に感じた宇宙論の比喩が、本書を読み進めるうちに腑に落ちる。僕たちにとって身近な多くの日本企業が、ビッグバン宇宙論のフレームワークによって丁寧に読み解かれている点も良い。

 マイケル・ポーターに始まる企業戦略論は、「イノベーションのジレンマ」による第二ステージを経て、「ブルー・オーシャン戦略」としての第三ステージに続いた。そして、本書による「ビッグバン・イノベーション」に至る。この第四の波を知ることが、現代を生き延びるあらゆるイノベーターにとって、生き残りに必須の知識となるに違いない。

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