見出し画像

[オリンピック]90分を制すには?メキシコ戦から考える「武器の活かし方」~U-24日本代表vsU-24メキシコ代表~

 全文無料公開。面白いと感じていただければぜひ投げ銭200円お願いします。

はじめに

 今回取り上げるのは東京オリンピック・サッカー、U-24日本代表対U-24メキシコ代表の試合です。日本が持ち味の「ゴールへ向かっていく速さ」を前面に押し出す戦いで幸先良く2点を先制。しかし、後半途中からは11人対10人の数的優位となりながら終盤に失点を喫し、1点差に。それでも何とか逃げ切り2連勝を達成しました。
 「試合の終わらせ方」についてはインターネット、SNS上でも盛んに議論が繰り広げられているかと思いますが、日本のストロングが非常によく現れた試合でもありました。
 この記事では、日本の武器『ゴールへ向かっていく速さ』について、二つの観点から考えていきます。一つは、戦術面の良さ。もう一つは戦略面の脆さです。

 もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

第1章 スタメン

スクリーンショット 2021-07-27 15.42.03

 上図は両チームのスタメンです。日本は1-0で勝利した南アフリカ戦から三好⇄相馬のみの変更。フォーメーションも同じ4-2-3-1を採用しました。
 対するメキシコは、ベースは4-1-4-1。守備の際はIHを出して4-4-2気味でプレッシングをかける場面も見られました。

第2章 先制点に直結した『ライン上』

 まず一つ目の観点は、戦術面における「ゴールへ向かっていく速さ」の効能についてです。日本が開始5分で奪った先制点に、日本の特徴が如実に現れていました。

スクリーンショット 2021-07-27 15.42.11

 中央から右の酒井(2)へボールを回し、酒井から堂安(10)へのスルーパスで一気にDFラインの背後へ侵入することに成功。堂安はワンタッチでクロスを折り返し、マイナスで久保が合わせてゴールイン。
 一連の素晴らしい攻撃の中で、言及したいのは「堂安のランニング」です。なぜなら、堂安は相手MF-DFラインの「ライン間」ではなく、相手SB-CBの「ライン上(正確には左SBのライン上)」に立ち位置を取った状態からランニングしたからです。(ここでいう「ライン上」は相手DFラインのライン上。その中でも、SB-CB間もしくはSBの外側(タッチライン側)を指す。詳細は『川崎の流動性に隠された、「立ち位置」のロジック~2021 J1 8節 川崎vs大分~』)
 「ライン間」と「ライン上」はほんの少し、数mの差です。ひょっとすれば、「ライン間」の方がより多くの相手を引きつけられるため効果的かもしれません。
 しかし、「ライン上」に立ち位置を取れば、「ヨーイドン」で相手DFの背後を突くことが可能です。ヨーイドンですから、スペースへ直進しているFWの方が反転する必要のあるDFよりも有利です。
 これが「ライン間」から相手DFの背後へランニングするとなると、DFに距離的なアドバンテージが生まれてしまいます。それから、立ち位置の時点でDFの方が前(ゴール方向)に立っているため、ボール保持者は心理的に裏へのスルーパスを狙いづらい。仮にパスを出せる状況であったとしても、「選択肢が隠れている」ように感じられるからです。
 他にも良かった点は多くあるのですが、堂安が「ライン上」の立ち位置を取っていたことが先制点の突破口を切り開いたことは間違いありません。親善試合スペイン戦では久保が同様の立ち位置からの裏抜けで何度もチャンスメークしており、使用されている言葉は別にしてもチーム内で「裏を突くための立ち位置」について共有がされている可能性も十分に考えられます。

 注意してもらいたいのは、「ライン上」が良くて「ライン間」が悪いという話ではないことです。物事はトレードオフですから両方にメリットとデメリットが存在しますし、どちらか片方ではなく両方をバランスよく組み合わせることが重要です。
 それにもかかわらず、「ライン上」という概念(とりわけ相手DFラインのライン上)は日本ではほとんど議論されていません。現代サッカーにおいては、ボール保持の重要性もさることながら縦への速さも必須要素となっています。「ライン間」を使うだけでは相手DFの背後を突くことが難しく、スピーディーにゴールへ向かっていけない。「ライン間」に立つだけで相手が食いついてくれる時代ではなく、「ライン上」をうまく使えていないチームが引き込まれて打つ手なし→カウンターを打たれて終わる。既にこんな時代にシフトしているのです。
 従って、「ライン間」ばかりでなく「ライン上」を効果的に活用し、縦への速さを「論理的に保証」することが現代、そして数年後のサッカーにおいてゴールを奪う鍵となるはずです。それは、Mシティやチェルシーなど非常に洗練された攻撃を展開するチームを見ても明らかです。

第3章 「ゴールへ向かっていく速さ」のカタチ

 続いて、戦略の観点から日本の武器である「ゴールへ向かっていく速さ」の脆さについて見ていきます。
 メキシコ戦で露呈した戦略面の弱点は、一言で言えば「緩急の欠如」でした。
 日本は、試合開始から試合終了まで、「ゴールへ向かっていく速さ」を前面に押し出したアグレッシブなスタンスを貫き通して戦いました。受け身にならず常に自分達から仕掛けていく、というマインドセットの意味では良かったのかもしれませんが、その一本槍で押し切れる試合はそうそう存在しません。事実、メキシコ戦の後半も数的優位と2点リードを抱えながらハラハラドキドキの試合になってしまいました。更には、前半の中盤くらいから既に一本槍の脆さが表面化していたと個人的には考えています。
 堂安がPKを決め2-0とした後、2点ビハインドを背負い攻めるしかないメキシコに対して日本はミドルプレスで対抗しました。前述したマインドセット面と、ずっとハイプレスを続けるわけにはいかないという体力面の折り合いをつけた結果だと思います。
 しかし、親善試合スペイン戦、グループステージ第1戦南アフリカ戦でも露呈したように日本の「ボールを奪う仕組み」はあまり洗練されていないし、試合開始直後のハイプレスほどのインパクトはない。以上二つの要因から、プレスを掻い潜られる場面が増えていました。
 結果、前半の時点で、①思うようにボールを奪えない→②奪ってもひたすらにゴールを目指すのですぐにロスト→③もう一度守備(①②の繰り返し)というサイクルに陥っていました。
 このサイクルは後半になっても解消されず、メキシコが退場者を出し10人となった後も「ゴールへ向かっていく速さ」の一本槍で戦い、自ら危険な展開を招く形となりました。
 森保監督も何も手を打たなかったわけではありません。69分には相馬を下げ前田を投入、79分には林、堂安に代え上田、三笘の二人をピッチへ送り込んでいます。以上の3人に選手交代(特に前田の投入)から読み取れるのは、「スタンスは変えない」というメッセージです。メキシコが退場者を出した後に森保監督から「やることを変えるな」という旨のコーチングがあったことを踏まえてもこれは確実でしょう。
 私は森保監督のアプローチはダメだ、とは考えていません。チームにとって「ゴールへ向かっていく速さ」という絶対的な武器は不可欠ですし、これまでのチームづくりの文脈を考慮すれば納得の選手交代ではないでしょうか。
 しかし、前述したように自分達の強みを押し通して戦い切れる試合はほとんど存在しません。そしてトーナメントで強豪相手に勝利し金メダルを獲得するには「試合巧者」であることが絶対条件です。
 そのため、「ゴールへ向かっていく速さ」の色は残しながらも、戦況に応じもう少し柔軟な対応が求められました。何も、「ゴールへ向かっていく速さ」は自分達がプレッシングを行い続けないと発揮されないわけではありません。ブロック位置を下げ、相手の勢いを吸収してこそ武器の鋭さが増す局面だって十分に存在します。
 常に同じテンポで試合を進めるのではなく、「緩急」をつけて戦う。メキシコ戦なら、前半終了までは2-0で終わらせるために一旦撤退し、ロングカウンターの脅威を見せつけておきつつ相手の勢いを吸収し守りを固める。そして、後半開始から時間帯限定で再びハイプレスを実行し、もう一度相手にサプライズを与えてトドメの3点目を狙う。こういった試合運びも可能だったと思います。
 また、後半に関しては中盤あたりで三好を投入し、チーム全体のスタンスは変えないが少しボール保持、ゲーム・コントロールの色を強めるピッチへそのメッセージを発信する。これもオプションの一つだったでしょう。退場者を出した後は無傷で試合を終わらせることが重要になったため、尚更三好投入の意義はあったのではないかと考えます。

 前述した通り、チームづくりの観点から見て「ゴールへ向かっていく速さ」なんていいからもっとボール保持!というのは効果的でありません。
 しかし、戦況に応じて「ゴールへ向かっていく速さ」を最大限に表現できるカタチは流動的に変化していきます。これまで培ってきたものを最大限に活かすためにも、戦術レベルではなく戦略レベルでの試合中の修正、武器の見せ方の微調整が必要になってきます。

おわりに

 ここまでの内容をまとめると、メキシコ戦では「ゴールへ向かっていく速さ」の戦術面の良さが序盤の最高の展開に繋がった一方、戦略面の脆さが試合を難しくしてしまった。
 中2日での連戦が続く今大会、戦術面で新たな落とし込みを行うことは不可能なので、戦略面で「ゴールへ向かっていく速さ」のカタチを操れるか否かが最大のキーポイントになるはずです。つまり、森保監督をはじめとしたスタッフ陣が如何に試合を動かし、或いは膠着させるか。勢いに乗ればダイナミックかつクリエイティブで破壊力抜群のサッカーを見せるチームなので、期待を持って今後の試合も見ていきましょう。

 最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

ここから先は

123字

¥ 200

この記事が参加している募集

最近の学び

ご支援いただいたお金は、サッカー監督になるための勉強費に使わせていただきます。