ワトフォード対リバプール_1

ワトフォードが示した首位攻略法。キーワードはリバプールの「右」~ワトフォード対リバプール レビュー~

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先日発売されました「フットボール戦術批評」にて、「戦術クラスタ史上最年少"13歳のサッカー戦術分析"の頭の中」というタイトルでライプツィヒの分析記事を書かせていただいています。ご興味あれば、ぜひご一読ください。

今回は、プレミアリーグ無敗で首位を独走していたリバプールを3-0で撃破して見せたワトフォードのリバプール対策を分析していきます。
残留争いの真っ只中であるワトフォードですが、ナイジェルピアソン監督指揮のもと、非常に勇気のある戦いを披露しました。

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序章 スコア&スタメン

ワトフォード 3-0 リバプール
ワトフォード:54'サール 60'サール 72'ディーニー

ワトフォード対リバプール 1

ワトフォードは、フォスター、キコ、カバセレ、キャスカート、マジーナ、サール、ヒューズ、キャプー、デウロフェウ、ディーニー、ドゥクレの4-4-2でこの試合に臨みました。
一方のリバプールは、アリソン、アレクサンダー=アーノルド、ロブレン、ファンダイク、ロバートソン、チェンバレン、ファビーニョ、ワイナルドゥム、サラー、フィルミーノ、マネの11人でおなじみの4-3-3システム。

第1章 ワトフォードの戦略

スタメンを確認したところで、早速試合の分析をしていきます。まずこの章で取り上げるのは、ナイジェルピアソン監督が準備していたリバプール対策の骨組みの部分となる基本戦略についてです。

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ワトフォードは先述のように4-4-2システム。自陣にブロックを組んでリバプールを待ち構えるスタンスです。いわゆる「ドン引き」。ボールを完全にリバプールへ預けて、低い位置で守備を行い、カウンターアタックを虎視淡々と狙います。

しかし、

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驚くことに試合開始から10数分が過ぎたあたりで、ワトフォードは4-4-2から4-5-1にシステムを変更しました。4-4-2の守備にそれほど問題が生じていたわけではなかったですし、10分過ぎという非常に早い時間帯でシステム変更を決断したということは、恐らく「システム変更を試合前から準備していた」のだというのが僕の見解です。
4-5-1だと後ろに人数をかけますので、リバプールのビルドアップに対してプレッシャーをかけ、攻撃を妨害する守備はしにくい。そのため立ち上がりはディーニー、ドゥクレ(9,16)の2トップを採用して少し相手CBファンダイク、ロブレン(4,6)にもプレッシャーをかけ、立ち上がりから下がり過ぎてしまうことを回避しよう。ピアソン監督はこのような考えだったと推測します。

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先に記述した通り、ワトフォードは「ドン引き」。その守備戦術を採用するにあたっての主目的は「裏のスペースを消す」ことでしょう。ペナルティエリアの手前までDFラインを下げ、裏のスペースを消すことで、リバプールの武器である「ロングボール攻撃」「アーリークロス」を抑える狙いでした。
普段の試合ではファンダイク(4)、ジョーゴメス(12。この試合では離脱)から配球されるロングボールでサラー(11)やマネ(10)がスペースへ飛び出し、チャンスを作っているリバプール。SBのロバートソン(26)、アレクサンダー=アーノルド(66)からの高精度のアーリークロスも非常に武器になっていましたが、ワトフォードが極端に裏を消したので、ロングボール&アーリークロス攻撃は全くと言っていいほど繰り出せず。
ロングボールやアーリークロスは、長身FWを最前線に起用しているチームなら話は別ですが、リバプールは長身FWがいないため裏やエリア内のスペースを消された状態だと中々効果は見込めないのです。
この対策により、リバプールはロングボールが使えない。ロングボールが入ってこないと当然サラーやマネのスピードは生かされませんから、リバプールはロングボールという前進の手段を失っただけでなく、「スピード」という武器も失ったことになるのです。

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また、「ドン引き」というキーワードで察知した方もいるかもしれませんが、立ち上がりの10数分を除いて、ワトフォードはリバプールの2CBファンダイク、ロブレン(4,6)には完全にボールを持たせました。
しかし、中盤の3MFファビーニョ、ワイナルドゥム、オックスレイド=チェンバレン(3,5,15)がボールを持った時には、自チームの3MFキャプー、ヒューズ、ドゥクレ(29,19,16)の一人が必ずプレッシャーをかけます。プレッシャーをかけると言っても、奪いに行くためのプレッシャーではなく「ライン間に侵入させずにブロック外へ追い出す」ためのプレッシャーです。
3MFが徹底してライン間にフィルターをかけ、パスを出させなかったことで、サラー(11)、マネ(10)のスピードだけでなく、フィルミーノ(9)のチャンスメイク能力も発揮させませんでした。
もしかすると、相手の中盤にプレッシャーをかけても、2CBファンダイク、ロブレンにプレッシャーをかけてないのなら、2CBからライン間に縦パスを通されてしまうのでは?と思った方がいるかもしれません。その危険はあまり警戒しなくても実は大丈夫です。
なぜなら、リバプールの2CBは、縦パスを通すプレーが得意ではないから。普段のリバプールの試合を見ると、リバプールの2CBは裏のスペースへロングボールを蹴り込むシーンはあっても、ライン間に立つFWに縦パスを通すシーンは中々ありません。
理由としては、「担っているタスク」が挙げられます。リバプールの2CBは、リスクを背負わず、シンプルにプレーすることが第一に求められています。そのため持ち運んだり、縦パスを狙うのではなく、近くのACやIH、SBにノーリスクのパスをつけます。
「低い位置で不用意にボールを奪われたくない」や、「サラーやマネといったスピードのある選手がいるんだから、後ろで無理に繋ぐくらいならロングボールを使ったほうが良い」という考えがあってそのようなタスクをCBが担うことになっているんだと思います。
だから、リバプールの2CBは縦パスを通すプレーが得意ではない、もしくは選択しないのです。そのため、ワトフォードからすると、3MFにさえプレッシャーをかけていれば、裏のスペースも消しているから2CBは放置して良い、となるのです。

このように、4-4-2から4-5-1へのシフトチェンジと、「裏のスペースを消す」「ライン間にフィルターをかけつつも、CBには持たせる」ことがワトフォードの基本戦略でした。第2章では、より具体的にフォーカスします。

第2章 緻密に練られた「相手右サイド」での勝負

第1章では試合開始早々のシステムチェンジと、自陣低い位置に引き込んで裏のスペースを消すことの意図を分析しました。
第2章は、ワトフォードの仕掛けたリバプールの右サイドでの勝負について。

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上図に示したように、ワトフォードは左右非対称な守備を行っていました。自チームから見て左サイドのWGサール(23)はSBロバートソン(26)、SBキコ(21)はWGマネ(10)を対象にマンツーマンでつきます。一方で右サイドのWGデウロフェウ(7)、SBマジーナ(11)はマンツーマンではなくゾーン対応。
この意図は、「相手の左サイドを封鎖し、右サイドから攻めさせる」でした。
HS(ハーフスペース)に入るマネにも、高い位置を取るロバートソンにも常に密着マークがついているので、リバプールからするとその二人にパスを出しにくい。右サイドのサラー(11)とアレクサンダー=アーノルド(66)にはマンツーがついておらず、特にアレクサンダー=アーノルドは余裕のある状態(サラーはFWなのでかなり警戒されている)。それなら自然と受け手に密着マークがついている方よりもついていない方から攻撃しますよね。そっちの方が危なくないので。
また、左サイドを封鎖することで、「サイドチェンジによるダイナミックな幅を使った攻撃をさせない」効果もありました。

では、なぜワトフォードはリバプールの右、自分達の左から攻撃させたかったのでしょう?
その理由は「カウンターアタックで優位に立つため」でした。

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リバプールは、右と左で構造が少し違います。その違いは「SB裏のケア」。SBのロバートソン、アレクサンダー=アーノルド(26,66)は両方高い位置を取るので、そのSBの背後にはスペースが空きます。
ボールを奪われた場合、左サイドはロバートソンの裏のスペースはIHワイナルドゥム(5)が斜めに下がってケアするので相手のカウンターでロバートソン裏を使われて攻め込まれることを防げます。
では右サイドはどうでしょう。右側のIHを務めるオックスレイド=チェンバレン(15)はワイナルドゥムと違い、積極的に前線へ飛び出し、攻撃参加をする選手です。そのため高い位置を取るアレクサンダー=アーノルドの裏をケアすることはできません。よって、アレクサンダー=アーノルドの裏のスペースは、CBのロブレン(6)がサイドに出てケアしなくてはならないのです。
また、対人能力に非常に長けた世界最高峰のCBであるファンダイク(4)が「いない」サイドがリバプールの右、自分たちの左サイドであることも影響していると思います。
まとめると、SB裏をIHがケアできる左サイド、CBが出ないといけない右サイド。スピードがあり対人守備が抜群のファンダイクがいる左サイド、オープンスペースでスピード勝負をされると少し厳しいロブレンの右サイド。ワトフォードからすると、カウンターアタックを仕掛けるには「相手の右サイドからが良さそうだ」となるのがわかっていただけたかと思います。

第3章 ワトフォードのカウンター戦術

第2章ではワトフォードがリバプールに右サイドから攻めさせた理由は、カウンターアタックで優位に立つためだったことを分析しました。第3章では、ワトフォードがボールを奪った後、どのようにカウンターを仕掛けたのか、ついて。
まだ4-4-2で守っていた時間帯ですが、10:40~のシーンを用いて解説します。

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まず、CB間に下がって受けた相手ACファビーニョ(3)に対して、CFディーニー(9)が右サイドを消しながらプレッシャーをかけ、狙い通り左サイドの相手CBロブレン(6)へパスを出させます。次に、ディーニーのプレスに連動してCFドゥクレ(16)が前に出てロブレンに寄せます。そして、ロブレンが出した相手WGサラー(11)への縦パスを予測していたWGデウロフェウ(7)が内側に絞ってインターセプト。

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デウロフェウ(7)がインターセプトした直後にドゥクレ(16)はタッチライン側へ開き、デウロフェウからパスを受けます。そのドゥクレにロブレン(6)が対応しますが、2CB間をランニングしたディーニー(9)にスルーパスを出し、ロブレンを突破。

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抜けたディーニー(9)は、パスを出してからスプリントでゴール前に向かったドゥクレ(16)へグラウンダーのクロス。ワイナルドゥム(5)にカットされたものの、通っていれば1点というシーンでした。
この一連のカウンターアタックの中で、キーとなるのは、ドゥクレ→ディーニーのスルーパスが出た場面です。

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ファビーニョ(3)からパスを受けた流れでタッチライン際で対応することになったロブレン(6)に対して、ドゥクレ(16)とディーニー(9)で2v1の数的優位を作り、ドゥクレでロブレンを引き付けて、ディーニーがフリーの状態でスルーパスを受けています。
このように、ロブレンに対してディーニー+もう一人(主にドゥクレ)で2v1を作って優位に立ち、カウンターアタックでゴールに迫る狙いがあったのです。
このシーンは違いますが、ディーニーがロングボールを受けた時にも、素早くドゥクレなどが加勢して2v1を作れることで素早く落としのパスを出すことができ、スピードアップができていました。

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なお、後半は右サイドだけでなく左サイドもマンツーマンにし、より守備的な戦い方へ。その上で3ゴールを奪い、リードをきっちり守り切ってクリーンシートで完勝。非常に緻密に練られた戦術はもちろん、試合終了まで絶えなかった運動量があってこその勝利でした。

第4章 リバプールがもっと引き起こしたかった現象

最後に第4章では、試合中に現象として起きていた「ワトフォード攻略の鍵」について。

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上図はリバプールが4-2-3-1にシステムを変更した後の65:18~の再現です。低い位置で受けた右SBアレクサンダー=アーノルド(66)がエリア内にアーリークロスを放り込み、2ndボールを拾った左CHララーナ(20)が左足でシュートを放ち、クロスバー直撃というシーンでした。
このシーン、なぜララーナが2ndを拾って、シュートを打てたのでしょう?
答えはアーリークロスによってワトフォードの3MF(16,29,19)が押し下げられたからです。アレクサンダー=アーノルドからエリア内へクロスボールが入ったことによって、相手はエリア内まで下がらなくてはなりません。そのため、下がったことによって下がる前の元の立ち位置が空きます。上図を見ればわかるように、DF(4人)+MF(5人)の2ラインがエリア内まで下がったのでペナルティエリア手前にスペースがあります。そのスペースにララーナが立ち位置を取っていて、そこに2ndボールが来たので、ララーナはワトフォードのMFが寄せ切る前にフリーでシュートを放つことができたのです。
4-4-1-1のように、MFラインの前に人(トップ下)を配置できるシステムだと、4+4がアーリークロスなどで押し下げられても、押し下げられたことで空く手前のスペースをトップ下が埋められるので、2ndボールを4+4の手前で拾われてフリーでシュートを打たれるような事態を多少防ぐことはできます。
しかし、この試合のワトフォードは、トップ下を置くのではなく、4-5-1でフラットにMFを3人配置することで、よりライン間へのフィルターを強化して、相手にゴール前でスペースを与えないことを優先しているので、DF+MFが押し下げられると手前がガラ空きになるのです。

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押し下げた手前を狙うなら、もう一つ意識したいポイントがあります。それは、相手のクリアの方向です。
例えばタッチライン際深い位置からの、ゴールラインにほぼ並行なクロスだと相手はクロスが入ってきた方のサイドに向かってクリアできてしまうので、なるべくペナルティエリア手前のスペースへ向かってクリアさせるように誘導したい。体の向きがペナルティエリア手前、つまりゴールラインに垂直な方向へ向いていれば自然とクリアはその方向へ向かいやすくなります。
ですから、65:18~のシーンのようにできるだけ中央から放り込むのが効果的だったのかなと。そのためには、SBを常に高い位置へ固定するのではなく少し低めの位置に配置すると良かったと思います。
第3章で記述したように相手はSBにマンツーマンをつけていますのでそう簡単にクロスを上げられる状態にならないことが見込まれますが、65:18~のアレクサンダー=アーノルドのようにCBと同じくらいの高さまで下りてくれば相手から離れて受けることが可能です。
ララーナ個人は常に3MFが押し下げられたことで空く手前のスペースを狙っていましたが、個人が分かっていてもチームでそれが共有されないと、ゴールを奪うのは難しいので、ベンチのスタッフ主導での戦術的指示が必要でしたが、最後までそれはできず、無得点での敗戦に終わりました。

終章 総括

第1章
・ワトフォードは序盤に4-4-2から4-5-1でシフトチェンジ。
・自陣に引いて裏のスペースを消し、相手の「ロングボール」「スピード」を封じる。
・相手MFにはプレッシャーをかけ、ライン間へのフィルターとなるが、CBには持たせる。
第2章
・リバプールの右サイドで勝負。
→カウンターで優位に立つため。
理由①:ロバートソンの裏はワイナルドゥムがケアするが、アレクサンダー=アーノルドの裏はロブレンがケアしないといけない。
理由②:ファンダイクがいない。
第3章
・ボールを奪ったら、ディーニー+もう一人でロブレンに対して2v1を作り、優位な状況でカウンターアタックを仕掛ける。。
・後半は左サイドもマンツーマンにし、より重心を下げた。
第4章
・リバプールがワトフォードを攻略するポイントとは?
・アーリークロスなどで3MFを押し下げ、その手前を使う。
・中央よりからのクロスだと、相手のクリアを空いているペナルティエリア手前に誘導できる。
・ララーナ個人はそれに気づいていた。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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