3-0が必然と言える理由。トゥヘルの策略とワガママ軍団~PSG対レアルマドリー レビュー~[UCL GroupA-1]

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フランス王者パリが、「エル・ブランコ」ことレアルを3-0で撃破。今回は開幕したUEFAチャンピオンズリーグのグループAの第1節、パリ対レアルを分析していきます。ネイマール、カバーニ、エンバッペの3人を欠いているパリはどのようにベイル、ベンゼマ、アザール、ハメスといったタレント軍団レアルを叩きのめしたのか。やはりトゥヘル監督の素晴らしい準備、試合中の戦術的修正がありました。

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序章 スコア&スターティングメンバー

パリサンジェルマン 3 : 0 レアルマドリー

パリ 14'ディマリア 33'ディマリア 90+1'ムニエ

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両チームのスターティングメンバーを見ていきましょう。ホームのパリは、システムは4-3-3でナバス、ムニエ、Tシウバ、キンペンベ、ベルナト、マルキーニョス、ゲイエ、ヴェラッティ、サラビア、ディマリア、イカルディの11人とトゥヘル監督がチョイスしました。

アウェーのレアルもシステムは同じく4-3-3でクルトワ、カルバハル、ヴァラン、ミリタン、メンディ、カゼミーロ、ハメス、クロース、ベイル、ベンゼマ、アザールの11人をジダン監督がスタメンに選びました。

第1章 前半の「アザール攻撃」に対して後半のトゥヘル

ではまずはパリの守備、レアルの攻撃の局面から分析していきます。

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まずレアルは、WGのベイル、アザールがライン間ILにポジショニングするため、幅を担うのはSBになるわけです。右のカルバハルはしっかりと高い位置を取って幅をもたらすことが出来ていましたが、左のメンディは低い位置を取っていて、幅を取れていないシーンが目立ちました。後半の頭はしっかり高い位置を取れていましたが、試合終了までコンスタントに高い位置を取れていたわけではありませんでした。2-3-5システムになるはずだったけど「5」になれていなかった、という感じですね。

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その攻めるレアルに対して守るパリは、4-1-4-1で守備的プレッシング。CFのイカルディまでが自陣に下がり、ブロックを組みます。キープレイヤーを抑えるためのマンツーマン守備は採用しておらず、完全なゾーン守備です。

では前半に多く見られたレアルの攻撃の形を紹介します。

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パリは、ライン間右ILにポジショニングする左WG(7)を「誰がマークするのか」が定まらず、(7)をフリーにしてしまっていました。且つ、プレッシングは全く行っておらず、相手のDFラインやAC(14),IH(8,16)は後方で自由にボールを保持することができており、縦パスの出し手に制限をかけて縦パスを入れさせない守備も出来なかったので、何度もライン間左ILで(7)に縦パスを受けられ、前を向かれて仕掛けられる、というシーンがありました。

そこからレアルはチャンスを作り出すことができていて、前半は特別ボールを保持する時間は長かった訳ではないですが、順調に攻撃することが出来ていたと思います。

しかし敵将はトーマストゥヘルです。前半に何度も起こっていた現象を放置しておくわけがありません。案の定、トゥヘルは後半の頭から戦術的修正を施してきました。

その修正がこちら↓

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まず一つ目ですが、マークを明確にしました。ライン間左ILで縦パスを受けようとする左WG(7)に対してはSBがつくようになり、相手SBにはWGがついて行くようになります。前半からWGが下がってSBと二人でサイドを守る姿勢を見せていたのですが、よりSB,WGのマークが明確になり、対応がしやすくなったことで前半のようにフリーで(7)に縦パスを受けられることは無くなり、相手の重要な攻め手を封じ込めました。

そして二つ目は、「プレッシングをかける回数を増やした」ことです。後半も、自陣に4-1-4-1でブロックを組んで守備をするスタンスは変わっていないのですが、自陣にブロックをセットしたところから前線がスタートを切ってラインを上げ、ゾーン2,3でプレッシングをかけていき、レアルを自分たちの守るゴールから遠ざけ、より目指すゴールに近いエリアでボールを奪おうとする回数を増やすことで、縦パスの出し手の方にも制限をかけ、パスを出させないようにしていました。

この「WG(7)に対するマークを明確にする」「プレッシングによって縦パスの出してを消しに行く」という前半に欠けていた要素を見事にトゥヘル監督はハーフタイムに付け加えてきたのです。この戦術的修正は、「必要なものを全て揃えた」と言える素晴らしい修正でした。

そのパリに対するレアルはどうだったのか。結果はパリのトゥヘル監督の戦術的修正によって「アザール」という攻撃戦術を失い、攻め手を無くして逆襲を測ることが出来ませんでした。もちろんベイルの個人技など他の形からもいくつかチャンスを作ってはいたのですが、一番多くのチャンスを作り、可能性を感じさせたのは「アザール」でした。その「アザール」という一番効果的だった攻撃戦術が抑えられてしまうと、その他の再現性の高い攻撃戦術を持っていなかったので何もできなくなってしまったのです。途中からバスケス、ヨビッチ、ビニシウスを投入するのですがその選手交代に具体的な戦術的メッセージは込められておらず、ただ単に選手を変えただけではレアルの選手に引けを取らないクオリティを持つ選手を揃えていて、組織的に守備を行うパリ(組織的であってもクオリティで上回れば質的優位で解決できてしまう)を崩し、複数得点を奪うことは不可能でした。

アザール、ベイル、ベンゼマ、ハメス、ヨビッチ、ビニシウス、イスコなど、ワールドクラスのタレントを揃えてはいるものの、組織性に欠ける脆さを露呈することになったこの試合のレアル。しかし、元々レアルは細かい部分まで戦術を落とし込んで戦うチームではなく、選手を意思を尊重しなくては監督が生き残っていけないチームですので、今後も戦術的に組織されたチームになることは期待できません。

第2章 トゥヘルの定めた的確な狙い所

では続いてパリの攻撃、レアルの守備の局面を分析します。

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攻めるパリは、SBが高い位置に上がって幅を担い、WGがライン間ILにポジショニング。2CB+3MFの5人でビルドアップする、2-3-5システムです。パリはレアルとは違い、両方のSBが常に高い位置を取ることが出来ていたので、両サイドで幅を使った攻撃をしていました。

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守るレアルは、4-5-1のブロックを自陣に組みます。こちらもパリ同様プレッシングは行わず、フィールドプレーヤー全員が自陣にポジショニングをしてパリの攻撃を待ち構える姿勢。

ただパリと違うのは、パリはACのマルキーニョスがIHよりも下がったポジショニングをして独立したラインを形成していましたが、レアルはACカゼミーロがIHのラインに加わって、5枚のMFラインを形成して守っていたところです。

ではそのレアルに対してパリのトゥヘル監督はどのような準備をしてきていたのか。トゥヘル監督は、明確に狙い所を設定していました。

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その狙い所は、相手WG(7,11)です。レアルのWG(7,11)は守備における貢献度が著しく低く、プレッシャーをかける守備もコースを切って特定のエリアに相手を誘導する守備もしない。レアルの守備の大きな穴となっている相手WGをトゥヘル監督は狙い所にしたわけです。

守備貢献度が低い相手WGのラインを突破するのは容易なことで、相手WGの背後のSBにパスを送り込むことで前進していくという狙いがありました。

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そしてSBにパスを送り込んで幅を使うことが出来たら、レアルのSBがそこに食いつきますので、ILが空く。WGがILランでスルーパスを引き出してクロスを折り返す、という形で崩すことをトゥヘル監督は考えていたんだと思います。

レアルが幅を取ったパリのSBにSBが食いつくのに加えて、ILランをしたWGにもCBが引っ張られるので、その段階まで到達できれば、相手のエリア内の守備は手薄になるとトゥヘルは分かっていたのかな、と思います。

ではここでそれが分かるシーンとして、14分の先制シーンをピックアップします。

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レアルのクリアを前に出てキンペンベが落下点に入ってベルナトにヘディングパス。そして受けたベルナトはCFポジションではなく、左側にポジショニングしたイカルディとのワンツーでサイドを攻略し、マイナスに折り返し。ディマリアが左足で決めた、というシーンです。

このシーンで明確に得点に直結したのが、レアルのクロス対応です。CFのイカルディに右CB(5)が対応するも奪えず、サイドを攻略され、エリア内は(5)が欠けて手薄になっており、左CB(3)がニアをケアしようとするも間に合わず、フリーでディマリアがフィニッシュ。あっさりSB,CBがサイドに引っ張り出されて中央にスペースを空け、流石に左CB(3)一人で対応するのは難しすぎた。上記のようにパリにサイドを崩すされた時のエリア内の守備がとても手薄になって失点したことが分かると思います。

ここまでが、トゥヘル監督の準備していたプランでした。しかし、この試合のトゥヘル監督はもう一つ仕掛けを準備していたのです。

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60分にイカルディを下げてシュポモティングを投入。単純にCF同士を入れ替える交代かと思いきや、シュポモティングは左WGに入り、それまで左WGだったディマリアがCFに起用されます。60分まではCFのイカルディが相手DFラインを押し下げて深さを取る役を担い、時々1得点目のようにパスを納めてポストプレーで起点を作っていましたが、左WGのシュポモティングがサイドから相手DFラインを釘付けにして深さを取り、ディマリアは左サイドを中心に低い位置に顔を出し、偽9番としてプレーするタスクに。

このようにトゥヘルは選手交代後、二種目の攻撃戦術を見せたのです。そしてこの采配は、3点目にわかりやすく効果が表れます。

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上図のように、ムニエが後半与えられたタスク通りライン間左ILでパスを受けようとする左SHへの縦パスをカットし、下りてきたディマリアへ。そしてムニエはそのままオーバーラップしてスルーパスを受け、最後はベルナトとのSB同士のパス交換から3点目を奪いました。このシーンではディマリアが下がってきてパスを受けることによりカウンターがスタートしているので、ディマリアの偽9番起用が当たったと言えますよね。

このトゥヘル監督の二種の攻撃戦術によって3点を奪われたレアルですが、そこまで守備が破綻したのは何故でしょうか。

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それは、「ワガママな選手が多過ぎることで組織性が大いに欠けている」からだ、と僕は考えます。

この試合で狙い所にされたようにWGのアザール、ベイルは守備をしないですし、ベンゼマも守備タスクは請け負っていない。加えてハメスも常に献身的にプレーできる選手ではないし、クロースも守備者として優れた能力を持っているわけではない。というように実質守備者としてチームに貢献できるのは、4バック+カゼミーロの5人くらいしかいません。しかもSラモスはこの試合出場停止で欠場している。となると、いくら4バックとカゼミーロが守備者として優れていたとしても、5人では守れないですし、ましてや相手はレアルの選手に負けないクオリティを持っていつつ組織的な攻撃戦術の下プレーをするパリ。これだけ守備が破綻したのも当然と言えるでしょう。

IHにモドリッチを起用するであったりとか、WGにはバスケスを使うなど、どこかでCL3連覇時のレアルは補完できていましたが、今はその汚れ役があまりにも少ない。解任説が囁かれているジダン監督がいつまでレアルで指揮を取るのか未知数ですが、もう少しバランス重視の起用をするべきだと思いました。

終章 総括

パリ
・守備では4-1-4-1で自陣にブロックを組む。
・前半は、ライン間右ILにポジショニングする左WG(7)のマークが定まらず、何度も(7)に縦パスが入って前を向かれていた.
・だが、後半になり、トゥヘル監督が修正。①(7)に対するマークはSBが担い、相手SBにはWGがついていく。②プレッシングによってパスの出し手を消す回数を増やす。
・トゥヘル監督の素晴らしい戦術的修正により、後半は見事にレアルの攻撃を封じ込めた。
・攻撃では、狙い所を相手WGに設定。WGの背後のSBにパスを送り込むことは容易で、そのルートからビルドアップ。
・SBに送り込んで幅をとることができれば、WGがILランでスルーパスを引き出し、クロスを折り返してフィニッシュを狙う。
・WGがスルーパスを受けることが出来れば相手のエリア内の守備は手薄になる。→1得点目にわかりやすく表れている。
・60分にイカルディに代えてシュポモティングを投入し、シュポモティングが左に張ってDFラインを釘付けにして深さを取り、ディマリアが偽9番となった。→トゥヘル監督の準備していた二種目の攻撃戦術。
・3点目は、ディマリアの偽9番がカウンターのきっかけとなっている。
レアル
・攻撃では、WGがライン間ILにポジショニングしてSBが幅を担う2-3-5システムだが、左SBメンディは幅を取ることができていないシーンが多く見られた。
・前半、ライン間左ILにポジショニングするアザールに縦パスが入ったところからチャンスを作り出していた。
・しかし後半、パリの戦術的修正によって「アザール」を封じ込まれてしまう。
・ジダン監督はバスケス、ヨビッチ、ビニシウスを投入するが、戦術的なメッセージは与えられておらず、パリの守備を攻略することは出来なかった。
・守備では、4-5-1で自陣に守備的プレッシングで構える。
・パリの攻撃戦術にあっさりハメられ、エリア内の守備が手薄になって先制点を奪われる。
・守備時の貢献度が高くないワガママな選手が多過ぎる。守備者としてプレーできる選手が実質4バックと+カゼミーロの5人しかおらず、大黒柱のSラモスをサスペンションで欠場。
・5人しか守備者がいない&大黒柱が出場停止では、パリ相手に守りきれなかったのは必然だと言える。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!リクエストがあればツイッター(@soccer39tactics)のリプライ、下のコメントにでもお書きください。

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