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湘南対磐田 レポート ~磐田版ポジショナルプレー対情熱とレジスタ山根~ [2019J1リーグ第6節][2019年4月マンスリー分析①]

「全然やってねえのに切れんじゃねえよ!!攻撃だけやって取られて守備しねえで、それで切れてるんじゃねえ」

「やってるよ!!」

皆さんもこのやり取りを記事で見たことがあるかもしれません。映像で見た人もいるかもしれません。このやり取りは、湘南の2018シーズンのクラブ公式DVDに収録されていた、アウェーの清水戦で敗れた後のロッカールームでの秋元と梅崎のやり取りです。

このように選手間でオープンに意見を言い合えるムードが湘南はあるチームです。4月は湘南のリーグ戦を、2回見ることはできませんがマンスリー分析として見ていきます。

今まで、マンスリー分析としてホッフェンハイム、ライプツィヒを欧州サッカーから取り上げてきました。4月は、マンチェスター・シティを取り上げようと思ったのですが、シティの4月のスケジュールは常に週二で試合があるので、それではJリーグを書けない、ということで、5月にすべてをまとめてペップ・シティ分析を書くとして、4月はJ1から湘南ベルマーレを見ていきたいと思います。

最初は第6節、まだ勝利のないジュビロ磐田とのBMWスタジアム平塚でのホームゲームです。

(ここから使う戦術図の中の、菊池の「地」が「池」になっておりました。湘南サポーターの皆様、菊地ファンの皆様申し訳ございません)

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ハイライトはこちら↓

2019シーズンのJ1リーグマガジンはこちら↓

前節も湘南について書きました。↓

ゴール 湘南ベルマーレ 0 : 2 ジュビロ磐田

ジュビロ磐田 72’オウンゴール 90+5’ロドリゲス

スターティングメンバー 

まずはスタメンからです。ホームの湘南は負傷によってCFを務めていた山崎に代わって指宿が入りました。それ以外は前節の清水戦からメンバー変更はなし。アウェイの磐田は、前節のホーム鹿島戦からのメンバー変更はなし。しかし、WBの松本と小川大のサイドが違いました。松本が右WBです。

湘南・守備 磐田・攻撃 ~磐田のポジショナルプレーへの解決策~

まずは湘南の守備、磐田の攻撃から行きます。

上図のように、湘南は5-4-1でブロックを組み、磐田は3-4-2-1なので、噛み合わせが完全にハマるミラーゲームとなります。

しかし、この3-4-2-1システムでセットする磐田ですが、可変システムを用いて優位に攻撃をしようとしていました。

磐田のポジショナルプレー

このように、左ボランチの森谷がDFラインに下りて、左右のCB(高橋、大南)がサイドに開いて4バック化し、3-4-2-1から4-1-5に可変します。

では、この4バック化によって得られる効果を、図で見ていきましょう。

この図のように、可変せずに3-4-2-1のままの場合は、このように相手のSH(武富、梅崎)+CF(指宿)の3トップ、2ボランチ(松田、菊地)でのプレスハメられてしまいます。

ですが、4バック化したことで、3トッププレスには4対3の数的優位を獲得。そして田口が一人で中盤を担うアンカーとなるので、2ボランチに対しては噛み合わせをずらし、マークを曖昧にし、田口がフリーになる事ができます。

このように4バック化することで、数的優位に加えて、数的優位を獲得しているということはフリーの選手ができている、相手のシステムとの噛み合わせをずらしている、ということなので、同時に位置的優位を獲得したことになります。

そして、4バック化したことで噛み合わせをずらし、4バックからパスコースを作り出した田口に渡して第一プレッシャーラインを突破。そうすれば、フリーの田口から、ライン間のアタッカーにパスを入れ、コンビネーションかWB(松本、小川大)の攻撃参加を使ってインサイドレーン裏に進入して崩す。

このような攻撃を磐田は今シーズンから取り組んでいます。

ではこの磐田の攻撃に対して湘南がどのようにして守ったのか、を次に見ていきます。

湘南の守備

まずは先ほど用いた図をもう一度ご覧ください。

このように、磐田が4バックに可変したので、湘南は噛み合わせがずれ、プレッシングが上手くはまらない構造になっていました。

ですが、湘南の曺貴裁監督はシステムを変えるなどの修正はしませんでした。ではどのようにして解決していたのでしょうか。

上図のように、システムは5-4-1から変えず、その時々で臨機応変に自分の担当マークを変えて、無理矢理ハメ込んでプレッシングを行っていました。

これは、個々の選手の判断能力が高くないと上手くいきません。誰かが足を引っ張ることなく、フリーの選手が生まれていなかったので、どの選手もとても戦術理解度が高いな、と感じました。

また、戦術理解だけでなく、それぞれの選手のデュエルの強さリトリートの早さ、そしてシュートを頭を出してブロックしようとした松田のプレーのような根性で、ボールを奪えたシーンも多く、ここにも湘南らしさが表れているな、と思いました。

湘南・攻撃 磐田・守備 ~レジスタ・山根~

ではこの章では湘南の攻撃を分析します。

湘南は、ある程度DFラインでポゼッションをしようとはしますが、とはいえそこまでショートパスを繋ぐわけではなく、縦志向の強いダイレクトなビルドアップを行います。

なので、3CBの小野田、フレイレ、山根から積極的に縦パス、ロングボールを入れることがビルトアップにおける重要なコンセプトとなっています。

ですが、3CBのプレーには、違いがあります。左CBの小野田は、あまり持ち運ぶプレーを試みることはなく、自重します。中CBのフレイレは、中間という感じで、それほど積極的ではありませんが、縦パスやロングボールを試みます。そして最後に右CBの山根について。この山根が、一番積極的です。積極的に持ち運び、ライン間への縦パスを狙います。

そして、相手にプレッシャーをかけられても持ち運んで縦パスを入れるところまで到達できるという能力も持っています。

山根は、ピンポイントのロングボールを蹴れたり、トリッキーなタッチ等で相手のプレッシャーを華麗に交わすことができる選手ではありませんが、ここまで紹介したように何度も持ち運んで縦パスを通すことプレーをできる選手なので、いわゆる司令塔のような選手がいない湘南のレジスタ、プレイメーカーと言えると思います。

では次に縦パスが入った後の、ポジショナルな攻撃のフェーズ(崩しのフェーズ、ラスト30mのフェーズ)でのコンセプトを紹介します。

まず3CBから縦パス、もしくはロングボールが入り、それを納める、セカンドボールを拾う、ということがとても重要で、崩す上での前提条件となります。そして、落としを他の選手が受けると、ボランチも飛び出してスピードアップし、速攻に移ります。

速攻に移行すると、崩してゴールを奪うを目指す上で、湘南には2つのプレー原則があり、選手が状況に合わせて判断し、選択します。

その選択肢が上図に示したように、コンビネーションでの中央突破と、WBのオーバーラップを使ったクロス攻撃の2つです。

まず1つ目のコンビネーションでの中央突破について。ボランチの菊池や、松田(松田の方が攻撃参加の回数は多かった印象です。)も攻撃参加して指宿や梅崎らを追い越してDFライン裏に飛び出します。そのような後方からの攻撃参加もありながら、ショートパスを繋いで、スルーパスからDFライン裏に進入して、クロスを入れる、というものです。

2つ目のWBのオーバーラップを活用してのクロス攻撃は、読んでいる方も想像しやすいかと思いますが、オーバーラップしてくるWBに展開し、WBのドリブル突破からの(もしくはダイレクトで)クロス指宿をターゲットとしてそのまま指宿のヘディング、指宿からの折り返し等でゴールを狙います。

また、この2パターンは完全に分かれているわけではなく、コンビネーションからWBに渡してクロス攻撃、という場合ももちろんあります。

ここまで書いた流れの攻撃で、ゴールを狙います。

湘南 攻撃の課題

この章で書いているように、ダイレクトな攻撃をする湘南ですが、そのダイレクトで、縦へのスピードを求めるからこその課題も見えました。

それは、無理に相手がマークしているのに中央にボールを入れて、奪われてカウンターを受ける、というシーンが何度か見られた、ということです。

もちろん縦へのスピードというのは求められていると思いますが、何でもかんでも縦に速くプレーするべき、ということではありません。

縦に行くべき時はスピードを上げて行かなくてはなりませんし、縦へのパスコースがなかったり相手のリトリートの方が早くてスペースがなくなっていれば、縦に行くことが間違いである場合もあります。

なので、「縦へのスピードを意識してプレー」というコンセプトがあるわけですが、結局はその場の選手の判断に託されているわけで。

その判断という部分で、間違った判断をして、ピンチを招くシーンが複数回あったというのは、課題だと思います。

データ分析 ~湘南の左サイドの攻撃を紐解く~

今回から新たにデータで試合を読み取る章を追加したいと思います。

(データの引用元:Football LAB)

まずは、両チームのプレーエリアから。1枚目が前半で、2枚目が後半です。

磐田はハーフライン付近のエリアが濃くなっていますので、後方で長い時間ボールを持っていたことが分かります。しかし、ゾーン3のエリアはとても薄いので、ビルドアップで前進して、ゴールに近いエリアまでボールを運ぶことは出来ていなかったということが示されています。

湘南の方は、前後半共に左サイドに比重を置いてプレーしており、左サイドのゴールに近いエリアでプレーできていたことが分かります。

今回は、この湘南の左サイドの攻撃をデータで分析していきます。

では、その左サイドの攻撃の核を担う杉岡のスタッツを中心に見ていきましょう。

今シーズンのここまでの杉岡は、CBPポイント(プレーの起きたエリアのシュート到達率とそのエリアのプレーの難易度で評価)のクロス部門でリーグ8位(1試合平均0.49ポイント)で、クロスはJ1リーグで高いレベルを持っている選手です。

そして、この試合でも攻撃ポイント(クロス、パス、シュートのCBPポイントの総合値)は田口に次いで2位。そして、クロスポイントは今シーズンの1試合平均とほぼ変わらない0.48ポイントなので、杉岡のクロスの質は落ちていません。

また、3枚目の画像に示されていますが、攻撃のCBPポイントは、ここまでの6試合で2番目に高い数値です。

ここまでのデータを見ると、杉岡のプレーの質は落ちていませんし、むしろ他の試合よりも良いパフォーマンスということが分かります。

では、なぜ良いパフォーマンスをしていた杉岡のいる左サイドに比重を置いて攻撃したのに、点が取れなかったのでしょうか。ここでその答えとなるデータを紹介します。

(左が湘南の数値、右が磐田の数値です)

このデータから分かるように、クロスは10本入っています。ですが、成功率は10%。つまり1本しか成功していない、ということです。つまり、クロスの多くは、磐田の選手にカットされていたと推測することができます。

なので、クロスは入っているが、受け手の方が合わせることができず、相手にカットされた、ということが良いパフォーマンスをしていた杉岡が核を担っている左サイドに比重を置いて攻撃しながら、点を取れなかった原因と言えます。

では最後にこちらのデータもご覧ください。

奪取ポイント(相手の攻撃アクションからボールを奪い、自チームの攻撃に繋げたプレーにポイントが付与される)の上位3人は、全員磐田の選手で、その3人の中に、3CBを形成する高橋と、WBの松本が入っています。

そして、守備ポイント(相手のプレーの成功を阻止した場合に、自チームの攻撃に繋がらなくても、成功した時に攻撃側に付与されていたポイントがそのまま守備側に付与される)は、磐田の右CB大南が他の選手に1ポイントの大差をつけて1位となっています。

このように、磐田のDF陣が湘南の効果的な攻撃を分断するプレーを多くしている、という数字が出ていますので、このデータからもクロスが、磐田のDFにカットされていた、ということが推測できると思います。


試合は、72分に右WBの松本が大外レーンでボールを受けたところで大久保が斜めにランニングをし、松本がそこにスルーパス。大久保が納めて松本にリターンを渡し、右インサイドレーン裏に進入した松本が杉岡を抜いてグラウンダーのクロスを入れ、それが小野田に当たってオウンゴールで磐田先制。

その後、湘南がレレウ、斎藤、大橋を入れ、4-2-3-1に変え、その後フレイレを上げてパワープレーを仕掛けます。そして、90+5分FKを獲得し、GK秋元も上がって何とか1点返そうとします。ですが、ボールを磐田のGKカミンスキーがキャッチ。そして、とても大きくスペースが広がっている前線にロングスローを投げ、速い速いロドリゲスが長距離をスプリントしてハーフライン辺りからロングシュートを決め、ダメ押し。2-0で磐田が今シーズンリーグ戦初勝利を掴みました。


総括

守備 磐田が3-4-2-1から4-1-5に可変して、数的優位を作り、噛み合わせをずらしてくるが、個々の選手の判断能力の高さで臨機応変に担当マークを変え、無理矢理ハメ込んでプレッシングをかけた。そして、判断能力だけでなく、デュエルの強さ、そして根性でボールを奪えたシーンも多かった。

攻撃 ダイレクトな、縦志向の強い攻撃をする。3CBから積極的に縦パスを狙うが、3CBの中でも個々人でプレーが違う。左CB小野田は自重し、中CBフレイレは積極的と自重の中間、右CB山根は積極的に持ち運んで縦パスを狙う。また、相手にプレッシャーをかけられながらも運んで縦パスを入れるところまで到達できる選手で、湘南のレジスタと言える。だが、これチームの問題であるが、無理矢理中央にボールを入れてカウンターを受けるシーンが複数回あった部分は課題である。

ここまで書いたように、攻撃で判断ミスからカウンターを受けるシーンがあったとはいえ、内容は決して悪くなかった。しかし、左サイドに比重を置いて攻めますが、クロスを磐田のDF陣にカットされ、シュートに持ち込めませんでした。そして磐田に少ない決定機から先制され、終盤にはGK秋元も上がってのFKから逆襲を受け、0-2敗戦。公式戦連勝は3でストップ。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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